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第166話 酒場と風呂屋

どうも、ヌマサンです!

今回は前回の続きで、酒場から話が始まります!

本当に今回はサブタイトル通りの話になるので、楽しんでもらえれば嬉しいです!

それでは、第166話「酒場と風呂屋」をお楽しみください!

「それじゃあ、乾杯」


「乾杯!」


 無事、酒場までたどり着いたアスカルとティナ。酒を飲みながら、のんびりと食事をとる……ことはなかった。あまりの空腹に耐えかねていたのだ。注文した料理が届くなり、次々と口の中へと放り込んでいく。


「この魚の塩漬け、思っていたよりも美味しいな……!」


「ええ。最近は街道の整備も進み、町と港の往来が盛んだと聞いたけど、こうした恩恵があるなんて、実際に足を運んでみないと分からないものね」


「だな。何より、漁をしてくれている漁師には感謝しかない。都市部で暮らしていると、こうやって食事を作ってくれている人のことを忘れがちだから注意したいものだ」


 美味しそうに魚の塩漬けを食し、酒をぐびぐびと飲みながらの一言。アスカルがそんなことを言うとは思っていなかっただけに、ティナも驚きを隠せずにいた。


「どうかしたのか?」


「いえ、アスカルがそんな生産者に感謝しながら食事をしているのが意外で……」


「まぁ、一日たりとも生産者への感謝を忘れたことはない……と言えば噓になる。だが、まったく忘れているわけではないぞ。こうして時々、ふとした時に思い出すんだ。誰のおかげで生かされているのかを」


「そ、そうなのね」


 軽く相槌を打つティナだったが、続く言葉が見つからなかった。それほどアスカルの何気ない一言は、強く、強くティナの心を打った。


「オレたちみたいな貴族出身者は民衆の暮らしを意識しないことの方が多い。だが、意識しなければいい領主、民衆に慕われる領主にはなれないと思う。だから、オレは少しでも民衆のことを理解できる貴族でありたい」


「そう。強くなりたいだけじゃなく、そんなことを思っていたのね。ワタシ、素直にアスカルのことを尊敬するわ」


「……照れるな。でも、素直に受け取っておくとする。さて、もう一杯どうだ」


 笑顔で木製のジョッキを持ち上げるアスカルにつられて笑うティナ。結局、二人とももう一杯どころか、もう三杯になってしまったのだが、それはまた別の話。


 ともあれ、酔いつぶれる寸前まで酒を飲み、ごちそうに舌鼓を打ち、満足のいく一時を過ごした二人は、宿屋で旅の疲れを癒した。


 そうして迎えた翌朝。先に目覚めたのはティナ――ではなく、アスカルであった。素振りをしようにも、昨日の汗臭さが服どころか体に残っている感覚があり、どうにも気になってしまう。


 この時点で素振りをした後の予定は心の内で決まっていた。そう、身を清める意味も込めて、風呂屋に行こう。温泉のようにとはいかずとも、このままでいるよりは良い。そう判断し、建物の外へ出る。


「ふわぁ……。それにしても、気持ちのいい朝だな」


 頭上で左右の握りこぶしを空へと伸ばし、体をゆっくり伸ばす。温かな日差しの下、ゆっくり体を伸ばし、体に一日の始まりを告げる。


 アスカルが私服の一時を過ごしていると、寝起きの女剣士がまとめる前の緑髪を揺らしながらやって来た。


「あら、おはよう。アスカルがもう起きているなんて思わなかったわ」


「ティナか。おはよう。昨晩はぐっすり眠れたようで何よりだ」


 ティナの左後頭部についた寝癖をちらりと見てからの一言。そのことをアスカルの視線の動きから左後頭部に何かあると気づき、その部位を左手で触れてみると、ぴょこんとはねた《《何か》》が当たる感触があった。


 もしかしなくても寝癖だと気づくと、ティナは顔を真っ赤にしていた。アスカルが起きて来ていないと思い、髪も結ばずに出てきたことが災いしたのだ。アスカルに見られるくらいなんでもないと理性では思っていても、感情は違っていた。


「そうだ。この後、風呂屋に行くつもりなんだが、良かったらティナもどうだ?」


「じ、じゃあ、ワタシもご一緒させてもらおうかしら」


「決まりだな。それじゃあ、一度部屋に戻って着替えよう。さすがに寝間着のまま街中を徘徊するわけにはいかないしな」


 もちろん、アスカルは自分の服装や身なりを最低限整えたいと思っての一言だった。だが、寝癖も直させずにティナを風呂屋まで連れていくのは、さすがにマズいと感じてもいた。要するに、さりげなくティナのことも気遣ったのである。


 惜しむならくはアスカルからの思いがけない提案を、絶賛動揺中のティナは気遣われたと気づかなかったことであろうか。ともあれ、二人はひとまず宿屋の部屋へと戻り、風呂屋へ赴くための身支度を整えた。


 部屋の前ではなく、宿屋の外で待ち合せたアスカルとティナは、二人並んで風呂屋までの道のりを歩いていく。朝から大勢の人で賑わう大通りに、目的の風呂屋はあった。


 身分を問わず、一般市民も貴族も訪れる風呂屋。娯楽施設という意味合いが強く、食事や飲酒、賭博まで楽しめる場である。温浴と蒸し風呂の二つが備えられているが、蒸し風呂は満員と言われたことにより、強制的に温浴となった。


「混浴か男女別かをお選びいただけますが、いかがなさいますか」


 アスカルが隣にいるティナを見てみれば、恥ずかしそうにしている。その時点で、アスカルは迷うことなく決断することができた。


「では、男女別で」


「分かりました。男性の方はあちらから、女性の方は反対側のそちらからになります」


 受付で諸々の手続きを済ませると、男湯と女湯に分かれることに。そこで、ハウズディナの丘の時と同じく、風呂屋の外で待ち合せることになった。


「前回はティナを待たせてしまったから、今回は早い方がいいのだろうか。まあ、そこまで長風呂するつもりもないし、早く上がるとしよう」


 温浴は二人で向かい合って木桶風呂に入る形式となっている。そのため、空いているところに入ることになるのだが、皆が手前から入ることもあり、空いていたのは一番奥。


 知らない老人と同じ湯船に浸かることになってしまい、さすがに長風呂は難しいとアスカルは感じていた。もちろん、これはアスカルに限った話ではない。


 目の前にいるのは美しい美女でも何でもなく、ただの見知らぬ老人。ある意味では目のやり場に困る状況である。アスカルは別に話し上手でも何でもないため、初対面の人と楽しくおしゃべりすることなど不可能であった。


 結果は当初の予定通り。先に風呂に浸かっていた老人よりも早く上がり、まだ朝の肌寒さが残る風呂屋の外でティナを待つことに。


 今頃はティナもゆっくり湯船で休んでいるのだろうかと目を閉じて考えるアスカルだったが、すぐに脳内で思い描いた光景を振り払う。


「いやいや、人が入浴している様子を想像するなんて破廉恥な……!というか、あのティナを相手にそれはマズいだろう……」


「……何がマズいのよ」


「それは――って、ティナ!?もう上がったのか!?」


 喉の辺りまで出かかっている言葉を急いで、腹の方へと押し戻し、取り繕おうとするアスカル。その様子をティナは不思議そうに見つめる。


 そんなティナの反応から『マズいだろう』よりも前の部分は聞かれていない可能性が高いと考えたところで、ようやくアスカルは冷静さを取り戻すことができた。


「ええ。ワタシは湯船に浸かって息抜きもできたし、髪も洗ってもらえて大満足よ。そういうアスカルは?」


「オレは微妙だったかな。知らないご老人と一緒に入ったんだが、気まずくてすぐに出てきてしまった」


「そうだったのね。でも、ワタシも知らないご婦人と一緒に入ったけど、楽しかったわよ。夫の愚痴とかが主だったわ」


「朝から知らない人の愚痴なんか聞いてたら、幸せが逃げていきそうだな」


「ワタシは人の愚痴を聞いたくらいじゃ幸せは逃げないと思うわ。むしろ、その程度で逃げる幸せなんて大したことないだろうし」


 何気ないティナの言葉だったが、「そういうとらえ方もあるのか」とアスカルの心に深く刻まれることになった。

第166話「酒場と風呂屋」はいかがでしたでしょうか?

サブタイトル通り、今回は酒場と風呂屋での話でした。

何気ない旅行の中での一コマ、楽しんでいただけていれば幸いです!

明日はいよいよ大晦日。

次の更新は年明けになりますので、来年も引き続き本作のご応援よろしくお願いいたします。

それでは、良いお年を!

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