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第172話 フォルトゥナートの近況は

どうも、ヌマサンです!

今回はアスカルたちが城下町を観光する話になります!

一体、どんな話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第172話「フォルトゥナートの近況は」をお楽しみください!

「それじゃあ、姉さんの要望に応えてサランジェ領の学校の話からしようかな」


 そう言って、馬術を学ぶために入学した学校について、フォルトゥナートは話し始める。


 その中で語られた馬術に興味を持ったキッカケ。それは、以前アスカルが王都でノーマンと会って話した時に言われていたことが、おおよその正解だったのだ。


 小さい頃、父・ノーマンと共に馬に乗せられ、風を切って辺りを進んでいったという思い出。馬に乗っている時に感じる風、徒歩などとは比べ物にならない速度でグングン進んでいく感覚そのものに魅入ってしまったのだ、とフォルトゥナートは語る。


「確かに馬上で風を感じながら進んでいく感覚は気持ちがいいからな。季節やその日の天候で感じられる風も違うし、フォルトゥナートの言うことは分かる気がする」


「やっぱり、アスカル兄さんは分かってくれる!?」


「あ、ああ。そこまで乗る機会はないが、たまに乗る良さというのも上乗せされているかもしれないが」


 色々とアスカルは言葉を付け足すのだが、分かってもらえたことを純粋に喜んでいるフォルトゥナートの耳に届くことはなかった。


「でも、サランジェ領の学校はサランジェ族の人たちが通っているから、授業についていくのも大変じゃない?」


「それは姉さんの言う通りかな。物心ついた頃から馬に乗ってきた人とボクとでは積み重ねてきたものが違うんだ」


「それもそうよね……」


「でも、馬に乗ることを楽しむ気持ちはサランジェ族の人たちにも負けないつもりだよ」


 爽やかな笑顔で己の気持ちを正直に口にするフォルトゥナート。今日の雲一つない空模様と同じく、晴れ晴れとした心境なのだろう。


 何より、アスカルの胸に刺さったのは『馬に乗ることを楽しむ気持ちはサランジェ族の人たちにも負けないつもり』という部分だった。


 ――自分も強くなるために剣術をはじめとして、鍛錬を行っているが、同じように思えているだろうか。


 そんなことが不意に脳内に浮かんだのだ。しかも、一瞬で浮上してきたモヤモヤしたそれは消えることがない。これまた、「答え」という太陽を導き出さなければ、晴れることはないのだろう。


 だが、それについて考えるのは今ではない。今はアスカルとの話に意識を戻さなくては。そう思って、今へと意識を呼び戻したアスカルは、より詳しくフォルトゥナートの近況を知るために質問を投げかける。


「それで、サランジェ族の同級生とは仲良くやっていけそうなのか?」


「それはもちろん!みんな、ボクが困っているとこうした方が乗っている時に安定するとか、良馬の見分け方はここだとか、優しく教えてくれるんだ」


「それは良い学友を持ったわね」


「うん!」


 サランジェ領の学校のことを話すフォルトゥナートはとにかく楽しそうであった。そして、その話を聞くティナもアスカルも実に楽しそうにしている。3人ともが楽しい一時。傍から見れば、仲の良い兄弟姉妹のようである。


「そういえば、姉さんもアスカル兄さんもボクがラッセル・プリスコット殿の養嗣子になった話は聞いてるんだよね?」


「ああ、オレは王都でノーマン殿から聞いた。まぁ、聞いた時は仰天したけどな」


「ワタシもよ。でも、ノルベルト殿がマリアナ様と結婚したって聞いたら、おおよそ察しがつくわ」


 楽しかった話から一転、場の空気は暗転。しかし、その暗く重いは永遠に続くものではなかった。


「でも、ラッセル殿は父さんに断られても仕方ないボクの養子入りを聞き届けてくれたからって厚遇してくれるんだ」


「じゃあ、辛い思いをしているわけじゃないんだな」


「うん。サランジェ領の学校に払っていた学費もプリスコット家が負担することになったんだ。しかも、これまでに払った金額を立て替えて、父さんのところに送って来たんだって」


「それは知らなかったな……。でも、こういう律儀なことをするのも貴族同士の付き合いなんだろうな」


 実家であるハワード家で起こっていることだが、ティナは知らなかったのか、フォルトゥナートの話を聞いている間、目を丸くしていた。


「あと、マリナ婆ちゃんが泣いて喜んでたよ。ほら、プリスコット領には政治の中心地であるクルメドと、経済の中心地であるゼンドアがあるでしょ。マリナ婆ちゃんがいるのはゼンドアの方だけど、ボクがプリスコット領を継げば会いに行きやすいし」


「ちょっと待った。ふと疑問に思ったんだが、フォルトゥナートがプリスコット領を継ぐなら、ハワード領は誰が継ぐことになるんだ?」


「そりゃあ、姉さんじゃないの?ボクはてっきりそうだと思ってたんだけど……」


 プリスコット領を継ぐ資格があるのは、現領主のラッセルの一人息子・ノルベルト。そして、ラッセルの妹・マリナとアランの間に生まれたシンシアが産んだ、ティナとフォルトゥナートの3人だった。


 そのうち、ノルベルトは女王マリアナと結婚したことで、プリスコット領を継ぐことはできなくなった。となれば、ティナかフォルトゥナートのどちらかということになる。そうして選ばれたのはフォルトゥナートだった。


「となれば、フォルトゥナートも言うようにハワード領はティナが継ぐことになる……ということか」


 発したそばから周囲の空気に消えていくようなアスカルのつぶやき。しかし、その言葉がグサリと胸に刺さった人物がいた。他ならぬ、ティナである。


「ワタシがハワード領を継ぐことになるの……?」


 ティナは子どもの頃から領地はフォルトゥナートが継ぐことになるから、好きなことを好きなだけすればいいと言われて、今日まで育てられてきた。だからこそ、突然に領主となる可能性が示されると、戸惑いと不安とが押し寄せてくる。


「まぁ、こればかりはノーマン殿に聞いてみるしかない。今は考えても仕方ないことだ」


「そ、そうですね。さ、姉さんも」


「え、ええ」


 その後の3人は先ほどと同じようにヌティス城下町の露店でお土産になりそうなものを見繕ったり、街中を走っている子供の追いかけっこに巻き込まれたり、色々なことがあった。


 赤の他人の目線であればアスカルもティナもフォルトゥナートも、3人そろって楽しい時間を過ごしているように見えてしまう。しかし、3人は互いが心の底から楽しみ切れていないことが分かってしまう。


 楽しいという気持ちが占有しているのではなく、そこに不安などの感情が織り交ぜられて共有という形を成していた。


 そうして過ごした一日というものは、純粋な楽しさだけで記憶に留められればいいのに、負の側面が誇張されて記憶に残ってしまう。人間の記憶とは本当に嫌なものである。


「アスカル、さっき選んでたお土産は今日買わなくていいの?」


「ああ。別に帝都から帰ってきた時に買っても問題ないし、今買うと落としたり、置き忘れていないか、常に注意を払わないといけなくなるから」


「まぁ、確かにそうよね。旅行中に手荷物が増えて観光が楽しめなくなったことがワタシにもあったわ」


「あ、それならボクにもあるよ。帰りも寄れるなら、アスカル兄さんの選択は正しいかもしれないね」


「そうだろうな。とはいえ、帰りに買うつもりが、その時に限って品切れということもあるから、お土産は難しい……って、姉さんから聞いた」


「何よ、アスカルが経験したわけじゃないのね。共感して損したわ」


 ……そんな他愛もないことを言って笑い合う3人は、城への帰路につくのであった。

第172話「フォルトゥナートの近況は」はいかがでしたでしょうか?

今回の前半は楽しい話題、後半からは少し暗い話が混ざってくる構成になっていました。

――楽しいけど、心の底から楽しみ切れない。

そんな感覚が伝わっていれば嬉しいです。

次回も3日後、1/21(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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