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第176話 愚かで、真っ直ぐな想い

どうも、ヌマサンです!

今回はヴィクターが登場してからの話。

そして、サブタイトルが指す事柄は何なのか、楽しみにしていてもらえればと思います!

それでは、第176話「愚かで、真っ直ぐな想い」をお楽しみください!

「おう。オレがこの剣術道場のヴィクター・エリオットだ。よく来たな、『漆黒の戦姫』の同族よ」


 アスカルの目の前にいる大男こそ、フレーベル帝国最強の戦士。ヴィクター・エリオットその人であった。


「もしかして、伯母のことをご存じなのですか……?」


「ご存じも何も、戦場で斬り合った仲だ。あの女騎士も大したものだったが、オレには遠く及ばん」


「そ、そうなのですか……?」


 初対面の男の言うことだ。戦ったところまでは事実だろうが、はたして叔母は目の前の大男に遠く及ばなかったのか。アスカルは疑問を残しつつ、この話題は軽く流すことにした。


「まさか、ティナがお世話になっている剣術道場に、伯母ゆかりの方のいるとは思いませんでした」


「そうか。ちなみに、俺はお前の母君とも干戈を交えたことがある。あれほどの怪力を持つ女戦士がそうはいない」


「えっ、母さんとも戦ったことが……?」


 ナターシャがヴィクターと戦ったことがある。その話は周りから何度か聞いたことがあり、さすがのアスカルも知っていた。だが、自分の母・セシリアがヴィクターと戦ったことがあったとは、知らなかったのだ。


「ん?お前の母君はこの俺と戦ったことがあると言わなかったのか?」


「は、はい。オレが覚えている限り、一度も……」


「けしからん!この俺と戦えたことを誉れに想い、我が子に語っていないとは何事か……!」


「ヴィクター様、抑えてください」


 拳を握りしめるヴィクター。その力強さ、迫力にアスカルもティナも圧倒されてしまう。それを見かねた、受付嬢が止めに入ったのだ。


「いかん、つい……」


「ヴィクター様、相手は戦場を知らない若者たちです。そんな表情をしていては、必要以上に怖がられてしまいます」


「そうだな。アナベル、忠告感謝する」


「いえいえ」


 ヴィクターからアナベルと呼ばれた受付嬢。彼女こそ、かつて帝国軍でヴィクターの麾下にあったアナベル・バレードなのである。


「それでは、ワタシはこれで」


「ああ。子供たちを頼む」


「分かっています」


 最初から最後まで礼儀正しく、品のある動作をするアナベルも、応接室から退出。部屋を出る際に一礼され、アスカルもティナも無意識のうちに頭を下げてしまっていた。


「あの、子供たちというのは、道場に通っている……?」


「いや、俺とアナベルの子供のことだ」


「えっ、それじゃあ、お二人は結婚して――」


 意外な事実に驚くアスカル。ヴィクターも恥ずかしそうに顔を薄く赤らめている。そんな状態のヴィクターでは説明するのは厳しいと思ったのか、代わって彼の家庭事情を知るティナが話を付け加える。


「ヴィクター師範とアナベルさんの間には、今年で16歳になるベルンハルトと13歳になるモニカ、2人の子供がいるの」


「へぇ、ベルンハルト……君の方はフォルトゥナートと同い年か」


 ベルンハルトと呼び捨てに仕掛けたところで、ティナから鋭い視線が向けられ、慌てて君付けに変更したアスカル。それからのティナの口から色々なことが語られていく。


 兄のベルンハルトの方は弱い人や困っている人を見捨てずに助けられる英雄になりたいと、日々の研鑽を欠かさない人物であること。そして、今日も街中に繰り出して、人助けをしているであろうこと。


 対して、妹のモニカは美しさにこだわるオシャレ女子であり、今日も美容法や服選びに余念がなく、武人肌の両親には似ても似つかないことなど、様々な内容が語られた。


「にしても、ティナは2人のことを良く知っているな。聞いていて驚いたぞ」


「そりゃあ、ベルンハルトの人助けに付き合わされたことだってあるし、モニカに一日中着せ替え人形みたいに服や化粧をされたりしたことがあるんだもの」


「前者はイメージが付くし、ティナらしいが、後者の着せ替え人形にされたっていうのは大変そうだな……」


 アスカルとティナが続けていたベルンハルトとモニカの話が一段落した頃合いで、ヴィクターからアスカルへ言葉がかけられる。


「して、アスカルは何用で参ったのか、それを聞いておらなんだな」


「それは、ティナの件で参りました」


「ティナの……?」


「はい。突然、ノーマン殿の執務室を飛び出していったもので、その本心を確かめる必要があると考え、ヌティス城からここまで追いかけて参ったのです」


 ここでアスカルはようやくヴィクターに事情を話すことができた。そして、その話題に移るなり、ティナの表情は曇り出す。それを機敏に感じ取ったアスカルであったが、ここで怯むわけにはいかない。


「そうか。ティナは俺の道場をやめると申したが、そういったわけがあったか。よし、ティナ。本心を申してみよ。ただ、俺が居ては言いづらいだろうから、俺は応接室を出るとする。若い二人で話し合うとよい」


 ヴィクターはアスカルの肩を優しく二度叩き、応接室を退出していく。そして、退出する際、ヴィクターはティナへ厳しさと優しさの入り混じった目を向けていった。


 そのヴィクターの瞳に、背中を背中を押されたような心地がしたティナは、一つ深呼吸をしてから、アスカルに向き合う。


「あのね、アスカル。ワタシ、今でも迷っているの」


「ハワード領の領主になるなら、剣術道場に通うことはできない。剣の道を究めることは諦めなければならないってことだろ」


「ちょっ、ワタシが言いたかったことを先回りして言わないで!覚悟を決めて話し始めた意味がないじゃない……」


「そ、それは悪かったな」


 てっきり、ティナに怒られたと思い、悪かったと口にしたアスカル。だが、アスカルが悪かったと言うのと同時に、ティナの口元がほころんでいた。


 ティナとしては先回りしたことで雰囲気が壊されたことについて感情的になったのだが、言っているうちにアスカルが自分のことを理解してくれていたことが嬉しくなり、口元にそれが表れたのだ。


「でも、アスカルの言う通りよ。ワタシ、本当にどうすればいいのか、分からなくて……」


「それで、飛び出していったわけか。まぁ、やりたいこととやらないといけないことの間で迷う気持ちはオレには分からないが」


「ちょっと。そこは嘘でも共感するところじゃないの?」


「いや、嘘ついて共感したところで、ティナは嬉しくないだろ。どうせ、後から怒りだすに決まってる」


「うっ……」


 図星であった。それを自分でも分かっているがゆえに、ティナは返す言葉もないのだ。


「でも、オレはやらなければいけないことのせいで、やりたいことを諦めるのは反対だ。白黒はっきりさせるのは大事なことだが、白か黒かでしか判断しないのは違うだろ」


「……つまり、何が言いたいの?」


 何が言いたいのか問いかけながらも、アスカルが何を言おうとしているのか、察しがついている。そんな表情をティナは浮かべていた。だからこそ、アスカルはティナの予想の範囲内に収まる形で言葉を繋げる。


「オレは折衷案として、領主の後継者になりつつ、剣術をこれまで通り励むやり方を模索するべきだと思う」


 俗にいう、『間を取って』という話である。どっちかを選ぶのではなく、絶妙な加減でどちらも選ぶというもの。もちろん、簡単な話ではないが、やらねばならないことでやりたいことを諦めるよりは良い。


 それが、今のティナに伝えたい、アスカルの素直な想いであり、愚かなほどに真っ直ぐな考えであった。


 そのことを言われるまでもなくティナも分かっていたが、先ほどのヴィクターの瞳と同じく、彼女は誰かに背中を押してもらいたかったのである。そして、背中を押してもらった若き女性剣士は、己の未来を選択することになる。

第176話「愚かで、真っ直ぐな想い」はいかがでしたでしょうか?

今回はアスカルがティナに思うところを述べていました。

そんなアスカルからの想いを聞き、ティナがどんな決断をするのか。

引き続き、見守っていてもらえればと思います!

次回も3日後、2/2(金)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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