第163話 いざ賊退治へ
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよアスカルとティナがディーンと共に賊の討伐に向かいます!
はたして、賊討伐がどうなるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第163話「いざ賊退治へ」をお楽しみに!
「よし。ただちに賊の討伐に赴くとしようか」
白髪の青年――ディーンの一言で、すぐにも出発する運びとなった。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。ワタシはティナ・ハワード」
「オレはアスカル・ランドレスだ。よろしく」
「ハワードに、ランドレス……。君たちはもしかして――」
家名を聞き、ディーンは何か気づいたらしかった。いや、ディーンだけではなく、彼の護衛の者たちも驚きに目を見開いている様子。
「はい。オレはクライヴ・ランドレスとセシリア・ハワードの息子。こっちのティナはノーマン・ハワードとシンシア・プリスコットの娘だ」
「なるほど、それではとこの間柄にあたるわけか。いや、合点がいった。でも、王国の名家の出身だったとは思わなかった。これまでの無礼、詫びさせてくれ」
突然、無礼を詫びるといってディーンは頭を下げた。だが、頭を下げたのは彼だけではない。護衛の人たちも一斉に頭を下げていたのだ。これには、アスカルもティナも戸惑わずにはいられなかった。
「となれば、アスカル様はハワード領主であらせられるトラヴィス様の……」
「ああ。外孫にあたる。そして、ティナは次期領主の娘……ってことになるか?」
「えっ、ワタシに聞くの?でもまあ、間違ってはいないわね。まぁ、ハワード領内の問題は他人事じゃないし、領主の一族として迅速に対応に当たらせてもらうわ」
「それはありがたい……!この事、みんなに伝えて参ります!」
よほど嬉しかったのか、御者の老人は喜色満面の様子で、仲間や町の人々のもとへ早歩きで向かっていく。そんな老人の背中が小さくなるまで見届けると、ディーン一行は改まった様子でじっとしていた。
「今回の賊の討伐、指揮権は領主の血縁者であるおふたりのどちらかにお譲りしたいのですが、よろしいですか?」
「いや、オレもティナも指揮を執った経験はないし、ディーン殿の護衛の方々に偉そうに指図するわけには……」
そう言って、アスカルは面倒な立場から逃げようと試みる。だが、物事というのは思い通りに運ぶものではないことを、アスカルはすぐにも思い知らされることになった。
「……とアスカル殿は言っているが、どうだ?」
「我々は別に構いません。坊ちゃんを護衛するのが任務であり、坊ちゃん以外の人からの指図を受けてはならないとは言われておりません」
「だそうだ。というわけで、お願いできないだろうか」
これは断れない。もはや、アスカルもティナも諦めるしかなかった。となれば、アスカルが取れる選択肢はティナに押し付けることなのだが、こちらもそう上手くいかなかった。
「アスカルは近衛兵でしょ?いずれは部下を持つことになるんだから、早いうちに経験を積んでおいた方がいいんじゃない?」
「おお、近衛兵だったとは……!」
「坊ちゃん、これは心強いですな」
「ああ、思っていたよりも賊退治は楽に終わりそうだ」
そんな風に言われてしまい、今さらアスカルは近衛兵と言っても新米であることや、ティナの方が剣の腕が立つことなど、誰の耳にも届かない状況になってしまっていた。
「ティナ、本当にオレが指揮を執るのか?不安しかないんだが……」
「大丈夫よ。むしろ、前に出なくていいんだから、安心して討伐に臨めるでしょ」
「それはまぁ……そうなんだが」
確かに指揮を執る者が最前線で戦うことはない。ティナから言われるまでそのような捉え方をしていなかったため、アスカルは素直に感心した。
それに、指揮を執る者が最前線で戦わざるを得ない状況とは、もはや後ろで指揮を執ってどうこうできる状況ではない時なのだ。そこまで賊の討伐で追い詰められないことを祈りつつ、とりあえず一同は出発することに。
「御者の老人が言っていた賊が出たという場所は確かこの辺りだったか」
「ああ、おそらくは同じように矢を放ってくることが考えられるから、備えておこう」
辺りを見回しながら一歩一歩慎重に進めていく。張り詰めた空気にあまり慣れていないこともあり、少し息苦しさすら感じる。そして、お待ちかねの集団との邂逅が訪れてしまった。
突如として飛来した一本の矢。真っ直ぐにディーンの首を狙っていたのは明らかだった。
「はぁっ!」
目にもとまらぬ速さでティーンと矢の間に直長剣を割り込ませたのはティナ。彼女が矢を斬り払った音を合図に、臨戦態勢がとられる。
「来たっ!矢が東から5本!西北から2本!」
ディーンの護衛を務める男性が2人、木盾を持って東と西北に立った。アスカルはディーンの守りはひとまず大丈夫であることを確認し、他に敵影がないかの警戒に当たる。次なる指示を飛ばす。
「来た!東から10に……いや、11人だ!西からは8人!」
弓に気を取られているところを狙っているのか、東西から合計19人の賊が接近してきた。それぞれが剣や長槍、斧などを所持して突っ込んでくる。
「ティナは西側の敵に当たってくれ!残りの皆さんで東の敵を防ぎましょう!」
人数の少ない西側にティナを単騎で突撃させ、残るディーンの護衛8名に東側からかけてくる10人の賊の相手を命じる。
アスカル自身は東から飛んできた矢を二本、剣で叩き落とし、自身の身の安全を確保。他の矢はすべてディーンの護衛が掲げる木盾に突き刺さっていた。
「アスカル殿、私と護衛たちで東からの賊は倒す。だから、君は……」
「分かっています。ここで指揮を執るのはやめて、オレはティナの応援に向かいます!」
8対1の状況に放り込んでおきながら、アスカルは心配でならなかった。だからこそ、ディーンからの言葉に弾かれるように西へ。
ティナが自分より強いことは身に染みて理解している。なのに、どうしてこんなにも心配で、居ても立っても居られないのか。アスカルには分からなかった。
現に西の敵を一人で引き受ける構図となっているティナは紋章の力も使わず、圧倒的な実力ですでに3人を斬り伏せている。
しかし、ティナが思いのほか強く、そう簡単に抜くことができないと悟り、賊のうち2人は向かってきているアスカルの方へと剣を引っ提げて向かってきた。
「おらぁ!」
「うぐぐっ……!」
色黒の青年が振り下ろした一撃の重さに表情を歪めるアスカル。そして、真正面から剣を受けたことで横も背後もがら空きになっており、そこを見逃さずにもう1人が槍で突いてくる。
だが、こうなることはアスカルも予想の範疇。左後ろから槍が繰り出されたことを肌で感じ、色黒の青年の一撃を左へ受け流した。
「なっ!」
このアスカルの行動により、色黒の青年と槍使いが激突する……のではなく、色黒の青年の肩が鈍い音を立てて槍で貫かれる同士討ちへとつながった。
アスカルを狙って突きだされた槍が味方である色黒の青年の肩を貫いたことに槍使いが動揺している隙に、前に出ている左足の足背に魔剣ヴィントシュティレを突きたてる。
悲鳴を上げて地面をのたうち回る槍使い。アスカルは残酷だと思いつつも、殺すよりはマシだと思い、歩行できないようにしたのだ。
そして、やっとティナを助けに行けると思い、駆けだそうとした時には残る3名の賊は血だまりに沈んでいた。
「アスカル!その槍をこっちに!」
ティナからの投げてよこせというジェスチャーに、アスカルは迷わず色黒の青年に突き立つ槍を抜き取り、投擲する。
その血の付いた生々しい槍を再びティナが人が隠れていそうな茂みに投擲すると、「ぎゃっ!」という断末魔が聞こえてきたのだった。
「まだもう1人弓使いが残ってる!」
その言葉に、アスカルは再び身構えるのだった。
第163話「いざ賊退治へ」はいかがでしたでしょうか?
今回は賊退治が始まっていましたが、まだ終わったわけではありません。
無事に賊退治が終わるよう、引き続き見守っていてもらえれば幸いです……!
次回も3日後、12/24(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!