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第180話 『帝国最強』との模擬戦

どうも、ヌマサンです!

今回はヴィクターとの模擬戦の続きになります!

はたして、どのような試合展開になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第180話「『帝国最強』との模擬戦」をお楽しみください!

 木製の剣同士が音を立ててぶつかり合う。戦場で聞こえてくる金属同士のぶつかる音とはまた違った音が道場に響く。


「ベルンハルト、随分と腕を上げたな」


「そりゃ、鍛錬を怠った日はないからな。人を助けるためには、誰よりも強くならないと……ねっ!」


 鍔迫り合いが続くかに見えたその時、距離を取るべく動いたのはベルンハルトであった。そのことを意外に思うヴィクターへ、続く第二撃が見舞われる。


 ヴィクターが正面のベルンハルトと対峙している間に側面へ回ったティナの攻撃であった。ベルンハルトの上から下への斬撃とは異なり、ティナは横一文字に薙ぎ払う形での斬撃。


 こうして一方が注意を引き、本命が別の角度から斬りかかってくる。その程度の小細工は、戦場において思い出せないほど経験してきた。そんなヴィクターにとって、ベルンハルトとティナの連携攻撃は児戯に等しい。


 ティナの攻撃も軽くあしらい、ティナを援護するべく再度攻撃を仕掛けるベルンハルトを豪快に薙ぎ払う。だが、一つ。最強の男は見落としていることがあった。


「ハッ!」


 あまりの弱さゆえに、見落とされた弱者のことを。その弱者は戦場経験のない若造とは思えぬ巧妙さで、ヴィクターの手元へ滑り込んできた。


 そして、ここまで一度たりとも斬りかからず、力を温存していた一撃がヴィクターの脛へと放たれる。視線は胴を見ていたにもかかわらず、だ。


 強者というものは得てして弱者を見くびりがちである。強者にしか興味のない、ヴィクターという男はなおのことだ。そうして見くびっていた弱者が、真っ直ぐに自分の胴を見て、木刀に手をかけている。


 ――分かりやすい、実に単調な攻撃だ。


 ヴィクターはアスカルの必死な姿に、思わず笑みがこぼれていた。だが、次の瞬間には木刀は胴ではなく、もっと下。脛目がけて放たれていたのだ。


 戦場では一歩も動かず、敵の攻撃を防ぐと評判だったヴィクター。それは20年経った今でも、門下生たちの認識にも浸透している。そんな彼が、次の瞬間には飛びのいていた。飛びのく瞬間、木刀が空を切った際に生じる空気を感じながら。


 まさしく、油断禁物。だが、ヴィクターを後ろへ下がらせたことは、アナベルをはじめ、ティナを含めた門下生たちの度肝を抜いた。何より、その状況に一番驚いているのは、ヴィクター自身。


 その驚きという感情を処理している間に、隙ありとばかりにベルンハルトが攻め立てる。それに遅れまいとアスカルも追撃にかかる。そんな二人の攻勢に、ティナも続く好循環が生まれていった。


 そこからの模擬戦はヴィクターが守勢に回る、実に珍しい試合展開となっていた。しかし、アスカルたちは決め手に欠いており、そのまま一気に決着をつけられずにいる。


 そうなると、長期戦にもつれ込むことになってしまう。並みの相手ならば体力のある若手が有利なのだろうが、ここまでの攻勢で少し息が上がってきている。


 対して、ヴィクターは戦い慣れていることや防戦一方であることも重なり、疲れている様子は見受けられない。


「ぬぅん!」


 右手一本で木製の大剣を豪快に振り回すヴィクター。そんな彼の怪力が込められた薙ぎ払いを受け、アスカルは耐えられない。受け止めることはできたが、そのまま吹き飛ばされ、ベルンハルトに激突。


 3人中2人を転倒させ、動けるのはティナだけとなった。そこで容赦なくヴィクターは攻勢へ転じる。とても大剣とは思えない速度で嵐のような斬撃を浴びせる猛攻を前に、ティナは抵抗虚しく敗北。


 ベルンハルトとアスカルが起き上がった時には、ティナの頭上にヴィクターの木剣が寸止めされている状況であり、アナベルの判定でティナは退場。


 そこからは二対一の勝負となったが、ティナが抜けた穴は大きく、そのまま圧倒的な力量の差で押し切られ、アスカルが倒され、ベルンハルトもねじ伏せられて模擬戦は終わりを迎えてしまった。


 結果としては負けてしまったアスカルたち。だが、ヴィクターの心の中で、アスカルという青年の認識は大きく変わっていた。先ほどの模擬戦とは別人だと思ってしまうほどの、いい試合だったのだから。


「アスカル。これがお前の本気か?」


「……はい。本気です。まだまだ弱っちいですけど、これからもっと強くなっていきたいと思っているので……!」


「そうか。これからも鍛錬を怠るなよ。怠らなければ俺ほどではないにせよ、ナターシャくらいにはなれるだろう」


 若者が持つ可能性。アスカルにもナターシャと同じく、ランドレスの血が流れているのだと、直感的に感じさせられた試合だった。そのことに大いに満足したのか、ヴィクターの表情は、アナベルにとって久しく見ていない清々しさを醸し出していた。


 その表情はアスカルたちには分からないほどの微妙な変化である。それを察知できるのは、長い付き合いになるアナベルくらいなものであろう。


「アスカル、ベルンハルト。ごめん、ワタシがもう少し持ちこたえられていたら良かったのだけど……」


 負けたことに責任を感じているのか、浮かない顔をしているティナ。そんなティナを見て、アスカルはこれ以上、彼女の心が沈んでしまわないよう、励まそうと試みる。だが、女心に限らず、人の心を操ることは至難の業。


 ましてや、そのような行為に慣れていないアスカルが試みるほど、ティナがより一層責任を感じてしまう悪循環が起こってしまっていた。


 見ていられなくなったのか、はたまた純真な善意なのか、英雄を目指す若者がティナの隣にかがみこむ。


「ティナ。それにアスカルも。俺たちはよくやったと思わないか?なにせ、あの親父を相手にして、後ろに回避までさせたんだからな」


 そこまで言うと、アスカルに向けて片目を瞬時に開閉させるベルンハルト。ティナのせいではないと取り繕うのではなく、主語を『俺たち』にすり替えてしまおうという狙いだった。


 さすがのアスカルも、あからさまに合図のようなものを送られれば気づくというもの。


「た、確かにな。でも、オレだけじゃ出来なかった。やっぱり、ティナとベルンハルトさんがいなかったら」


「アスカル、年下の俺が呼び捨てにしているんだ。アスカルも俺のことは呼び捨てにしてくれ」


「でも、まだ会ったばかりだし……」


「何を言っているんだ。一緒に『帝国最強』に挑んだ仲だろ」


 屈託のない笑みを浮かべながらティナとアスカルの間に入り、肩を組んでくるベルンハルト。長い付き合いの友達のような態度に、さすがのアスカルも笑みがこぼれる。


 そして、責任感を必要以上に背負い込んでいたティナからも、アスカルにつられるようにクスリと笑みがもれ出した。この瞬間、ベルンハルトはティナの心を救ったのだ。


 そんな若者3人が楽しそうに笑っている姿を遠くから見つめていたアナベルも、自然と表情が穏やかになっていた。


「アナベル、何を笑っている」


「いえ、成長していく若者を見ていたら、見ているこちらまで嬉しく思えただけです」


「そうか」


「そうかって、ヴィクター様も同じでは?」


 いたずらごころを帯びた瞳を向けられたヴィクターは、そのことについては何も言わなかった。合っていることについてヴィクターは何も言わない。そのことを知っているアナベルは、その一瞬で答え合わせができてしまった。


「そうだ、アナベル。俺を呼ぶのに『様』はつけなくていいと言っただろう」


「ええ。でも、今は職務中ですから」


「じゃあ、仕事が終わったら外してくれ」


「はいはい」


「はいは一回でいい」


 楽しく笑う三名の若者。そして、夫婦円満な師範夫妻。今日の道場には普段以上の温かさが籠もっていた。

第180話「『帝国最強』との模擬戦」はいかがでしたでしょうか?

今回でヴィクターとの模擬戦も決着。

結果としてはアスカルたちの負けということに。

ですが、どこか可能性を感じる、清々しさが残っていたかと思います……!

これからの彼ら彼女らの未来を楽しみにしていてもらえれば嬉しいです!

次回も3日後、2/14(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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