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第160話 天の足り夜

どうも、ヌマサンです!

今回はアスカルとティナがついに温泉へ到着します!

一体、どんな旅路になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第160話「天の足り夜」をお楽しみください!

 ハウズディナの丘付近にある温泉。以前、訪れたことのあるセシリアからの情報をもとに、温泉で一休みしたらフェルネの町に戻って一泊する旅程になっている。


 その温泉がある地へと向かう馬車に乗り込んだアスカルとティナ。約束通り到着まで休むことになったアスカルは、こくりこくりと一定のリズムで首を揺らしながら眠っている。


「やっぱり疲れてたのね。無理もないわ」


 馬車が出発し、ガラガラと音を立てて揺れる中でも、寝息を立てて眠れるほどなのだ。アスカルとしても、自分で思っている以上に疲れていたに違いない。


 そんなアスカルの隣で、ティナは外の風景が移り変わっていく様を眺めていた。時刻は昼から夕方へと変わり、陽が徐々に傾いて行っている。


 景色も荒野から森林地帯へとすっかり様変わりしていた。夕刻の森の中を進んでいることもあり、より一層辺りが暗くなったように感じられる。


「それにしても、アスカルの寝顔ってキレイね……」


 つい寝ているアスカルの顔へ、吸い寄せられるように手を伸ばしてしまうティナ。馬車と同じタイミングで揺れる若緑色の髪、きめ細かな肌。近くで見れば見るほど、ティナはアスカルの顔立ちの良さが脳裏にやきついてしまう。


「男なのに、女のワタシより肌がキレイって羨ましいわ……。何かしているふうでもないから不思議よね……」


 女性にとって執着してしまいがちな美貌。男性であるアスカルが何もしなくても美しい肌を持っていることについて、ティナはどうしてもモヤモヤしてしまう。


 そんな想いをティナに抱かれているとは知らず、眠り続けるアスカルだったが、馬車が温泉のある街に到着したことで目を覚ますことになった。


「アスカル、着いたわよ」


「ふわぁ、もう着いたのか」


 眠い目をこすりながら荷物片手に馬車を降りようとするアスカル。ティナは忘れ物がないか念入りに確認しながら降りていく。アスカルが寝起きでしっかりしていないからこそ、自分がしっかりせねばという想いに満ちていた。


 そのことは態度だけでなく、表情や仕草にも表れており、明らかに力んでいる。さすがにアスカルも気がかりな様子であったが、温泉に入れば自然と力も抜けることだと信じ、温泉の癒し効果に委ねることにした。


 受付で手続きや料金の支払いを済ませた後は、男女に分かれて温泉へ。


「それじゃあ、集合場所は温泉を出てすぐのところでいいかしら」


「了解した。たぶん、オレの方が先に上がるだろうし、そこで待っておくよ」


 そう言って、それぞれの性別によって分かれている温泉へと分かれる。アスカルは子どもの頃から温泉が大好きな母親に力説され、連れまわされたこともある。


「でも、こうして誰かと温泉に来るのは随分と久しぶりな心地がするな」


 この前のテルクスまでの旅とは、同行する人が違い、関係性もまた異なっている。それだけでも新鮮さというものが湧いてくるものだ。


「にしても、男湯は人が少ないな……。オレと数えるほどしかいない」


 女湯と比べて多いのか少ないのか。それについては見たことがないため、比べることはできない。あくまでもアスカルが比べているのは広さのわりに、という点であった。


 屋外で、広々とした空間であるのに、人は片手で数えるに足るほどしかいない。とはいえ、大勢の人が温泉に入ってわいわいがやがやしていては落ち着かないため、居心地はこの分で良いと思えた。


「もうすぐ日も暮れるな。柵で囲われているせいか、夕陽を眺めることはできないが、満天の星空は遮るものがないし、絶景だろうなぁ」


 温泉でその日の疲れを落としていくうちに、気分が落ち着いてきたのか、語尾も自然に伸びてしまう。


『この広い空の下、ルノアース大陸では平和を万人が享受している今の世の中。落ち着いて時の流れに身を任せることができるのはこのうえない贅沢なんだけど、それに気づく人も減っているんじゃないかしら』


 そんなことを母が数年前に言っていたことが不意に思い出された。アスカルもその時はよく分からなかったが、エツィオと命のやり取りをした今なら少しわかるような心地がしていた。


 セシリアが若い頃は、温泉に入っていても敵襲があるかもしれないと心のどこかでは落ち着かないモノがあったという。おちおち休んでいられないとは、どれほど窮屈であったことか。


「そんな想いをオレたちがしなくて済んでいるのは、平和な世の中を築くために散っていった先人たちのおかげ……か。歴史の授業で言われるのとは、また格別の響きだな」


 子どもの頃に聞かされた話を思い出しながら、ついには歴史の授業のワンシーンまで思い出される。何と優雅で極楽のような一時だろう。そして、アスカルが気づいた時には、夕日は空から姿を消し、月と星が煌々と輝いていた。


「しまった、長湯し過ぎてしまった……!」


 焦って湯船を飛び出すと、温泉の湯は大きく揺れる。焦るアスカルの心に同調して揺れているのではないかとも思えた。あわただしく、衣服を身に纏い外へ出ると、そこにはティナの姿があった。


 湯上り美人とはよく言ったもので、今のティナがまさしくその状態であったのだ。しかし、そんな美人を口説き落とそうと男たちが灯りに集まる虫のように群がっていた。人数は4人。


「この後、予定ある?良かったらお姉さんと一緒に食事でも……」


「俺たちと一緒に楽しい夜を過ごさない?一人で過ごす夜なんて夜じゃないと思わない?」


 群がる男どもにはティナの腰にぶら下がっている直長剣ロングソードが目に入らないのだろうか。それに、当人の心底嫌そうな顔も。


 ティナなら一人で全員倒せてしまいそうだし、むしろどうしてそうしないのかと疑問にも思っていた。それゆえに、アスカルは正直、助けに入っていいものか、ためらっていたのだ。


 しかし、ナンパ男の一人がティナに手を伸ばした時、アスカルの身体は動いてしまっていた。


「ごめん、待たせてしまって」


「あぁん?誰だテメェ」


「さっ、行こうか」


 群がる男は相手にせず、ティナの手を引いてその場を離れようとするアスカル。だが、そうは問屋が卸さない。ナンパ男の一人が回り込み、行かせまいと進路をふさぐ。


 すると、残る3人も動き、アスカルとティナを取り囲む形を取った。正面に回った一人は懐から短剣を取り出し、身構えている。構えているといっても、武芸者ではなく、素人であることは見て取れる。


 他の3人に至っては素手だ。短剣などの武器は携帯しておらず、殴りかかってくるであろうことは分かり切っている。


「4対1だ。その姉ちゃんを引き渡してくれれば、見逃してやってもいいぜ?」


「断る。そもそも見逃してもらう必要もないからな」


「何をッ……!」


 あえて怒らせるようなことを言ったように見えるが、別にアスカルは思ったことをそのまま口にしているにすぎない。


「アスカル。それじゃあ、ワタシから一つ課題を出すわ」


「こ、この状況で課題?」


 余裕そうな笑みを浮かべながらニコニコしているティナに、さすがのアスカルも戸惑った。だが、こんなところで強くなるための課題を課されるとは予想外もいいところだ。


「腰の剣はワタシが預かっておくわ。武器は使わずに4人を無力化してみて」


「いや、一人は短剣を持っているんだが……」


「大丈夫。今のアスカルでも十分やれる程度の相手よ」


「おい。やれるって、殺せるって意味合いではないだろうな?」


 ティナからの返事はなかった。だが、この状況を一番楽しんでいるのはティナであることは間違いない。そんな確信と共に、アスカルは魔剣ヴィントシュティレを彼女に預け、素手で4対1の勝負に挑むことになったのだった。

第160話「天の足り夜」はいかがでしたでしょうか?

今回はアスカルが温泉を楽しんだり、ちょっと難しいことを考えたりしていました!

そして、ラストではティナから課題が出されていましたが、はたしてアスカルが無事にクリアできるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

次回も3日後、12/15(金)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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