第158話 ティナとの模擬戦
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルとティナがサブタイトル通り模擬戦をする話になります!
どんな模擬戦になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第158話「ティナとの模擬戦」をお楽しみください!
人々を照らす月と朝日が入れ替わる頃。アスカルが目を覚ますと、すでにティナは部屋にいなかった。
「ハッ!やぁ!」
外からはいかにも気合いの籠められた声が飛び込んでくる。アスカルは声の主はすぐに誰だか分かった。エツィオとの戦いの時、何度も何度も聞いた声だと。
「剣の素振りをしているのかもしれない。オレも負けてられないな」
そう思うと、自然と眠気は飛び、ベッドから簡単に体を引きはがせた。眠い時などはベッドまで体の一部になってしまったかと思うほどに起き上がれないものだが、その日はまったく違っている。
アスカルは起きて着替えを済ませた後、いつでも発てるように荷物の整理を済ませておいた。それから魔剣ヴィントシュティレを手繰り寄せ、若緑色の髪についた寝癖を直しながら宿屋の外へ。
それからは声のする方へと移動すれば、緑色の髪を後頭部でまとめ、軽快な足さばきで剣を振りながら動き回るティナ・ハワードの姿が視界に入った。
「早いな。こんなに朝早くから剣術の稽古とは」
「あ、アスカル。もしかして、起こしてしまったかしら?」
「いや、起きたらティナがいないし、声が聞こえたからもしかしてと思って来ただけだ」
朝の挨拶を済ませ、アスカルはティナの方へと近づいていく。ティナがひたすらに呼吸を整えている間、アスカルは左手に持っている魔剣を鞘から引き抜き、びゅうっと空を斬っていた。
「その剣、ナターシャ・ランドレス様の愛剣よね」
「ああ、そうだ。オレも最近はこの剣に見合う剣士になろうと思っている。まだまだ遠い道のりにはなりそうだが」
「でも、エツィオと戦っている時は、それなりに強かったと思うわよ」
「それなりに……か」
剣術道場で稽古をしているティナから見れば、死ぬかもしれない精神状況で必死に振るった剣はまあまあの部類なのだと思うと、悔しい心地がする。だが、まだまだ強くなれる余白があるのだと捉えなおすことにした。
「そうだ、ティナ。ここで一つ、手合わせしてもらえないだろうか」
「手合わせするの?」
「ああ、ティナと比べてどれだけの実力なのかを確かめたい」
唐突な手合わせの申し出に、ティナも少し戸惑っている様子だったが、ついに首を縦に振った。相手を組み伏せた方が勝ち。互いに紋章の力は使わず、剣も木刀を使用すること。
「木刀を持ってきてないんだが……」
「それならワタシの予備があるから、それを使って」
「分かった。じゃあ、ありがたく使わせてもらうことにする」
ティナから拝借した予備の木刀を静かに構え、目の前の女性剣士と対峙するアスカル。実戦経験に乏しいアスカルにも分かるほど、ティナの構えは美しく、一分の隙も無い。
だが、模擬戦であるため、殺される心配はない。その点ではエツィオと戦った時のように死ぬ可能性を考慮せずに済むため、焦ることもない。
落ち着いて攻め方を思案することができる……と思いたい半面、それでは実践の時に役に立たないと思う自分もいる。
「来ないなら、こっちから行くわよ!」
複雑な心境で迷いのあるアスカルを見て、しびれを切らしたのか、ティナの方から仕掛けてきた。大地を蹴って間合いを詰めてきたティナの初手は斬撃ではなく、刺突。
よりにもよって、頭部を狙って突いてくるのだから、アスカルも慌てて防御する。真っ直ぐついてくる木刀を右から左へ逸らす動きに出たのだ。これにより、触れ合った木刀同士からは、カッという音が鳴る。
ティナの刺突を横へ薙いだ次の瞬間には引き戻してからの振り下ろし。これは木刀を横にして正面から受ける。すると、ガンッ!という鈍い音が両者の木刀から発せられた。
「それなりにやるわね!」
「そりゃあ、防具も付けてないし、当たったらさぞかし痛いだろうからな。必死で防御するさ……!」
鍔迫り合いをしながらのやり取り。腕だけでなく、足腰にも力を込めているためか、言葉にまで力が込められているかのようだった。力勝負なら負けないと思っていたアスカルだったが、そんなことはない。
むしろ、力勝負は持久戦になるほどティナが優位になりつつあった。そして、そうなればアスカルが取る行動は一つ。一度、ティナの間合いから離れ、距離を詰め直すこと。
しかし、そんなことはティナに限らず、誰にでも予測がつく。ゆえに、間合いを取りなおそうと後ろへ跳んだアスカルに、ティナは追い討ちをかけ、間合いを取り直させない動きに出た。
離れようにも離れられない状況に、アスカルは追い詰められていた。再び鍔迫り合いになるかと思いきや、巧みに隙を見つけてあらゆる角度からティナは打ち込んでくる。
真っ向からの力勝負かと思いきや、巧みな技で仕掛けてくる。速度を活かした剣筋かと思いきや、力強く重い一撃をお見舞いしてくる。まさしく千変万化。
どのタイミングでどんなスタイルの剣を振るうかが分からないこともあり、アスカルは対処のしようがない。どうすれば良いのかと迷っている間にも、ティナからの攻撃が止むことはない。
負けん気一つで立ち向かおうにも、埋められない実力差がそこにはあった。結局はティナの横薙ぎの一閃で、アスカルの右手にあった木刀は弾き飛ばされ、地面に転がることとなる。
「ちょっと待った……!」
「ワタシ、まだアスカルを組み伏せてないんだけど……」
「まぁ、この時点で勝敗は決している。組み伏せる必要もないだろ」
「そ、それもそうね」
そう言って、木刀を下ろすティナ。警戒を解いた彼女を、アスカルは見逃すはずもなかった。
「隙ありっ!」
今なら組み伏せることも可能。そうすれば、勝利条件を満たしたことになり、アスカルの勝ちだ。
エツィオとの戦いでもそうだったように、ティナはすぐに油断する癖がある。ならば、それを利用しようと思いついたのだった。しかし、物事というものはそう上手くいくものではない。
「そう来ると思っていたわ!」
そう、ティナとしてもアスカルが大人しく降参するとは思っていない。ゆえに、油断したフリをして様子を見ていたのだ。何より、エツィオとの一件からティナが学んでいないはずがない。その点を、アスカルは完全に見落としていた。
組み伏せようと飛びかかったアスカルを左に跳んでかわし、脛に木刀を叩き込んで地面に倒したところを上から押さえ込んで、あえなく決着となった。
「ぐっ、上手くいくと思ったんだが……」
「ワタシだってバカじゃないもの。それに、人は常に負けから学ぶものよ。そのことをよく覚えておくといいわ」
「オレもこの負けから学ぶことにするかな……」
「そうね。駆け引きの未熟さ、根本的な体力の欠如に、体幹や筋力も鍛える必要があるし、剣術や体術の類もまだまだ未熟だし……」
組み伏せられた状態でのダメ出しに、アスカルは心が折れそうであった。だが、すべての面で未熟であるのなら、ひたすら鍛えるしかない。
そして、いつかはティナをも一ひねりにできるくらいに強くなろう。見返してやろう。アスカルは口には出さないが、自然とそう思うことができていた。後は実行あるのみ。
「そうだ、アスカル。この旅の間、時間が許す限り、ワタシが教えられる範囲で教えてあげようか?主に剣術になるけど、ワタシが普段からどんなことをしているかも勉強になるだろうし」
「そうだな。自分より強い人から吸収できることは全部吸収して、活かしていかないと強くなれないだろうし、ありがたく学ばせてもらおう」
「決まりね」
こうしてアスカルは旧帝都フランユレールへ着くまでの期間限定でティナから指導を受けることになったのだった。
第158話「ティナとの模擬戦」はいかがでしたでしょうか?
今回の模擬戦ではティナの勝ちに終わっていました。
ですが、今回の負けを経て、アスカルはどこまで強くなれるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も3日後、12/9(土)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!