第156話 新たなる旅立ち
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルとティナの旅路の工程が明らかになります……!
一体、王都コーテソミルから旧帝都フランユレールまでの道のりがどうなるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは、第156話「新たなる旅立ち」をお楽しみください!
「ダレン近衛兵長、休暇を10日から20日に伸ばしたいのですが」
「ああ、それくらいなら問題ない。女王陛下からも要望は叶えられる範囲で叶えるようにお達しが来ている」
ダレンの口からそれを聞き、アスカルは女王マリアナに心の底から感謝し、命がけで戦ってよかったと思えた。安直だが、勲功が報われることの喜びは測り知れないものだ。
「休暇を伸ばすといったが、何か理由があるのか」
「まぁ。旧帝都フランユレールへ行きたいと思いまして」
「なるほどな。確かに10日じゃ往復できない距離ではある。よし、分かった。許可しよう。だが、無理はするな」
「気をつけます。なるべく、ですが」
アスカルの返答にため息をつくダレン。しかし、呆れている様子ではなく、むしろ思ったよりも元気そうで安心した、といった様子である。
そして、休暇が今日を含めて20日になったアスカルは意気揚々と近衛兵長の執務室を後にする。時刻はまだ午前。夕方までの出発まで、時がある。しかし、長旅の支度が整っていないため、一度家に戻る必要もある。
早く家に帰って準備をしなければ。そう思うアスカルの足は自然に早まっていく。そして、家に着くと庭先でお茶を片手に女子会が開かれていた。
「あら、アスカル。おかえり」
「ああ、ただいま。揃いも揃って何をしてるんだ……?」
「見ての通り女子会よ」
「いや、一人だけ女子って感じじゃない人が混じってる気がするんだが……」
そこまで言いかけてアスカルは言葉にするのをやめた。母親から向けられる殺気に限りなく近いものを帯びた視線があったからだ。途中で発言するのを中断したものの、セシリアの機嫌は直ることはなかった。
「そうだ、ティナから聞いたぞ?休暇を延長してもらって旧帝都フランユレールまで行くんだってな」
「ああ。何となく行ってみるかって感じだ」
特に理由はない。しかし、前々から機会があれば行ってみたいとは思っていたが、その機会とやらがなかっただけなのだ。
「旅費の方は大丈夫なのか?かなり高額になると思うのだが……」
「それは心配いらない。昨日の一件でたんまり報酬が出たからな。休みも女王様のお達しがあったらしくて、あっさり承認された」
「そ、そうか」
「私も貰ったわよ」
報酬の話に途中参加したティナは懐から大金が入った革袋を取り出し、テーブルの上へ載せた。硬貨がギッシリ詰まっている袋は、テーブルの上に置くとドサッという、いかにも重そうな音を立てた。
「やっぱりティナも貰ってたのか。オレもそれより少し多いくらいの報酬を貰ったぞ」
「まぁ、捕まえたのはアスカルだし、そうなるわよね」
話が一時的に報酬の話に逸れたが、そのエツィオを成敗した一件で与えられた報酬が十分な旅費となりそうでセシリアもミシェルも安心した様子であった。もし足りなければ、自分たちの貯蓄を切り崩す必要もあるのではないかとも思っていたのである。
「ティナ、帰りはどういう工程で戻るつもりなのかしら?」
「それは、こうなります」
そう言って、広げた地図をなぞり、セシリアとミシェルはもちろん、同行するアスカルにも説明した。今日の夕方に出発した馬車でヘキラトゥス山地北にある街まで移動。そこで一泊する。
明日は昼までにヘキラトゥス山地を抜けて、フェルネの町へ入る。フェルネの町は元々フェルネ砦があったところであり、かつて王国軍と帝国軍とが激戦を繰り広げた地でもある。
そのフェルネ砦の跡地に建設された町を経由して、西へ。新たに掘り当てた温泉で賑わうハウズディナの丘方面へ向かう。
「アタシがこの前に行った場所ね。あそこは物凄く混み合っていたのを鮮明に覚えてるわ」
「そうですか。泊まれそうな場所などは……」
「ないわね。温泉帰りの金持ち向けの娼館が立ち並んでいるけれど、宿らしい宿はアタシが行った時にはなかったわ。泊まるなら、温泉に入ってフェルネの町に戻ってくるくらいでちょうどいいと思うわ」
距離的にはフェルネの町とハウズディナの丘はそう遠くはない。昼から出発しても夜遅くには戻って来られる。代わりに、観光などはほとんどできないのだが。
「どうする?それでも行く?」
「ええ。折角ここまで来たわけだし、寄っていきたいわ。次に来れるのはいつになるか分からないし」
「アスカルは?」
「オレはティナが行きたいなら行けばいいと思うぞ。付いていくだけだからな」
この時点で、明日はハウズディナの丘近くの温泉で疲れを取り、フェルネの町で一泊。そこからの行程は街道に沿ってライオギ平野を南進し、明々後日の夕刻にハワード領の中心地であるヌティス城下町へ。
「翌日はヌティス城を訪ねて、両親やトラヴィス様に会ってゆっくりしようと思っています」
「良いわね。アスカルも何年もヌティスには行ってないわけだし、ちょうどいいんじゃない?」
「そうだな。久しぶりにヌティスでゆっくりするのも悪くない」
丸一日ヌティスでゆっくりした後は、ヌティス城下町でもう一泊し、ハワード領西部の中枢都市トリテルテアへと向かう。
「トリテルテアは今、織物などの産業で賑わっているから、市場に寄っていきたいんだけど……」
「オレは全然かまわないぞ。ティナが行きたいようにしてくれればいい」
そう言ったが、最後。ティナはトリテルテアで買いたい物を列挙し始め、言ったそばからアスカルは自分の軽率な発言を後悔することになった。そんなアスカルとティナの様子に、セシリアもミシェルもクスクスと笑い始める。
そうして笑う母と姉に対し、アスカルは不満げにどうして笑うのかと言い出す。賑やかではあるが、そんな家族の様子に、ティナも温かい気持ちに浸ることができていた。
「そうだ、アスカル。お土産も忘れずにな」
「忘れずになって言われても困るんだが……。せめて、服が欲しいとか絞ってほしい」
漠然とお土産を頼むと言われる。これほど厄介で、しくじると面倒この上ない状況は珍しい。どうしたものかと考え込むアスカルに、ミシェルから矢継ぎ早に言葉が発される。
「アスカル。お土産を上手に選べるヤツは出世するぞ」
「出世……!?」
「そうだ。たとえば、ダレン近衛兵長が気に入りそうなものを休み明けに渡すとかな。そうすれば、印象が良くなる。失敗した時に大目に見てもらえたり、重要な役が回ってきやすくなったりする……はずだ」
アスカルにとって出世につながる点も魅力的だったが、失敗を大目に見てもらえるという点に勝る魅力はなかった。
「分かった。姉さんと母さんが気に入りそうなお土産を買ってくる。それと、ダレン近衛兵長とか、お世話になっている人の分も忘れずに」
真面目な表情でお土産を買ってくると言い切るアスカルを見て、ティナは吹き出してしまう。しかし、ミシェルとしては満足のいく返事であり、テーブルの下ではガッツポーズを決めていたほどだ。
セシリアもアスカルにお土産を買って帰ってくることを強要したいわけではないが、お土産があるなら断る理由はない、といった風であった。
ともあれ、アスカルが入り女子会ではなく、家族団らんとなったお茶会も陽が傾きだした頃にお開きとなり、アスカルは大急ぎで旅支度に取りかかる羽目に。
「くそっ、もっと余裕をもって準備するつもりだったのに……!」
文句を言いながらも手早く準備を済ませ、ギリギリ馬車が出る刻限に間に合うことができていた。
「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」
「お、おー!」
こうしてアスカルとティナの2人は旧帝都フランユレールまでの長旅が幕を開けるのであった。
第156話「新たなる旅立ち」はいかがでしたでしょうか?
今回はアスカルが無事に休暇を延長することに成功。
さらに、どんなルートで旧帝都フランユレールへ向かうのかも明らかになっていました!
一体、どんな旅になるのか、楽しみにしていてもらえれば嬉しいです!
次回も3日後、12/3(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!