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第168話 ヌティス城での再会

どうも、ヌマサンです!

今回はヌティス城の執務室で、家族が色々な事を話す、平和な回になります。

はたして、どんな話題が出るのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第168話「ヌティス城での再会」をお楽しみください!

 時は雀色時。ハワード領主の娘は久しぶりに父親と再会を果たしていた。数秒の間、見つめ合った後、二人は再会を喜ぶように抱擁を交わす。


 一方で、白髪頭の老将も無精ひげを右手でいじりながら、入り口で何をすることもなく佇んでいるだけの孫へと声をかけていた。


「アスカル。お前とティナが一緒に訪ねてくると知った時は驚いたぞ」


「知った時……?」


「ああ、お前の母親からな」


 そう言ってトラヴィスは手にした手紙を左右に可愛らしく揺らしている。表情は孫に会うことができた喜びからか、喜色満面であった。普段、アスカルが失言をするたびにゲンコツで殴るトラヴィス。


 だが、アスカルのことが嫌いだからそんなことをしているわけではないのだ。誰しも、可愛い娘が産んだ孫は可愛いと思うもの。いくら目に入れても痛くない存在であっても、しつけねばならない時には厳しい態度を取らなければならない。


 まさしく、トラヴィスの考え、行動はそれであった。そして、アスカルもそれに気づいていないはずはない。


 悩んでいれば「何かあったのか」と言いながら相談に乗って的確なアドバイスをくれる、アスカルにとっては本当に頼れる祖父なのだから。


 お互い口にはしないが、本心では互いのことを大切に想っている。でも、それを表情には出しても、素直に口に出すことはない。そんな祖父と孫の関係は、傍から見れば微笑ましい光景でしかないだろう。


「そうだ、ここへ来る道中に賊をティナとディーン・ウォード主従と一緒に倒したんだが……」


「その話か。すでに報告は受けている。おい、ノーマン。真面目な話だ。いい加減、抱擁するのは終わりにしろ」


 背後で恋人のように……とまではいかずとも、仲の良い父と娘が抱き合っているのをトラヴィスは止めに入った。さすがに、アスカルたちが討伐した賊の話を抱擁させたまま聞くわけにはいかないからだ。


 ノーマンも敬愛するトラヴィスからそう言われては、離れざるを得ない。そこからは、家族の再会という雰囲気から一変。領主とその一族として、真剣な話へと移っていった。


「ティナ。そして、アスカル。この度は賊の討伐、心より御礼申し上げる」


「いえ、ワタシも領主の娘。困っている民を見捨てるわけにはいきませんから」


「……そうか。アスカルも討伐に協力してくれたのでござろう。改めて感謝を」


「い、いや、そういう堅苦しいお礼は……。というか、倒さないとこちらにはこれないわけですから、当然のことですよ」


 事実、倒さなければ馬車でヌティス城下町へやって来ることなどできなかったのだ。


 そのことを伝えたアスカルだったが、ノーマンはそれでも討伐してくれたことの功績は大きいのだと、まるで我が子を諭すかの如く、何度も何度も感謝の言葉を伝えられてしまうアスカルなのであった。


「アスカル、褒められて謙遜するのは逆に失礼だ。礼も過ぎれば無礼になる」


 トラヴィスからの何気ない指摘。だが、アスカルは「なるほど」と思っていた。そう思うなり、アスカルは素直に感謝の言葉を受け取ることにする。これで報酬の話を自分から切り出せばがめついと思われるだろうから、報酬には一切触れなかった。


「そういえば、ディーン・ウォードの名前が出てきたが、詳しく聞かせてもらってもよいでござろうか」


 領主であるノーマンからそう言われたのだが、アスカルが話し出すより早く、ティナが説明し始めていた。そして、ティナはいかにも仕事ができる人だと感じさせる、簡潔に要点をまとめて報告。


「どうだ、アスカル。ティナの言っていることに間違いは?」


「いいえ、間違いありません」


「そうか」


 トラヴィスがアスカルに確認を取り、首を小さく縦に振ると、ノーマンは再びティナへ視線を移した。


「となると、賊の討伐をしようと言い出したのはディーン殿でござったか」


「はい」


 ティナの短く締まった返事を聞き、ノーマンは一通の書状を書き始める。注意深く観察してみると、どうやらウォード家に対しての礼状のようだった。


「アスカルよ。『よくこんなことをするな』と思っただろう」


「そりゃあ、思うだろ。でも、『領主として領内のことには責任を持たないといけない』、『貴族同士、礼を尽くすことも立派な仕事だ』とか言うんだろ」


 所々でトラヴィスの声色を真似しながら話すアスカル。そんな下手な声真似にトラヴィスはクスリと笑みをこぼす。声真似がおかしかったから笑ったのではなく、純粋に孫の成長を感じることができて嬉しかっただけなのだ。


「何がおかしいんだよ」


「いや、領主の務めを少しは理解しているのだと思って感心しただけだ」


「これくらい分かってないと付き合いだらけの貴族社会は生き延びられないって母さんから耳にイカ……じゃなくて、タコができるほど聞かされたからな」


「そうかそうか。セシリアもちゃんと大事なことを我が子に伝えていたか。それなら、ミシェルの方は心配いらんな」


「おい、それってどういう……!」


 アスカルでも理解しているなら、おつむの出来が良いミシェルは言うまでもなく理解しているのだろう……ということである。アスカルも言われてすぐは意味を掴めなかったものの、どういうことかと言いかけた辺りで理解することができた。


 だが、トラヴィスが言うように、頭の良さはミシェルの方が上であることはアスカルも分かっている。だからこそ、そんなことはないと反抗することができなかった。


 ともあれ、ノーマンはディーン・ウォードが率先してハワード領で賊の討伐を行ったことについての礼状をしたため、机の上に置かれている鈴を鳴らす。


 鈴を鳴らすと、執務室にアスカルたちを案内してくれた老紳士が到着。書き上げたばかりの礼状をノーマンから預かると一礼し、足音と服が擦れる音だけを響かせながら執務室を退出していった。


「先ほどの礼状の宛て先はフロイド・ウォードか」


「そうでござるよ。久しぶりにフロイド殿宛ての書状でござる。末尾には、次に会った時に直接お礼がしたいと一文を添えておいたでござるよ」


 礼状の内容に抜かりはない。先日のマリアナとノルベルトの結婚式にノーマンもフロイドも参列していたが、人が多かったこともあり、言葉を交わすことはなかった。だが、仲が悪いわけではないため、次に会った時にお礼をと記したのである。


「そうか。それにしても、フロイド殿とヘレナ嬢の息子か……。俺は会ったことがないが、どんな人物だった?」


「オレに聞くのか……。まぁ、勉強熱心な眼鏡をかけた好青年って感じの人物だった。あとは、真っ白な髪に水色の瞳をしていたな」


「真っ白な髪に水色の瞳か。さしずめ、髪色は母親譲り、瞳の色は父親譲りと言ったところだな。分かった。次に会うことがあれば、俺からも礼を言っておこう」


 領内での賊の討伐という真面目な話が終わると、ディーンはどんな人物だったかをアスカルとティナが話したり、逆にトラヴィスとノーマンからウォード夫妻の話を聞いたりというように、話に花が咲いた。


「にしても、アスカルとティナは王都でも大変だったそうじゃないか」


「今さらその話かよ」


「なんだ、聞いてはいけないのか」


「別にそういうわけじゃないが……」


 ウォード家絡みの話の次は、トラヴィスから求められる形で、王都で経験したエツィオとの戦いについて話すことになるアスカルとティナなのであった。

第168話「ヌティス城での再会」はいかがでしたでしょうか?

執務室での何気ない家族の話を楽しんでもらえれば嬉しいです。

そして、次回はノーマンとトラヴィスの前で、王都で起こったことをアスカルとティナが話すところから始まります!

次回も3日後、1/9(火)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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