第162話 ライオギ平野を南に行こうとしたら
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルとティナがヌティス城下町を目指して移動していきます……!
はたして、今回はどんな旅路になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは、第162話「ライオギ平野を南に行こうとしたら」をお楽しみください!
ハウズディナの丘の近くにできた温泉で疲れを癒し、フェルネの町で一泊したアスカルとティナ。朝から2人そろって起床し、剣の素振りと木刀を用いて模擬戦を行っていた。
「くっ、やはりそう簡単には勝てないか……」
「当たり前でしょ?一体、ワタシが道場でどれだけ鍛えてきたと思ってるのよ。そんな一朝一夕で越えられたらワタシの立つ瀬がないわよ」
「そ、それもそうだよな……」
地面に叩き伏せられ、己の未熟さを思い知らされたアスカル。己を叩き伏せる実力のティナも強いが、それだけに彼女と互角に斬り結んでいたエツィオの剣の腕前が際立つ。
「でも、アスカルは昨日りもワタシの剣を受け止める力がついていると思うわ」
「それは本当か……!?」
「本当よ。でも、ほんのちょびっとだけよ。成長してないわけじゃないけど、昨日よりもうんと強くなったわけじゃない」
「そう言われると、素直に喜んでいいのか分からなくなるな……。ま、成長してるのなら喜んでもいいのか」
少しはマシになったと思うことにしたアスカルは、その後もティナと模擬戦を続けた。そうして朝から汗だくになるまで運動した2人は、汗を拭きながら部屋へと戻り、身支度に取りかかることに。
今日も馬車移動が続く。ライオギ平野をひたすら南へ進み、明日の夕刻にはヌティス城下町に到着する予定なのだ。そして、今日は道半ばの宿場町で一休みすることになっている。
ただ、その馬車の出発時刻までの時間が迫りつつあるため、アスカルとティナの身支度は実に慌ただしい。だが、身支度をほぼ同時に終えた2人は、せっかく汗をぬぐったにもかかわらず、馬車に乗る頃には再び汗を拭かねばならない事態に陥っていた。
そんなアスカルとティナが駆け込むように乗車した馬車はがらんとしていた。大きな街道を進むため、てっきり混み合っているだろうと2人は考えていたのだが、その予想を裏切られる結果に見舞われていたのだ。
町中には大勢の人で賑わっているように見えるが、馬車の乗り場には人も少なく、馬車自体も数が随分と少ない。人は多いのに、馬車の台数も乗客の数も少ないという奇妙な状況に、アスカルもティナもただただ困惑するのみであった。
「おや、ずいぶんと馬車が空いていますね。乗客は私を含めて3人とは」
アスカルとティナの後に乗車してきたのは一人の青年。真っ白な髪に水色の瞳。そして、本を片手に眼鏡をかけている様子からして、真面目で誠実な印象を受ける。
「お二人は新婚旅行の最中ですか?」
「し、新婚旅行!?」
「家族旅行のようなものだ。いや、はとこ同士では家族旅行……というわけでもないな。じゃあ、何といえば……」
「お二人の関係は分かりました。いきなりぶしつけな質問をしてしまい、申し訳ありません」
白髪の青年はくすりと笑うと、手にしている本を上に組んだ左足の上に置き、読書を始めていた。アスカルは青年の切り替えの早さに驚きつつ、傍らのティナを見ると、新婚旅行と言われてから赤面したまま。
ティナの初心な反応を見ていると心が温まるが、そこまで顔を赤らめるほどのことなのか、疑問にも思えてくる。
そんな折、御者の老人が小走りでアスカルたちの元へとやって来た。
「あのぅ、大変申し訳ないのですが、今日はヌティス城下町方面の馬車は運休することになりました」
「運休……?何かあったのか?」
「はい。3日前から賊が現れ、馬車が5台襲撃されているのです」
御者からの詳細を聞き出すと、ヌティス城下町から向かってきている馬車が3台、逆にヌティス城下町へ向かう馬車が2台襲撃されたとのこと。
荷馬車は御者が殺されたうえに荷物を奪われ、乗客を乗せた馬車は御者も乗客も皆殺しにされたとのこと。そのことが今日になって発覚したということであった。
「皆殺しにされたのに、どうして賊がいることが分かったんだ」
「皆殺しというのは結果的に、ということです。今日、逃げ延びてきた御者が伝えてくれたのですが、傷が深かったこともあり、我々に事のあらましを伝えた直後、そのまま息を引き取ってしまったのです……!」
皆殺し。異変をやっとのことで伝えてくれた御者も絶命。その話を聞き、先ほどまで赤面していたティナはいつしか涙を流していた。
「そうか、それは痛ましいな……。それで、御者の傷と言うのはどんな傷だった?」
「傷を見た医者が言うには、致命傷は背中に受けた斬り傷だったようで。逃げるために移動しているうちに傷口が開いて悪化してしまったのだろう、と」
「あと、肩口にも矢が刺さった形跡があり、どうも自分で引き抜いたのではないかとも言っておりました」
そして、御者が伝えた状況には道端に壊れた馬車と血痕を発見。その直後、矢が何本も飛んできて、それを合図に何十人もの賊が剣や槍を持って襲撃してきた――
そんな襲撃時の生々しい話を聞き終えた頃には、ティナの目からは涙は消えていた。そして、白髪の青年も本を閉じ、御者の老人の話を聞き入っていたように見受けられる。
「それにしても、賊の数は数十人か。弓を扱える人間も複数名いるあたり、規模はかなり大きいな」
「はい。ですので、馬車は運休ということに決まったのです。大変申し訳ございません」
「謝るのはご老人、あなたではない。この私が賊を始末しに行きますから」
始末しに行くといったのはアスカルでもティナでもなく、眼鏡をかけた白髪の好青年であった。
「始末しに行くといっても貴方様お一人では……」
「分かっているさ。だから、私の護衛も呼ぶことにするよ。腕の立つ者が10名ほどいるからね」
青年は護衛と言ったが、周囲にそれらしい人は見当たらない。老人もアスカルもティナも揃って首をかしげていると、懐から何かを取り出した青年が手を掲げると、信号弾が空に打ちあがった。
――すると、突然走ってくるような慌ただしい足音が聞こえてきたのだ。
「ディーン坊ちゃん!一体、今までどこに……!ハッ、まさか勝手に馬車に乗ってどこか別のところへ行こうとしておられましたな!」
「じいや、説教はよしてくれ。それよりも、ヌティス城下町までの道中に賊が出たらしい。何とかならないか」
「なんとかならないかと申されましても、ここは我らの領地ではありません。身勝手は慎まねば!」
「ふふっ、困っている人々を放って帰っては、それこそ父にも母にも『ウォード家の名折れだ』と、こっぴどく叱られるであろうよ」
ディーン坊ちゃんと呼ばれた青年に賊を何とかならないかと言われた護衛の戦士たちはひどく戸惑っているようだった。だが、ウォード家の名折れと青年から言われて、表情が変わっていたのだ。
「承知しました。では、我らが賊の退治に赴きましょう。坊ちゃんはここに残っていただき……」
「何を言うか。私だって多少なりとも剣は扱えるぞ」
「いえ、坊ちゃんのへなちょこ剣術ではその辺の子どもにだって敵いません」
「そ、それは言い過ぎだ!子供くらい余裕で倒せる!」
いつのまにやら主従で言い争う事態になり、完全に置いてけぼりのアスカルたち。だが、意を決した様子でティナが青年に話しかけた。
「あの、ワタシとそこの彼も剣の腕に覚えがあります。ぜひとも賊の討伐に加えてはもらえないでしょうか」
「剣の腕に覚えがと言われましても、さすがに……」
「良いではないか。よし、一緒に賊を退治しに行こう!」
護衛の中年男性の言葉を遮り、ともに賊退治に行くことを許可した青年。これにより、即席ではあるが賊を討伐する部隊にアスカルとティナも加わることになったのであった。
第162話「ライオギ平野を南に行こうとしたら」はいかがでしたでしょうか?
今回はアスカルとティナが賊の討伐に関わることになっていました!
賊の討伐や、青年の正体など、色々と考えながら読んでもらえればと思います……!
次回も3日後、12/21(木)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!