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第164話 終わっていなかった自己紹介

どうも、ヌマサンです!

今回で賊の討伐は決着します!

はたして、どんな結末を迎えるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第164話「終わっていなかった自己紹介」をお楽しみください!

「まだもう1人弓使いが残ってる!」


 ティナの鋭い声に弾かれるように魔剣ヴィントシュティレをアスカルが構えた直後。茂みの中からキラリと光るものが発射された。その刹那、辺りに金属と金属がぶつかる甲高い音が響き渡る。


「アスカル!?」


「大丈夫。ケガはしてない。それよりも前!」


 アスカルのすぐ側には矢が一本転がっていた。それを見れば、何が起こったのかを理解することは容易である。そして、アスカルが何を伝えたかったのかをティナは瞬時に把握した。


 そう、それは茂みの中に潜む弓使いによる第二射。それが来ると、察知していたのだ。案の定、茂みの中から矢が放たれ、ティナにより払い落される。次の瞬間には、風魔紋を発動させながら茂みに駆けたティナが茂みごと敵を葬り去っていた。


「アスカル。ディーンたちのところへ行きましょう」


「ああ、そうだな。急ごう」


 見たところ、苦戦を強いられてはいるが、ディーンたちに死人は出ていない。実力が拮抗しているのか、一進一退の様相を呈していた。とはいえ、今の時点で死人が出ていないだけであり、急がなくていいわけではない。


 それゆえに、アスカルもティナも力の出し惜しみをせず、全力疾走。たちまちディーンたちと合流し、敵と交戦を開始する。


「はぁっ!」


 弓使いを斬った後、一度紋章の力を解除していたティナだが、またしても敵を切る時には翡翠色の風を直長剣に纏わせていた。一瞬で紋章の力を発動させたり、解除させたり高度なことができる彼女を、アスカルは心の底から賛辞を送ってしまっている。


 だが、賛辞を送っているだけではなく、アスカルもディーンたちの応援に駆けつけて賊と戦う中で、一瞬で氷魔紋の力を発動できるように練習していた。そう、練習していたのだ。


 自分にもできるか試してみよう。できないのなら、何度も試してできるようになろう。そんなことを戦闘中に考えられるのだから、戦いの優勢不利は言うまでもなかった。


 紋章使い2人が加勢したことで、斬り合っていた賊は瞬時に壊滅。そして、ティナが離れたところからこちらを狙っている弓使い5人を始末するべく、単騎で突進していく。


 さすがに一人では危ないと、アスカルやディーンの護衛数人が続くも、追いついたころには5つの死体が転がっているだけであった。


「もう終わったのか」


「さすがはティナ殿だ。やはり紋章使いの方は、戦いの次元が違う……」


「そうだそうだ。いやぁ、これほどの方と共に戦えるとは、我々も実に幸運でした」


 直長剣に翡翠色の風を纏わせ、その場に立っている勝利の女神に、ディーンの護衛たちは褒め称える。しかし、「紋章使いは戦いの次元が違う」と言われている状況でも、アスカルはあまり嬉しいとは思わなかった。


 何せ、彼らが褒め称えている戦果を挙げたのは他でもないティナだからだ。そこにアスカルの功績はない。それに、アスカル自身、瞬時に5人も敵を倒すことはできないことを理解している。


 だからこそ、嬉しいというよりも悔しいという気持ちの方が大きかった。そんな悔しいという感情は成長速度を飛躍的に向上させる。向上心に対しての着火剤と言っても良い。


 アスカルは賊の討伐を終えて町に戻った後から、すぐに剣の素振りと走り込みを行い、一刻も早く強くなりたいという想いに満ちていた。


「ティナ殿、アスカル殿は何を?」


「走り込み、そして素振りよ。おそらく、賊の討伐をしているうちに得るものがあったんだと思うわ」


「やはり、近衛兵の方は違いますね。私は力不足でも、向き不向きがあることを理由に剣術や体力づくりを熱心に行うことはしませんから」


「じゃあ、これを機にディーン殿も始めてみたらどうかしら?」


 アスカルが広場の隅で剣の素振りを何百回と続けている様子を、ベンチに腰掛けて見守るティナとディーン。汗水たらして稽古に打ち込むアスカルとは対照的に、ティナとディーンの方は穏やかな一時を過ごしている。


「あれ?そういえば、私の自己紹介を正式にしていないような……」


「そういえば、アスカルとワタシの自己紹介で終わっていたわよね……?名前は護衛の人たちが言っていたから知っているけど、あなたの口からは聞いていないわ」


 賊退治に向かう前の自己紹介を思い返し、ディーンの自己紹介がまだだということを2人そろって思い出した。となれば、ディーンも自己紹介をしないわけにはいかない。


「それは失礼いたしました。私はディーン・ウォード。セミュラ領の西、ヴォードクラヌ領の南に小さいながら所領を持つフロイド・ウォードとヘレナ・ウォードの一人息子です」


「だから、坊ちゃんって言われていたのね」


「はい。坊ちゃんって言われるほどの家柄でもないから、恥ずかしいとは思っているんです。でも、皆が笑顔でそう呼んでくれるのをやめろというわけにもいかず、坊ちゃん呼びを続けてもらっているんです」


「そうだったのね。なんだか、主従の関係でありながら、家族のような親しさや温かさが感じられて良いわね」


 ティナが言ったように、ディーンと護衛の者たちのやり取りは主従関係を超える、温かい家族のようなものを感じさせた。


「父から聞いたことがあるんです。アスカル殿のお父上、クライヴ・ランドレス殿は立派な御仁であったと」


「ええ、最後まで王国のために戦い抜いた誇り高い戦士だって、私も父や大伯父から聞いたことがあるわ」


「私の両親は文官とその夫人であったことから、抗うこともできず、生き延びてしまったのだと。だから、死んでいった者たちのためにも、王国の平和のために尽力しなければならない。子どもの頃からそう言われてきました」


「そう……」


 クライヴ・ランドレス。他ならぬアスカルとティナの父親であり、『漆黒の戦姫』と呼ばれたナターシャの弟。そして、セシリアにとって最愛の人。


 そんな彼の最後をティナは見たことはない。だが、周りの者たちから姉弟揃って立派な英傑であったと耳に胼胝ができるほど聞かされてきた。何もそれはティナに限ったことではない。


 ロベルティ王国に代々仕える貴族たちは尊敬してやまないことを知っており、他ならぬ女王であるマリアナ・ロベルティがひと際功績のある人物たちだと述べたことから、学校の教科書にもでかでかと掲載されている。


「私は彼らのような英傑になれるほど強くはない。でも、学問は好きだから、学問を極めて領主となった時に少しでも領民に還元できないかと常に考えているんだ」


「だから、馬車で最初に会った時も本を……」


「ええ。これは経済学の本です。父からも領主となるからには経済のことは最低限理解しておかなければならないと常々言っているので、頑張って理解しようと必死に読んでいるんです」


 ディーンはそう言って膝の上に置いた本の表紙を優しくなでている。本の表紙も小口も手垢がつき、何度も読み返しているのだということを物語っている。ティナは自分にはない勤勉さに頭が下がる思いであった。


「ディーン殿。本当に私たちの父祖はスゴイ。ワタシにはできないようなことを当然のようにやってのけてしまう」


「そうですね。私など戦乱の時代を生き抜いた父と母には遠く及びません。それでも、追いつこうと研鑽し続ける心意気を忘れず、この平和という贈り物をより良い形で次の世代に引き継がせたい」


「ワタシも同感だわ。お互い、より良い未来のために頑張りましょう」


 灯点し頃の広場の隅で、一人の青年と戦乙女の卵はこれからの未来を思い描き、手を握り合うのだった。

第164話「終わっていなかった自己紹介」はいかがでしたでしょうか?

今回は賊の討伐に、アスカルの向上心と焦り。

そして、ティナとディーンの親世代の話もされていました。

ディーンが平和な世を維持するために頑張っている姿も印象に残ったのではないでしょうか?

次回も3日後、12/27(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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