第169話 戦士としてのレベル
どうも、ヌマサンです!
今回は王都で戦ったエツィオのことを話す回になります。
一体、どんな話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第169話「戦士としてのレベル」をお楽しみください!
「じゃあ、王都で起こったことを話させてもらうが……」
すでに陽も落ちようとし、室内も薄暗くなっている中、アスカルは王都で起こったことを語ろうとしていた。しかし、そこで思いがけず、待ったがかけられる。
「待つでござる」
「の、ノーマン殿。何か……?」
「もう夜になろうとしているでござる。続きは、食堂で夕食を食べながらというのはどうでござろう?」
ノーマンの言うことはごもっともであった。執務室にいる誰もが空腹を感じている時間帯。ならば、優雅に食卓を囲んで積もる話をしようというのだ。真っ先にティナが賛成し、トラヴィスも異議なしといった様子であった。
「それじゃあ、ノーマン殿のお言葉に甘えて、夕食を食べながら話すことにします」と、アスカルが言ったことで、場所は執務室から食堂へ変更。太陽が沈んでいく中、薄暗くなっている廊下を移動し、城内の食堂へ。
「ノーマン殿、ここは……」
「うむ、食堂でござるよ。普通は領主と兵士らが一緒に食卓を囲むことはないとのことでござるが、拙者は身分の隔てなく、皆で楽しく食事するのが好きなのでござる」
そう。ヌティス城の食堂は、兵士たちと同じ空間で食事をする場として機能しているのだ。そんな話は聞いたことがなかったため、アスカルはかなり驚かされていた。
「そういえば、アスカルは食堂に来るのは初めてだったか」
「何度も来たことは。でも、兵士たちがいる時間に来たことは一度もない」
「ああ、そうだったな。思い出した思い出した」
「これだから年をとったジジイは忘れっぽいからダメなんだ」
そう口にしたが最後、アスカルは頭上から鉄拳を振り下ろされ、次の瞬間には地面に叩き伏せられていた。
「おい、アスカル。今、なんて言ったのか、もう一度言ってみろ。俺の聞き間違いかどうか確かめたくてな」
「ジジイは忘れっぽいからダメだと言っただけ……イテテテ、痛い痛い!暴力反対!」
「いいか、戦場でこの程度のことで痛がっていては死ぬぞ」
「だから、今はそんなこと関係ないだろ……!」
それから、アスカルは喋れば喋るほどトラヴィスからの制裁は強まる一方なのであった。
「お父さん。これ、止めなくて大丈夫なの……?」
「大丈夫。これくらい、いつものことでござるよ。さ、ティナはこっちへ」
「う、うん……」
ティナも止めたいという気持ちはあった。だが、相手は他ならぬトラヴィスである。自分の力ではどうにもできないことは考えるまでもなく、理解できてしまった。
とはいえ、心配なものは心配なのだ。ティナは何度も何度もアスカルとトラヴィスの方を見つめていた。トラヴィスの折檻は体力が現役時代と比べて落ちたこともあり、そう長く時はかからなかった。
「ハァ、ハァ……今日はこのくらいにしておいてやる」
「くっ、体のあちこちが痛い……」
説教自体はすぐに終わったが、アスカルは食堂の床でうつ伏せになったまま起き上がって来ないし、近くの椅子に座ったトラヴィスも息が上がっており、すぐに口がきける状態ではない。
とはいえ、トラヴィスとアスカルの回復を待っているのも時間の無駄であるため、ノーマンは4人分の食事を机の上に運ばせ、ティナに王都でのことを話させることにした。
「それじゃあ、ティナ。王都での事を話してもらっても良いでござろうか?」
「ええ、分かったわ。ワタシとアスカルが戦ったのはエツィオという人で……」
まず、戦ったエツィオのことをティナは口にした。それから、戦っている様子が手慣れていたこと、紋章使いであったことなど、包み隠すことなく領主であるノーマンに報告していく。
トラヴィスも息が上がって話をすることはできないが、呼吸を整えながら聞いている様子。そうした中で、ティナは語れる範囲で情報を共有していった。
「なるほど。エツィオという男、俺には遠く及ばないが、それなりの手練れなのはよく分かった」
「エツィオという男、もともとはプリスコット家に仕えていたとのことでござる。どうやら、マリアナ様との婚姻について家中で賛成派と反対派で真っ二つに割れたようでござった」
「となると、さしずめエツィオは反対派だったということか。それであれば、結婚式を台無しにして破談に持っていこうとしたという仮説も成り立つ」
ようやく呼吸を整えたトラヴィスと、じっと話を聞いていたノーマンとで仮説がくみ上げられた。なぜ、仮説なのかといえば、理由はいくつかある。
ロベルティ王国の公式発表で襲撃犯は近衛兵によって討ち取られた事実しか公表されておらず、かつ襲撃者は死亡しており、死人から事情聴取はできないためである。
ロベルティ王国としてもエツィオがプリスコット家に仕えていた人間であることは把握しているはずだが、公表しないのは王国とプリスコット家の名誉を守るためだろう……と、これはトラヴィスの推察だ。
「拙者は伯父上の推察が当たっているように思う。拙者がプリスコット家の人間であれば、家中の恥を晒すようなことは躊躇するでござる」
「まぁ、俺も隠そうとするのは分からなくもない。正直に言えばいいものを、正直に言うことが許されないのが政治の世界ともいえる」
「それは言い得て妙、でござるな」
「ははは、言い得て妙か。そうかそうか」
自分の発言内容を脳内再生し、ご満悦のトラヴィス。そして、ノーマンも何度も首を縦に振り、トラヴィスをおだてるように頷いていた。
「あの、お父さん。エツィオという人は知らなかったの?あれだけの猛者なのに、名前も知られてないなんて……」
思いがけないティナの発言に、トラヴィスとノーマンは顔を見合わせた。その表情は「意外だ」と言わんばかりである。
「話を聞く限り、紋章使いでその程度の実力の持ち主なら、20年前では珍しくはなかったからな」
「20年前では珍しくなかった……?」
「そうでござるな。それよりもスゴイ化け物が闊歩していた時代でござった」
実際に手合わせしたティナには、その発言の恐ろしさがよく分かった。もちろん、まったく発言していないが、アスカルも十二分に伝わっている。
エツィオ程度の実力者ならば20年前では相当数いたということ。つまり、強者としてカウントされていないのだ。
そのことが分かると、その辺の賊を討伐し、剣の腕前が上達したことに喜びを感じていたティナとアスカルは、20年前の戦場で狩られる側であると言われているようなものだった。
中でも、アスカルはそんな化け物が大勢いる時間軸で、『漆黒の戦姫』と恐れられたナターシャ・ランドレスはどれほど強かったというのか。スゴイ人物が身近にいるのだと感じるとともに、畏怖すら感じた。
それからのノーマンとトラヴィスの話は、アスカルもティナもはっきりと覚えていない。それだけ、自分たちが苦戦したエツィオという男は20年前の時間軸では大した強さではないと言われたことが衝撃的な内容であったのだ。
食堂で何とか食事をとり、まだ仕事が残っているというトラヴィスとノーマンの2人と食堂の前で別れた。
その後、ティナは自室、アスカルは与えられた部屋へと想い足取りで戻っていく。すでに夜も更けて足元すら見えづらく、冷え切った空気に包まれている廊下をゆっくり進む。そんな中、ぽつりとティナは口を開いた。
「ねぇ、アスカル。部屋に戻る前に、少し夜風に当たっていかない?」
「夜風か。廊下でこれくらい寒いんだし、外で風に当たれば体が冷えて体調を崩すんじゃないか?」
「それでもワタシは夜風に当たりたいの。どうしてもあなたと話がしたいの」
そこまで言われては、アスカルも応じるほかなかった。
第169話「戦士としてのレベル」はいかがでしたでしょうか?
今回はエツィオ程度の実力を持つ者は20年前では珍しくもないということが、アスカルがティナの2人の脳裏にやきつけられた回でした!
そして、その後にティナから話したいことがあるとアスカルは言われたわけですが、ティナはどんなことを話すつもりなのか、次回を楽しみにしていてください……!
次回も3日後、1/12(金)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!