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第174話 急ぎの旅路

どうも、ヌマサンです!

今回はティナを追うようにアスカルが旅を続ける回になります!

はたして、どのような旅路になるのか、見守っていただければと思います!

それでは、第174話「急ぎの旅路」をお楽しみください!

 その日、アスカルはヌティス城下町を発った。目指すは旧帝都フランユレール。だが、その日は中継地点であるトリテルテアにたどり着く必要があった。そのため、今にも出発しようかというトリテルテア行きの馬車に飛び乗る。


 この馬車にティナが乗っていれば、馬車の中で事情を聞くこともできるのだが、物事はそう上手く運ぶものではないらしい。


 アスカルはヌティス城下町に入った時とは正反対に、自分に話しかける声一つない状態で出発した。行きはあっという間に感じられた時間も、今は悠久のように感じてしまう。


「本でも読みたいが、あいにく本は持ちあわせてないんだった……」


 ディーンのように読書でもしよう。そう思ったまでは良かったのだが、読書好きでもないアスカルの鞄から本が出てくることはなかった。


 手元にある鞄に入っているのは旅行中の着替え、お土産のリストなどであり、到底暇つぶしになるものではない。かといって、腰に佩いている魔剣ヴィントシュティレも暇をつぶせる代物ではない。何より、馬車の中で剣を振り回すなど論外だ。


 どうしたものかと外を見れば、建物一つなく、田畑が広がっている。遠くに山々も見えるが、特に変化もなく、これといって面白いものが見えるわけではない。


 しかし、そこで生きる人々の姿は変化する。楽しそうに農作業に打ち込む老人がいるかと思えば、嫌々働かされているのだと分かる青年がいる。


 道端で楽しく話すご婦人方がいるかと思えば、馬車や人の往来が多い道で走り回る子供たちがいる。


「平和っていいな……。母さんたちはこんな景色が見たくて、20年前も戦っていたんだろうか」


 そう思うほど、何もしていないのに平和を享受できている今の自分は恵まれていると感じられる。何せ、父も伯母も戦い続け、ついにこの平和が大陸中に根付いた世界を見ることができなかったのだから。


「でも、こうしてテルクスをはじめ、あちこち行かずに王都コーテソミルに留まったままだったら、この事には気づかなかったな……。こういうことも成長という枠組みに入るんだろうか?」


 独り言をつぶやきながら外の風景を眺めている青年。客観的に見れば、善良な不審者である。


「あっ、どうせトリテルテアへ行くならお土産リストを見ておこう。急がないといけない旅路だが、帰りにすぐ買っていけるように予習するのも大事だしな」


 鞄から取り出したお土産リスト。先ほどまでは暇つぶしにならないと見る気にもなれなかったが、今は期待に胸を膨らませながら見ることができる。


「まったく、姉さんも母さんも注文が多い……。この量だと、さすがに調べきれなさそうだし、結局は帰りに街中を探し回ることになるんだろうな……」


 紙に買ってきてほしいお土産がびっしり並んでいる。だが、書き散らした印象はなく、むしろ箇条書きで読み手への配慮がうかがえる。買わなければならないお土産は多いが、後半はアスカルの職場に配ると良さげな物が並んでいた。


「ダレン近衛兵長の好みまで書いてあるぞ……?なになに、『柑橘系の果物が嫌いだから買っちゃダメ』、『山登りが趣味だから山登りで使いそうな物ならイイかも』、『武器や道具は利便性重視』って、内容が細かいな……。まぁ、ダレン近衛兵の分はこの内容を参考にして選ぶとするか」


 この人はこれが好物だから買って帰れば喜ぶと思う、この人はこれは嫌いだから逆に機嫌を損ねるから避けるべき、などの細かい内容も記されており、途中から読むのが疲れてくるアスカルなのであった。


「ダメだ、内容も細かいし、覚えきれない……!やっぱり、紙を見ながら帰りにゆっくり選ぼう……」


 お土産リストを読んだことが影響しているのか、目の疲れを感じたアスカルは目線を手元から遠くの山々や平野といった景色へ移した。そうしているうちに、眠気に不意を突かれ、次に目を開けた時にはトリテルテアへ到着していた。


「ああ、お客さん。やっと起きましたか……。てっきり死んでしまわれたのかと焦りましたよ」


「それはすまない。料金は多めに払わせてもらうよ」


「いえいえ、料金は他の乗客の方々と同額で結構でございます」


「だが、無駄に手間をかけさせてしまったんだ。ここは払わせてくれ」


「それでも受け取るわけには参りません。ただ、今後とも当乗合馬車をごひいきにしていただければ……」


 その御者の中年男性の提案をアスカルは受け入れ、馬車を降りた。こういった駆け引きも商売においては必要なのだろう。そう思って馬車の乗り場を後にし、その足で宿屋へ向かった。


「確か、ここから旧帝都フランユレールへ向かう馬車は明朝早くに出発するんだったな。なら、今日は宿で早めに休もう。あまりお腹も減っていないし、夕食は抜きでいいだろう」


 先ほどまで馬車に揺られながら眠っていたこともあり、ちゃんとベッドで眠れるのか、アスカルは心配でならなかったが、その心配は杞憂に終わる。


 荷物を置いてゴロリと寝転べば、窓の外から聞こえてくるざわめきが少しずつ遠のいていき、そのうち室内にはアスカルの幸せな寝息が響くのみとなった。


 そうしてまた夜が明ける。日課の素振りを行う間もなく、荷物を取りまとめる。忘れ物がないかも入念に確認したうえで、アスカルは宿を出る。何としても今日中には旧帝都フランユレールへ辿り着きたいのだ。


「そのためにも、絶対に朝一番の馬車に乗らなければ……!」


 ティナが馬車を使わず、どうやって旧帝都フランユレールを目指しているのか。ちょうどアスカルがヌティス城を出る時に、ある兵士二人が話していたことから推測はしていた。


『緑色の髪の女性が白馬に乗って駆け出していくのを見たぞ』


『あの白馬って、領主様のご息女がお乗りになる駿馬だぞ!盗まれたのなら、一大事だ!』


『げっ、嘘だろ!?てっきり、何かの急使かと思ってたんだが……』


『とりあえず、領主様に報告するぞ』


 そんなやり取りが聞こえてきたのだ。おそらく、白馬に乗って城を飛び出したのはティナだ。だとすれば、領主の娘であるティナが、『領主様のご息女がお乗りになる駿馬』に乗っていても問題はない。何せ、その白馬は自分の馬なのだから。


 馬車ではなく、自ら騎乗して向かったというのであれば、ティナの方が一足早く旧帝都フランユレールへ着いていることは間違いない。だからといって、アスカルが急がなくていい理由にはならない。


 何より、ティナが自分の馬に乗っていったことは推測の域を出ず、確証はないのだ。ここで後を追うことを中断する理由としては不十分であり、多少遅れてでもティナが何をしようというのか、会って確かめる必要がある。


 そう思っているうちに、自然と足の動きも加速し、宿へ向かう時とは比べ物にならない速度で馬車の乗り場へ到着。それから旧帝都フランユレール行きの馬車を見つけて乗車し、ようやくアスカルは一息つくことができたのだった。


「お客さん、随分と急いでるみたいだね」


「ああ、探している人が旧帝都フランユレールに向かっているようで、居ても立っても居られない……といったところです」


「なるほど。そんな事情が……。順調にいけば、陽が落ちてすぐの頃には到着することになるでしょう。せめて、馬車の中ではゆっくり休んでいってくださいな」


「お気遣い痛みいる」


 そうだ、焦ってはいけない。焦ってもどうしようもないことで、焦って他人に気まで遣わせてしまった。


 そんな風に自分の未熟さを恥じるアスカル。だが、これも一つの気づきであり、成長なのだ。そう思って受け入れてしまうことにする、アスカルなのであった。

第174話「急ぎの旅路」はいかがでしたでしょうか?

今回でアスカルはトリテルテアまでやって来ていました。

旧帝都フランユレールまであと一息といったところ!

なにより、旧帝都フランユレールでアスカルはティナと会って話をすることはできるのか……!?

次回も3日後、1/27(土)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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