第171話 サランジェ領からの帰還者
どうも、ヌマサンです!
今回はサランジェ領からある人物がやってきます!
はたして、誰がやって来るのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第171話「サランジェ領からの帰還者」をお楽しみください!
一通り朝の鍛錬を済ませ、部屋で体を休めるアスカル。鍛錬の疲れで、軽く眠気に襲われているところへ、誰かが廊下を慌ただしく駆けてくる音が聞こえてくる。その音はアスカルの部屋の前で停止した。
「アスカル!」
部屋の扉を勢いよく開け、部屋の中に入ってきたのは走り込みの前に会った時とは違い、緑色の髪をポニーテールにしているティナであった。
「どうした、そんなに慌てて……」
「帰って来たの!」
「誰が?」
「サランジェ領にある学校に留学していたフォルトゥナートが!」
馬術に興味があり、騎馬民族であるサランジェ族が住まうサランジェ領へ留学中のティナの弟・フォルトゥナートがヌティス城へと帰還したというのだ。
最初は「騒がしいな……」と迷惑げに聞いていたアスカルも、フォルトゥナートの名前を聞き、いつの間にか前のめりになってティナの話を聞いていた。
「それで、もう城にいるのか?」
「そうなのよ。今、お父さんの執務室にあいさつに行っているみたいで……」
「よし、分かった。ちょっと着替えるから、ティナは部屋の外で待っていてくれ」
「わ、分かったわ」
鍛錬が終わり、汗で湿ったままの衣服で会うのはマズい。久しぶりに会うというのに、今の服装のままでは印象が悪いと思い、アスカルは大急ぎで身支度を整えていく。
「アスカル、まだ~?」
語尾が伸びた声が廊下から聞こえてくる中、アスカルは着替えを済ませ、慌ただしく部屋の入口へ移動。
「待たせたな。それじゃあ、行くとしようか」
「うん。こっちよ!」
「おい、なにも走る必要は――」
アスカルがそうツッコミを入れる頃には、その声量では届かない距離にティナはいた。そして、アスカルもため息をついた次の瞬間には、執務室までティナの背を追いかけて行くのだった。
「それじゃあ、アスカル。入るわよ」
「あ、ああ」
執務室に到着してすぐ、まだ息を整えている最中のアスカルを見かねて、ティナが執務室のドアを急かすように叩く。
「ティナ・ハワードとアスカル・ランドレスです」
「入ってよいでござるよ」
室内から聞こえるノーマンの声が鼓膜まで届くなり、ティナは急ぎつつも、大きな音を立てないようにドアを開ける。その絶妙な速度と丁寧さに隣で驚かされながら、アスカルも入室した。
「おはよう、二人とも。二人に来客だ」
「どうも。フォルトゥナート・プリスコットです」
ノーマンと執務机を挟んで向き合う翡翠色の瞳を持つ茶髪の青年。彼こそティナの弟・フォルトゥナートその人であった。
フォルトゥナートは茶髪であるが、毛先だけが深緋色という変わった髪色をしている。
だが、その緋色の髪がティナとフォルトゥナートの母親・シンシアの髪色が緋色であることはアスカルも知っている。母親からの遺伝だと思えば、自然に納得できる。
「前に会った時はまだ子供だったのに、ここまで大きくなっているとは……」
「あ、アスカル兄さん……ですよね!ボクのこと覚えてますか?」
「ああ、もちろん。忘れるわけがないだろう」
姉との久々の再会もほどほどに、扉の近くに佇むアスカルへとフォルトゥナートは駆け寄ってきた。アスカルとしてもカワイイ弟分。子どもの頃は弟のように可愛がり、よく一緒に遊んでいた。
そんなフォルトゥナートが自分よりも背丈も体つきも大きくなっていることに入室早々驚かされていたアスカル。なにより、自分よりも体躯が大きい人間に「兄さん」と呼ばれるのは、むずがゆかった。
「それにしても、フォルトゥナートは声が変わったな。ティナと話している時の声を聞いて、もしかすると別人かもしれないと思ってしまったぞ」
「ははは……。それはみんなから言われます。大人っぽくなったと言われるのですが、年齢以上に老けていると言われているようで……」
「まあ、声なんて子供から大人になる過程で変わるものだし、気にするな。それを言うなら、オレだって最後に会った時と声が違うだろう」
俗に言う声変わり。アスカルもフォルトゥナートも最後に会ったのは、互いに声変わりする前のこと。そう思えば、随分と長い間会っていなかったのだと、2人そろって思い知らされていた。
「それもそうなんですけど、アスカル兄さんはちゃんとした大人って感じがします!」
「……ぷっ」
「おい、誰だ!今、笑ったヤツは!」
フォルトゥナートの向こう側から聞こえた女性の笑い声。アスカルも口では「誰だ」と言いつつも、この執務室に一人しかいない女性――ティナが笑ったのだと分かっていた。
「だって、フォルトゥナートがアスカルのことを『ちゃんとした大人』だなんて言うから……!」
「姉さん、それはアスカル兄さんに失礼だろ!」
「いや、大丈夫だ。別にティナは間違ったことは言っていない」
「に、兄さん……」
あわや姉弟ゲンカに発展するかと思われた矢先、アスカルがフォルトゥナートを制止した。とはいえ、アスカルの顔には「面白くない」という感情が表れていた。しかし、ティナに対して怒っているというわけでもない。
「おい、ティナ。そんな言い方はないだろう。いくら事実でも言っていいことと悪いことがある。お前だって剣術バカだと笑われれば怒るだろうが」
「剣術バカというのは聞き捨てならないけど、確かにそうね。笑ったことは謝るわ」
見ている側のノーマンとフォルトゥナートはヒヤリとしたが、事なきを得てホッとしていた。
それからのアスカルとティナは何事もなかったかのように談笑し、フォルトゥナートを加えた3人でヌティス城下へと繰り出していく。
「お、伯父上。あの3人は大丈夫でござろうか……」
「何がだ。というか、今来たばかりの俺にも分かるように説明してくれ」
アスカルたちが去った後の執務室では、そんなノーマンとトラヴィスのやり取りが行われているのだが、3人は知る由もなかった……
「そうだ、アスカル兄さん。ミシェル姉さんは元気にしているの?」
「ああ、元気にしているぞ。オレがこうしてフォルトゥナートと会ったって聞いたら、『私も会いたかった』って言うだろうな」
ここ数日、会っていない姉の顔を思い浮かべながら話すアスカル。どこか遠くを見ているような表情を見ながらフォルトゥナートは言葉を続ける。
「ボクも会いたいです。今は、ミシェル姉さんは王都コーテソミルの図書館で働いているんですよね」
「そうだ。フォルトゥナートも次に王都コーテソミルに来た時に図書館へ寄ってみればいいんじゃないか?そうすれば、仕事中の姉さんに会えるかもしれない」
「そうします!でも、次に王都へ行くのはいつになるか、まったく分からないですが……」
「まあ、急ぐ必要もないだろう。ここよりもサランジェ領の方が王都に近いし、まだ来やすい距離だ」
何より、フォルトゥナートは馬に乗って来れるのだから、やろうと思えば日帰りで王都に来ることだって可能だ。そう思えば、実に近い距離にいる。
それでも何年もの間会うことがなかったのは、自分が受け身の姿勢であったことが原因だ。忙しいと言って自分から誰かに会いに行くこともしなかった。会いたいと思えば、すぐに会える距離にいたというのに。
「そうだ、フォルトゥナート。ワタシにもサランジェ領の学校の話を聞かせてよ。アスカルだって興味あるでしょ?」
「もちろんだ。フォルトゥナート、オレもその話が聞きたいんだが、良いか?」
「喜んで!それじゃあ、何から話そうかな……」
楽しくヌティス城下町の大通りを歩きながら、楽し気に話す男女3人組。久しぶりに会って話す時間というものは実に贅沢な一時なのではないだろうか。
第171話「サランジェ領からの帰還者」はいかがでしたでしょうか?
今回はティナの弟・フォルトゥナートが登場!
アスカルを純粋に慕ってくるキャラが新鮮だったのではないでしょうか?
そして、次回ではフォルトゥナートの近況について詳しく語られます!
次回も3日後、1/18(木)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!