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第181話 旧帝都よりヌティス城へ

どうも、ヌマサンです!

今回はヴィクターとの模擬戦を終えた翌日の話。

そして、今日はバレンタインということもあり、甘めの話も盛り込んでみました!

どんな一日になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第181話「旧帝都よりヌティス城へ」をお楽しみください!

 ヴィクターとの模擬戦を終えた翌朝。道場内にある宿泊施設で一泊したアスカルも目覚めの時が訪れる。


 模擬戦での疲れもあったのか、睡眠というより気絶に近い形で眠りについたアスカルだったが、まだ完全に疲れは取れておらず、体にダルさが残留していた。


「とりあえず、今日のうちに出発しないといけないわけだし、荷支度もしておかないといけないな」


 まだ横になっていたいというだらしない己に喝を入れ、体を起こす。意外とベッドから離れると、横になりたいという想いは薄まっていくもので、少し室内を荷物整理のため動き回っているうちに意識もハッキリしてきた。


 そんな折、ドアの方からノック音が二度ほど聞こえてくる。このノックの力加減といい、二度叩く際のリズムといい、すっかり旅の間に慣れてしまったアスカル。もはや、誰が訪ねて来たのか、ノックの音だけで分かってしまっていた。


「ティナか、入って大丈夫だぞ」


「あら、よくワタシだって分かったわね」


「まぁ、何となくそんな気がしただけだ」


 ノックの音だけでティナが来たと分かってしまったことに恥ずかしさもあり、部屋の入口に背を向け、顔も合わせようとしないアスカルを見て、ティナはフッと笑みがこぼれる。


「今日のお昼ごろにトリテルテアまでの馬車が出るみたいだから、その時間に間に合うように出発しようって伝えに来ただけ」


「そうか」


「……ここ、座ってもいいかしら?まだ話したいことがあるから」


「ああ、構わないぞ」


 キチンと許可を取ってから、アスカルが先ほどまで寝ていたベッドに腰掛けるティナ。ちゃんと許可を取るあたり、アスカルへの配慮がうかがえる。


「それで、話したいことってなんだ?」


「お礼をちゃんと言いたくて。ワタシみたいなワガママな女のために、ここまで追いかけてきてくれたこと。感謝しているわ」


「……そうか。まあ、ノーマン殿からの頼みだし、詳しい事情を聞いた手前、断るわけにもいかないしな。そ、それに、元々フランユレールを目指していたから都合が良かっただけだ」


「ふ~ん、要するについでってことね」


「そうだよ。ついでだ、ついで!」


 早口でごまかそうとする姿を滑稽に思ったのか、ティナは声をあげて笑い始める。その笑い声に、アスカルの顔は赤みを増していく。


「ついででも、追いかけて来てくれてありがとう」


 笑い声も収まり、静寂に包まれる室内においてティナの感謝の言葉はしっかりとアスカルの耳にも届いた。そうして、ティナの足音がアスカルから遠のいていき、ドアに手をかける音が聞こえた直後、足音が停止する。


「……ティナ、どうかしたのか?そんなところで立ち止まったりして」


「だ、大好きよ。アスカル」


 アスカルからの問いには答えず、短く、しかし衝撃的な言葉を言い残していったティナ。


 バタン!と勢いよく扉が閉まる音を聞いてなお、アスカルは呆然としていた。頭の中で、ティナの口から洩れた衝撃的な言葉がグルグル駆け巡り、無意識のうちに反芻する。


 せっかく順調に手荷物をまとめていたアスカルだったが、そのティナの言葉で、作業どころか動作自体が停止してしまっていた。しかし、何時間も固まったままということにはならず、ものの数分で意識を取り戻したのだ。


「ティナのやつ、今なんて言ってた……?オレのことが大好き?はは、何かの聞き間違いだろう。朝からこんな幻聴を聞くなんて思わなかったな」


 まるで自分に言い聞かせるように、独りごちるアスカルなのであった。自分でも空耳でないことは分かっているが、現実のこととして認識できない、いやしたくないのだ。


 それからは自分の心を落ち着けるように、『幻聴』という言葉を何十回と繰り返しながら、現実逃避するように手荷物をまとめていき、作業自体はあっという間に終わってしまうのだった。


「そうだ、今日の日課も済ませておこう。まだ馬車の時間まで余裕もあることだし、煩悩を退散させてくるとしよう。そうだ、それがいい」


 何かの病気にかかったように独り言を繰り返す様は異様である。だが、幸いなことに、未だ誰にも目撃されていないため、『アスカルの様子がおかしい』と噂が広まることはなかった。


 アスカルは何事もなかったかのように道場で素振りを行い、朝の旧帝都フランユレールを走り、一汗かいた状態で部屋に帰還。


 朝から素振りをし、体力づくりのために奔っている様子を見たヴィクターやアナベルに、若者が懸命に頑張る姿はいいものだと感じさせていたのだが、2人に目撃されていたとは知らないアスカルなのであった。


 汗をぬぐい、魔剣ヴィントシュティレを手荷物の近くに置いたところで、再びドアがノックされる。叩く力も先ほどより強く、さらには回数も3回。


 ノックする音が聞こえた時、肩をビクッと跳ねさせたアスカルだが、音と回数が違うことに気づくと、ホッと胸を撫でおろしていた。


「はい、どちら様でしょうか?」


「アスカルか?俺だ、ベルンハルトだ」


 ベルンハルトだと名乗る声は、間違いなく昨日の模擬戦のあたりで聞いた声と同一。その声を聞き、安堵する自分がおかしく思えてくる。ともあれ、アスカルは何事もなかったかのようにドアを開き、ベルンハルトを招き入れた。


「今日で帰ってしまうんだってな。帰る前に、少し話したいと思ってきたんだが、迷惑だったか?」


「いや、そんなことはない……です」


「フッ、敬語はやめてくれ。敬語なら本来、年下の俺が使わなければならないものだ。年上のアスカルが使う必要はない。そうだな、ティナと話しているように自然に接してくれると嬉しい」


「そ、そうか。それじゃあ、慣れない敬語口調はやめさせてもらうとしよう」


 ぎこちない敬語口調をやめ、かしこまった態度も改める。すると、不思議なほどに落ち着いてベルンハルトと話すことができている自分にアスカルも気づくことができた。


 やはり、慣れない敬語を使ったり、変にかしこまったりすると疲れる。そんな話をどこかで聞いたことはあったが、その話は本当なのだと、アスカルは確信した。


「そうだ、ベルンハルト。帰りに旧帝都フランユレールとトリテルテアでお土産を買っておきたいんだが、オススメはあるのか、聞いておきたい」


「オススメのお土産か……。旧帝都フランユレールなら、スイーツはオススメだ。俺も母さんもよく行くんだが――」


「どうした?何かマズいことでもあるのか?」


「いや、お土産ってことはヌティス城下町や王都コーテソミルまで持って帰るってことだろ。それなら、帰り道で腐ってしまうと思ってな」


 旧帝都フランユレールから王都コーテソミルまで、どれほど順調に進んだとしても一週間以上かかる。そうなれば、スイーツのたぐいは食べられるものではなくなってしまうのだ。


 そのことに話していた気づいたからベルンハルトは途中で、言葉が紡げなくなっていたのである。だが、事情を聞けば、アスカルも納得できてしまった。


 旧帝都フランユレールのスイーツは美味しいと評判なのは、町を歩く人々の声を聞いているだけでも何となくわかる。それならお土産にしたいと思うが、保存する術がない以上、どうあっても腐らせてしまう未来しか見えなかった。


「となると、食品系はダメか……。道中、オレがティナと食べる分にはよさげだが、お土産にはならないな」


「2人で食べる分くらいは買ってみるといい。良かったら店の名前と場所、教えようか?」


「じゃあ、お願いしたいな。あ、でもオレ、フランユレールの町に詳しくないから迷うかもな……」


「じゃあ、俺が案内する。ついてきてくれ」


 予想外の案内人の登場にアスカルも驚いたが、渡りに舟。助かったという想いを抱きながら、2人で旧帝都の町中へ繰り出すのだった。

第181話「旧帝都よりヌティス城へ」はいかがでしたでしょうか?

今回は何といってもティナの大胆な告白が印象に残る回だったのではないでしょうか?

ティナの言葉に、悶々とするアスカルの様子を楽しんでもらえれば嬉しい限りです!

そして、次回はアスカルとベルンハルトがスイーツを買うため、旧帝都フランユレールを練り歩きます。

次回も3日後、2/17(土)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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