第152話 命を守る者、奪おうとする者
どうも、ヌマサンです!
前回、いよいよマリアナとノルベルトの結婚式が執り行われていました。
そして、今回はその後のパレードが行われるわけですが、どのような展開になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第152話「命を守る者、奪おうとする者」をお楽しみください!
黒馬に跨る近衛兵長であるダレン。彼を先頭に、通りの真ん中を進んでくる近衛兵の一団がアスカルの待機している場所の前までやって来た。
騎馬を中心とし、前を進む近衛兵の数は1千。彼らが通り過ぎようとした時、群衆から歓声が上がる。
歓声を上げる群衆の視線の先にいるのは、他でもない女王マリアナ。そして、彼女の夫となったノルベルトであった。夫妻は民衆へ手を振り、声援に応えている。
ルノアース大陸が統一された時には、まだ14歳の少年であったノルベルトも、20年という月日を経て、知性溢れる大人へと成長を遂げていた。
深緋色の髪と翡翠色の瞳からは、彼の父親であるラッセル・プリスコットを想起させる。幼少のころから才気煥発。将来を嘱目されて育ってきた男なのだ。そんな男が、領主という身分を超え、女王と結婚式を挙げている。
しかし、そんな彼が女王と結婚して王宮へと移ることに反対する者も多かったらしく、ラッセルも彼らを説き伏せるのに苦戦したのだという。そんなラッセルの苦労もあって、今この瞬間があるのだが、この事はあまり知られていない。
ともあれ、マリアナとノルベルトの夫妻を乗せたチャリオットが通り過ぎる。その横にも後ろにも近衛兵は大勢続いている。総数3千。
3千もの手練れの近衛兵が警備している。戦乱から遠のいた平和な世においては物々さがすぎた。それゆえの慢心、襲撃はされないと高を括っている様も、一流の戦士ならば見抜けていた。
それゆえか。事件は起こってしまった。馬車の進行方向、右手より一人のフード姿の剣士が群衆の中から飛び出し、女王の乗るチャリオットと並走している近衛兵の右大腿部を斬り、落馬させてしまった。
それに驚き、群衆が慌てた様子で逃げ惑う。その混乱の中、チャリオットへと近づくフードを目深にかぶった剣士。取り押さえようとする近衛兵をサーベルを巧みに操り、右へ左へ斬り伏せてしまう。
女王の乗るチャリオットにも血が飛び、背もたれに近衛兵の血が付く。ノルベルトはマリアナを守るべく剣を抜き、不審者の首元へ薙いだ。その剣をやすやすと剣士は縦にしたサーベルで受け止めたが、その刹那に顔がチラリと見えた。
見えたのは、ノルベルトとマリアナにのみ。しかし、その顔を見たノルベルトは一瞬、動きが止まってしまう。
「お前、エツィオか――」
ノルベルトが人の名を口にすると、不審者はサッと群衆の方へと逃げて込んでしまう。無論、近衛兵らも逃がすまいと追撃するが、「エツィオ」とノルベルトが呼んだ男は近衛兵の動きを止めるべく、足を斬って転倒させる。
見捨てれば死ぬほどの深手だが、救助すれば助けられる。そんな具合の仲間を見捨ててでも追撃できる近衛兵の数は約半数。
半数は戸惑って足を止めてしまう。戦乱の世ならば見捨てずに敵を殺すことに執着していただろうが、この平和な世において、そのような決断を瞬時に下せる人間は確実に減少していた。
「止まれ!」
「止まらんか!」
よりにもよって、エツィオはアスカルたちの受け持つ場所へ突っ込んできた。それを止めようとした同じ隊のメンバー3人は斬り伏せられ、アスカルに偉そうな態度で説明をしていた者も斬られてしまう。
とはいえ、偉そうな態度を取っていた男が斬られたのは正面ではなく、背である。つまり、恐ろしさから逃亡しようとしたが間に合わず。背中に一太刀浴びせられるという、この上ない恥を晒してしまったのだ。
「どけっ!」
訓練などとは違う実戦。何より、エツィオとかいう相手の気迫にアスカルは気圧されそうになる。だが、エツィオの右薙ぎの一閃を受け止めることには成功していた。
別に剣術の才能が開花したわけではなく、それよりも生物的な本能、直感に従ったものと言える。
しかし、逃げるエツィオとしては、ここで斬り合うことなど論外。剣を受け止めたアスカルが力を込めた瞬間に合わせ、自身は力を抜く。これにより、体勢を崩したアスカルがよろけたところで、彼の左の脇腹へ蹴りを叩き込む。
「うぐっ……!」
転倒したアスカルが振り向きざまに剣を横へ薙ぐが、すでにエツィオは間合いの外。見事な空振りに終わってしまう。
「くそっ、待て!」
叩き込まれた蹴りの威力は強かったが、今はそんな痛みなどアスカルはほとんど感じなかった。ここで取り逃がすわけにはいかないという一心で追いすがる。
しかし、エツィオの方が足が速いうえに、身のこなしも鮮やか。距離は縮まるどころか、少しずつ開きつつあった。己の駆け足の遅さと身のこなしの鈍さに腹を立てつつ、それでも全力で追いかけて行く。
人通りを避け、裏の狭い路地を抜けていくエツィオ。迷う素振りもなく逃走する様からして、計画的犯行であるのは間違いない。
そんなエツィオが路地を右折した直後。甲高い金属音がアスカルの耳に届いた。
「これは……!?」
エツィオが右折した方を見ると、緑色の髪をポニーテールにしている若い女性と剣を交えているではないか。エツィオのサーベルと、翡翠色の直長剣は交差したまま鍔迫り合いを続けている。
「失せろ、小娘!」
「退きません!」
舌打ちした直後、先を急ぐエツィオの斬り上げが女性を襲う。しかし、美しい翡翠色の刀身が鮮やかにはじき返す。
緑色の髪をした女性の攻撃を防ぐ挙動が実に美しい。それに加え、ポニーテールを揺らしながら鋭い突きを見舞い、エツィオを後退させた。
「チッ、埒が明かない……!」
そう吐き捨てたエツィオは突破しやすいと踏んだアスカルの方へと進路を変更。しかし、何となくそうなることを予感していたアスカルは、先手を打って斬撃を受けることに成功。
「受けたか……!」
「やぁっ!」
女性の直長剣がアスカルの鼻先をかすめ――ていくことはなかったが、剣が鼻先にある空気を切り裂き、その風はアスカルの顔に到達していた。
「ごめんなさい。近衛兵の方……ですよね?」
「い、一応は。まだまだ新米ですが」
「では、あの不審者をひっ捕らえるのを手伝って頂いてもよろしいでしょうか」
「それはもちろん。こちらとしても心強い」
手早く共闘を成立させ、二人掛かりでエツィオを捕えようと動き出す。先ほどの女性の斬撃は横に飛びのかれてしまい、エツィオにかすり傷一つ負わせることができなかった。
「チッ、二対一でも勝てないことはないが……」
エツィオは追手だけでなく、時間にも追われていた。その状況下で、戦闘を継続するのは面倒この上ない。
逃げるが勝ち――と言わんばかりに逃げ出そうとしたエツィオだが、彼の行く手を翡翠色の斬撃が遮った。
「させません!」
「くそっ、邪魔ばかりしやがって……!」
後ろに飛びのいたエツィオ。そこへ、間髪入れずにアスカルが剣を振り下ろす。速度も威力もまだまだだが、パーフェクトと言っていい、絶妙なタイミングであった。
「そら……よ!」
「うわっ!」
「きゃあっ!?」
だが、一撃の威力が弱いことが災いし、突撃してきた女性剣士へとアスカルは叩きつけられてしまう。エツィオの行動はとっさの判断であったが、実に見事に決まった。
ぶつかった2人が起き上がるまでの時間に、エツィオは走り始める。先ほど女性剣士に阻まれた方へ。
「マズい、逃げられる……!」
自分のせいで女性剣士の足を引っ張ってしまった。その申し訳なさから、急いで後を追わんとする。
「こんなところで逃がしてたまるものですか……!」
その刹那、追いかけようとするアスカルの左後方から翡翠色の風が巻き起こる。
第152話「命を守る者、奪おうとする者」はいかがでしたでしょうか?
今回はパレードの最中、襲撃事件が発生していました!
エツィオという男性剣士が襲撃したわけですが、はたしてノルベルトとの関係は?
そして、近衛兵でも止められないほどの実力者を相手に、アスカルと女性剣士がどう立ち向かうのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も3日後、11/21(火)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!