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第170話 夜風に当たりながら

どうも、ヌマサンです!

今回はティナとアスカルが夜風に当たりながら話すところから始まります!

はたして、会話をする中で二人が何を想うのか、注目してもらえればと思います……!

それでは、第170話「夜風に当たりながら」をお楽しみください!

「アスカル、さっきの話を聞いてどう思った?」


「どう思った……か。言葉にするとなると難しいが、雑にまとめると恐ろしいと感じた」


「……ワタシも恐ろしいと思ったわ。自分たちが苦戦した相手はお父さんや大叔父上から見れば猛者の部類に入らないって言われたんだもの」


 20年前と現在を生きる戦士たちの力量が、よもやこれほどとは思っていなかったアスカルとティナ。だからこそ、二人が感じた恐れの感情ははかり知れない。


「でも、オレは20年前と今を比べても仕方ないと思う。上には上がいると思うくらいでちょうどいいんじゃないか」


「ちょうどいい……。ワタシはそうは思えなかったわ」


「オレだって食堂ではそんなこと思えなかった。薄暗い廊下をティナと歩いている間に思い直したことだからな」


「それでもスゴイと思うわよ。ワタシなんて今、アスカルの口からそう言われるまで考えられなかったことだもの」


 しかし、アスカルが口にした言葉で、少しずつティナの恐怖も緩和されていく。もちろん、発言者であるアスカル自身も、ティナにちゃんと言葉として伝えたことで、気持ちの整理をつけることができていた。


 次世代を担う彼ら彼女らにとって、20年前の戦乱の世を生き抜いた戦士たちは間違いなく強者だ。だが、それと比べて恐れてしまうのは違う。


 どうすれば一歩でも近づくことができるのか。そこに意識を向け、さらなる高みを目指していく姿勢こそが必要なのだ。そう思うと、明日からも鍛錬を頑張ろうという気力すら湧いてきた。


 そうして話している間にも、夜風に当たる身は冷えていく。ティナが二の腕をさすり始めると、アスカルは己が来ている上着をティナに羽織らせた。


「アスカル、これ……」


「そろそろ中に入ろう。これ以上、薄着で夜風に当たると今後の旅に支障が出る」


「そ、そうね」


 自分を気遣って上着を渡してきたのではないと知り、ティナは落胆した。しかし、どうして自分が落胆したのか、皆目見当がつかないでいる。一方のアスカルも、口ではそう言ったが、内心ではティナが肌寒そうにしているのを気遣っていたのだ。


 少しすれ違いはあったが、それから部屋に戻って、睡魔に意識を売り渡すまで、互いの気持ちについて改めて考える良い機会になっていた。


 それからは夜も深まり、深夜となる。そして、深夜からさらに時が過ぎ、温かな日差しが眠っているアスカルの顔にまぶしく差し込んだ。


 その日は丸一日、ヌティス城下に滞在する予定になっている。軽く肩を回し、疲れが取れていることを確認すると、アスカルは日課となっている剣の素振りをするべく、中庭へと軽やかな足取りで向かう。


 昨晩の話は未だに頭から離れない。だが、ティナと話したことで平静さを取り戻すことができていた。


『過去と比べても仕方ない。今の自分にできることを明日へ、未来に向けて積み重ねていくしかないのだ』


 そう思うと、起きた後に何を成すか、正道が照らされているような心地がした。その新たな道しるべを胸に、朝から魔剣ヴィントシュティレを握り、素振りを続けていた。


「アスカルではござらぬか。朝から精が出るでござるな」


「これはノーマン殿。おはようございます」


 寝起きとは思えないほどに乱れていない衣服を身に纏い、ゆったりとした足取りで中庭に現れた領主・ノーマン。ただ一つ、普段と違う箇所をあげるとすれば、緑色の髪をポニーテールにせず、髪の毛が垂れたいように垂らしているところか。


「その剣、魔剣ヴィントシュティレでござるな。先ほど物陰から見たところ、以前よりも振るうことに慣れてきたようでござったが……」


「はい。前よりも手に馴染んできたような感覚があります。とはいえ、ティナ……さんと比べれば剣術、体術、体力のいずれも劣っていますが」


「それはそうでござろう。積み重ねてきた鍛錬の成果は、そう一朝一夕で差を詰めることはできぬでござるよ。しかし、何もしなければ開くばかりでござるから、今後も励むでござる」


「もちろんです。いつか、ランドレス家の人間として恥じない実力を身につけて見せます」


 そう言って、ノーマンを見つめる若き戦士の瞳は実に澄んでいた。先達として、その姿勢に満足したのか、微笑を含みながらノーマンは立ち去っていった。左手を左右にひらひらと振りながら。


 領主であり、戦士として己よりも高みにいる猛者の後姿をじっと見送ったアスカルは、再び素振りへと戻る。まずは基礎的なことから始めなければ。基礎なくして応用はないのだから。


 そう思い、ただひたすらに目の前の稽古に集中する。一振り一振りに研ぎ澄ませた神経を集中させ、未来の糧へと変換していく。己に足りないものは何か、どうすれば足りない箇所を補えるのか。


 真摯に剣術と向き合い、己を高めていく。そうして一日一日を大切に過ごしていく限り、確実に理想へと近づけるものなのだ。逆に、それを淡々とこなしていない者が理想へ至ることは決してない。


 ノーマンが立ち去ってしばらくすると、続いてトラヴィスも起床してきた。ノーマンは寝起きとは思えない整った感じがあったが、トラヴィスは真逆といっても良いほどである。


「アスカル、頑張っているな」


「まぁ、オレだって弱いままでいたいわけじゃないからな」


「そうか。向上心があるのは結構なことだ。余計なお世話かもしれんが、無理はするな。毎日続けられることを確実に続けることが何よりも大事だからな」


 それだけ言い残すと、ノーマンと同じ方向へと立ち去っていった。その方向は執務室のある建物であり、朝から仕事でもしているのだろうかとアスカルは推測したのだが、これは当たっている。


 それだけ領主の仕事は忙しいということでもあるのだが、何よりノーマンは勤勉がすぎるのだ。トラヴィスもそれを嗜めるのだが、結局トラヴィス自身も手伝ってしまっていた。


 そうした内情まではアスカルも知らない。だが、朝から誰よりも早く仕事を始める姿勢にただただ感服するばかりだった。


「ふぅ、一度休憩にするか」


 アスカルとトラヴィスに呼び止められた時以外、ぶっ通しで素振りを続けていたため、さすがに額から多量の汗が流れ出る。体中の水分を放出してしまうかもしれない――と言えば、嘘になる。


 だが、ここで休憩せずに鍛錬を続けていれば、そうなるのは時間の問題ともいえる。


「はい、これ」


 中庭の柱に寄りかかるように座っていたところへ、横から真っ白な布がアスカルへ差し出された。差し出した人物は他でもない、ティナ・ハワードであった。


 中腰の姿勢で左手で前に垂れてくる前髪を押さえているティナの姿に、ドキリとしつつもアスカルは差し出された布を受け取り、額の汗をぬぐう。顔の真横にティナの胸部があるという、至近距離。


 朝の爽やかな風とともにティナが身に纏う香りが、アスカルの鼻をくすぐる。それはアスカルにとっては幸せな拷問でもあった。心臓は破裂するのではないかと思ってしまうほどに脈打っている。


 恋愛脳の人間であれば『これが、恋……?』というような反応になるのだろうが、アスカルは運動を終えた後であるから、そのせいだと錯覚しつつあった。


「ティナも早いな。朝の鍛錬か?」


「まあね。まだ起きたばかりだし、眠気覚ましがてら素振りをしたくて」


「そうか。オレは今から体力づくりのために走り込みをしてくる」


「……それじゃあ、お互い頑張っていきましょう」


 アスカルはティナに聞こえるか聞こえないかの小さい声で「おう」とだけ呟き、その場から逃げるように走り去っていく。そうして、二人はヌティスでの朝を迎えたのであった。

第170話「夜風に当たりながら」はいかがでしたでしょうか?

今回は20年前の戦乱の世を生きた人々と比べて苦しむ若い世代の話でした!

そして、結局は今できることをするしかないと思い直したアスカルたちの姿勢が印象に残った方も多いのではないでしょうか?

次回も3日後、1/15(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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