第179話 もう一度向き合って
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルがヴィクターにあることを願い出ます……!
はたして、再びヴィクターの前に立ったアスカルが何を願い出るのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第179話「もう一度向き合って」をお楽しみください!
「おう、アスカルか。具合はどうだ?もう大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。先ほどは見苦しいところを……」
「いや、構わん。いくらナターシャの甥といっても、まだまだ若いのだ。むしろ、いきなり俺と戦うことになったのに、逃げなかったのは称賛に値する」
褒められているようで、まったく褒められていない。むしろ、失望されてしまっているとも思えるヴィクターの言葉は、アスカルに深く突き刺さる。
「あの、ヴィクター師範。もう一度――」
ティナはもう一度、アスカルとヴィクターが話せるよう、声を発する。しかし、そんなティナを他ならぬアスカルが制止する。ここは、自分の口で、自分の言葉である必要があると思ったからだ。
「ヴィクターさん。オレはティナとヌティス城へ帰ります。その前に、もう一度模擬戦をやり直させてください。次は、紋章の力も使って――」
「ならん。紋章の力ナシで、あの勝負。紋章を使ったところで、変わりはせん。まぁ、アスカルだけ紋章の力を使う形にすれば、多少なりとも戦いにはなるだろうが……」
「どうしても、同じ条件で模擬戦がしたいと言ってもダメでしょうか?」
「ああ、絶対にダメだ」
もはや、取り付く島もなかった。それからアスカルはあの手この手で模擬戦を申し込もうとするが、頑として聞き入れなかった。その頑固さに、さすがのティナも呆れていた。そんなところへ、思いも寄らない人物が道場へ姿を現す。
「親父、さっきから聞いていたが、そこのアスカルって人の頼み、聞いてやったらどうなんだ?」
「ベルンハルトか。模擬戦なら先ほどしたところだ。ついさっき打ち負かした相手とは勝負する理由はない」
「じゃあ、助っ人として俺も加わるって条件ならどうだ?」
「ほう。それは……」
ベルンハルトからの提案にヴィクターの表情がガラリと変わった。それだけ実力のある人物なのだと、アスカルは感じた。
「よし。実力差を考慮し、アスカルとティナ、それにベルンハルトを加えた三対一の勝負なら受けてもいい」
「俺はそれでいいよ。あとは……」
「ワタシは構いません。急な話でビックリはしましたけど……」
ヴィクターからの提案にベルンハルトもティナも賛同の意を示す。残るはアスカルのみだが、その返事はその場にいる誰しもが予想できていた。
「オレも、それでいいです。紋章の力は使わずに、三対一ってことですか」
「ああ、そうなる。道場で紋章の力を使っては後で修理するのも大変だからな」
紋章の力を使って戦うことで、道場が壊れる。そのあたりのことをアスカルは何も考えていなかった。だが、それが分かれば、紋章の力を使っての模擬戦を断るのもようやく理解できる。
むしろ、いかに自分が無理なお願いをしていたのか、と恥ずかしさを覚えるほどであった。ともあれ、模擬戦をヴィクターは受諾した。あとは、三対一の模擬戦を行うのみ。
「誰か、アナベルを呼んできてくれ。俺が模擬戦の審判をしてもらいたいって言っていることを伝えてくれればいい」
「じゃあ、ボクが行ってきます!」
ヴィクターが背後の門下生たちを振り返り、頼みごとをする。そのあたりは、ヴィクターの人望なのか、すぐに人が動いた。アナベルを呼びに行った青年だけでなく、他の門下生たちも決闘のための準備を手分けして開始。
「それじゃあ、お二人さん。改めてよろしくな。まあ、ティナは知ってるけど、そこの彼は――」
「アスカル・ランドレスです。今年から近衛兵をしていて――」
アスカルが自己紹介をしているところへ、鼻先が当たる寸前まで顔を近づけてくるベルンハルト。その距離の詰め方に、隣で見ているティナは少し顔を赤らめている。この距離の詰め方は恋人かと思ってしまうほど。
「まぁ、まだまだ新米なので、剣術の腕も未熟で」
「なるほどね。でも、誰だって最初は未熟だし、気にしなくていいんじゃない?それに、剣ダコができてるのを見れば、アスカルが努力家なのは分かるよ」
改めて指摘され、アスカルも驚いた。前々から剣ダコができていたが、それを努力の証として褒められたのは初めてであったからだ。その瞬間、自然に人を励ますことができるベルンハルトは、本当の英雄にアスカルの目に映った。
「ねぇ、アスカル。ときめいてないで準備して」
「いや、そもそもときめいてないぞ。そんな顔を急に近づけられて褒められたってだけで惚れていたら、惚れやすすぎるだろう?」
「ま、まぁ、それはそうだけど」
まさか、男に顔を近づけられた後に、ときめくなと言われるなど予想もしていなかったため、アスカルもさすがに戸惑った。だが、周囲の騒めきで『今から模擬戦なのだ』という現実へ意識を引き戻され、慌ただしく準備に取り掛かる。
そうして門下生たちの協力もあり、模擬戦の準備は順調に進んでいく。いわゆる人海戦術的な面もあったが、何をおいても手際が良い。普段から道場を清掃し、道具も丁寧にしまわれているところからも、十二分に伝わってくるというもの。
「よし、アナベルも来たことだ。そろそろ模擬戦を始めるとしよう」
ヴィクターの低い声に弾かれるように門下生たちの背筋が伸びる。こうしてみると、軍隊のようだとアスカルは感じた。その様子にアナベルもクスリと笑みをこぼしながら、審判の役目を全うするべく所定の位置へ。
「じゃあ、ベルンハルト……さん。そして、ティナ。改めて、よろしく」
誠意の籠められたアスカルの言葉。言葉に帯びる声、そして礼儀正しく一礼する態度。彼の所作を見て、改めて力になりたいと思うティナと、ベルンハルト。二人は小さく首を縦に振り、模擬戦を開始するべく、配置につく。
アスカル、ティナ、ベルンハルトの3人がヴィクターと対峙する状況を見ている者たちは、一体どちらが勝つのか、どんな試合になるのかとワクワクしている。
『何人がかりであろうともヴィクターが勝つに決まっている』という声が圧倒的多数。それでもティナとベルンハルトの実力を知る者たちは、『あの二人が組めば好い線を行くはずだ』と口にしている。
そうした多数の声の中で、アスカルへ期待を寄せる声が一つとしてない。やはり、つい先ほど見苦しい試合をしてしまったことが尾を引いているようであった。
だが、そんなことは百も承知で、アスカルは今、この模擬戦に臨んでいる。このままみっともないところを見せて、逃げるようにヌティス城へ帰るわけにはいかなかった。
「それでは、改めて模擬戦を開始します。試合中、紋章の力を使うことは認めません。あくまでも己の剣技と体術のみで戦ってください。では、はじめ!」
双方ともに準備完了。そんな様子を瞬時に見て取ったアナベルより試合開始の声が発される。
真っ先に動いたのはアスカル――ではなく、ベルンハルト。アスカルの持つ木刀よりも少し長めの木剣を手に駆け出していく。それも、アスカルには追いつけないほどの速度で。
その速度は同じ人間であるとは到底思えないほど。なにせ、模擬戦開始直後、早々にヴィクターへ一太刀浴びせていたのだから。
だが、動じる様子もなく、ヴィクターは右手に持つ木製の大剣でベルンハルトの木剣をたやすく受け止めていた。
ベルンハルトが速かったのは移動速度だけではない。剣を振りかぶり、斬撃を放つ動作も並みの剣士では、何もできないまま今の一撃で勝敗がついていた。それほどの斬撃を苦も無く受け止めている。
――そんな巌の如き、帝国の最強にアスカルたちは挑んでいくのだった。
第179話「もう一度向き合って」はいかがでしたでしょうか?
今回はアスカルがヴィクターに再度、模擬戦を申し込んでいました。
そして、結果としてティナとベルンハルトを加えた三人で模擬戦に挑むことに。
はたして、模擬戦がどうなるのか、次回を楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も3日後、2/11(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!