第151話 母からの訓戒を胸に
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよマリアナの結婚式の当日を迎えます。
アスカルが警備を務めるわけですが、彼の仕事ぶりに注目してもらえればと思います!
それでは、第151話「母からの訓戒を胸に」をお楽しみください!
翌朝。澄み切った空気に満ち、女王マリアナとノルベルト・プリスコットの結婚式を応援するかのように雲一つない晴天となった。
「アスカル。警備の仕事、しっかり務めてきなさい」
「もちろん。気を引き締めて、ただただ任務を全うすることを第一に考えて動くようにする」
朝の空気と同じくらいに爽やかな笑みを見せるアスカル。セシリアはたくましいと思いつつも、我が子に無茶をしてほしくないという親心にも苛まれ、心の内は空模様とは大きく異なる様相を呈している。
「昨日はキツイ言葉をかけてしまったけれど……」
「……分かってるよ。でも、自分の身体も大事にしつつ、任務も全うする。これで母さんも安心だろう?」
「ふふっ、それはそうだけど、現実はそう思い通りにいかないものだから。二者択一を迫られたら、任務を優先しなさい」
心の内では我が子の無事を祈っていることはアスカルにも分かっている。だが、それと同じくらいに女王であるマリアナのことを考えてもいる。
「おっと、ここで長話をしていたら遅れてしまう。そろそろ行かないといけないからな」
「ええ。いってらっしゃい」
アスカルは振り返らなかった。おそらく、自分の姿が見えなくなるまで手を振っているであろう母の姿を思い浮かべつつ、今日の任務をそつなくこなす。
任務を遂行したうえで、自分も無事に家まで帰る。これができれば、母の葛藤を無に帰すことができる。
「姉さんはまだ寝てるだろうが……まぁ、大丈夫か。いざとなれば母さんもいるしな」
屋敷内のセシリアの寝室には、戦場を共に駆け抜けてきた愛用の大斧が壁にかけられている。野盗が侵入したところで、やすやすと返り討ちにできるだろう。それに、騒ぎとなれば、戦場で指揮を執ってきた母なら冷静に対処できるはず。
「母や姉の心配より自分の身。何より、今日の結婚式で何事も起こらないことを願うばかりだな」
ひとまず、王城で長であるダレンから指示を受ける。特に変更などがなければ、休暇前に指示された場所で警備任務につくだけだ。
そうして焦らずに歩いて王城へ到着。集合時間に間に合うと踏んでいたため、焦らずに到着することができていた。上々といったところだ、と自分では思っていたアスカル。
……しかし、到着早々にダレンからかけられた言葉に驚かされることになる。
「おお、アスカルか。またお前が最後だぞ」
「げっ、時間に余裕を持って出たはずだが……」
「はぁ。ま、遅刻しなかっただけマシか。ともかく、変更はなしだ。今日の任務、しっかり頼むぞ」
ダレンに肩を叩かれ、励まされる。しかし、励ます声のトーンはいつもより低く、緊張感に溢れている。なんとも、聞いているだけで、「気引き締めなければ」と思わされる心地がするのだ。
アスカルは向きを変え、王城を後にする。来た道を戻り、警備任務にあたる場所へ赴くわけだが、目指す先は結婚式の会場となる大聖堂の南を走る大通り。
その南の大通りから一本逸れた路地が担当する場所になる。手練れの近衛兵を筆頭に五人一組で巡回するわけだが、他の4人は生憎、遅刻の多いアスカルのことを快く思っていない面々ばかり。
アスカルとしては、これ以上ないくらいにやりにくいメンバー構成となっている。だが、やるしかないのだ。同僚や上司と仲が悪いからと仕事を放りだすことは断じて許されない。
ここは、今日だけのことと思い、任務に当たろう。そんなよく分からない謎の覚悟を抱きつつ、合流した。
「おっ、アスカルか。てっきり遅刻するかと思ったが……珍しいこともあるもんだ」
「こりゃあ、今日は雨でも降るかもしれませんね」
顔を見るなり、嫌味まじりの言葉がかけられる。新人いびりと言えば、そうなる。だが、新人くらいしかいびれないのだと思うと、不思議と憐みの情がこみ上げてくるとは不思議なものである。
「今日はよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。せいぜい、足を引っ張ってしくじったりするんじゃないぞ」
「はい。そうならないよう、努めます」
「よろしい」
正直、何がよろしいのか分からないが、ここでひと悶着――というようでは、本日の任務に支障をきたす。アスカルは聞き流せるところは聞き流しつつ、それからの指示を聞いた。
それからは不審物はないかを見回ったり、この通りを抜ければどこへ出る、この道は抜け道だのと地図を見れば分かる程度の情報を聞かされ、時間が過ぎていった。
とはいえ、地図を見れば分かる程度の情報だと思いつつ、自分なりに辺りをみまわして情報を頭に叩き込んでいく。それはもちろん、いざという時には地図を見ている場合ではないことが一番の理由だ。
ゆえに、地図を見れば分かる情報だと侮らず、記憶していくことを最優先事項と定め、淡々とこなしていった。
「おい、アスカル!ちゃんと俺の話を聞いているのか!?」
「もちろんです。しっかり聞き耳立てて聞いていたので」
「じゃあ、今まで言ったことを復唱してみろ」
どうせできるわけがない。そんな言葉が後に続いていそうな言葉。アスカルはその裏をかくように一言一句違わず復唱してみせる。
そこまで見事に要求を達せられては、何も言えずに「ちゃんと聞いているならば良い」と言って、嫌がらせは終わった。
アスカルは勉強はあまり好きではないが、頭が回らないおバカさんではないのだ。ゆえに、聞き耳立てていれば復唱するくらいどうということもない。とはいえ、かなり危うかったため、内心ではアスカルも安堵に胸を撫でおろしていた。
ともあれ、一通りの巡回を終え、ダレンから指示されたとおりの配置につく。一通り見て回り、ここを左に曲がればどこへ抜ける、どこに行き止まりがあるなどの情報は何とか頭に叩き込めたアスカル。
ここまででようやく準備が完了した段階。今からマリアナ・ロベルティとノルベルト・プリスコットの結婚式が大聖堂で始まる刻限になった。
式の最中は不審者が通りをうろついていないかなどを重点的に通路を見て回る。人の動きから、物の配置の変化、そうした細部にまで気を配る必要がある。そのため、短時間の任務であっても消耗が激しい。
しかし、女王の結婚式ということもあり、式典の時間は長い。さらに、式典の進み具合なども一切外部には分からないという点も、より時間が長く感じられる要因となっている。
それに加え、アスカルは雑談できる相手がいない。生憎と仲のいいアットホームな職場ではないためだ。だが、警備任務に集中できるという点では、大いに利点である。
「母さんも新兵だからと甘えず、任務を遂行するように言っていたしな。気を緩めず、集中しないと」
昼前に始まった式典は正午を過ぎても続いた。腹が減ったため、支給されたパンを頬張りながら辺りを見回し、警戒し続けるのは骨が折れるものだ。
むしろ、ここで少しでも実力を身につけ、経験や実績をただひたすらに積み上げていくことが、今アスカルにできる出世の手段なのだ。まずは、新兵なりにやれることをするのが大事。
そう自分に言い聞かせていたところで、大聖堂から狼煙が上がった。これは別に事件が発生したというわけではなく、式典がつつがなく終了したという内容だ。
つまり、ここからは大聖堂を出たマリアナとノルベルトが馬車へと移り、そのまま南の通りを南進。今、アスカルたちのいる地点まで進んでくる。
そして、自分たちのいる地点の少し先の三叉路を右折。右折した大通りこそが王宮へとつながる道となるわけだ。
「後はこのパレードさえ無事に終われば……」
ただひたすら、パレードが無事に終わることを祈るアスカルなのであった。
第151話「母からの訓戒を胸に」はいかがでしたでしょうか?
今回はアスカルが任務を頑張ろうとしていました。
そんなアスカルの仕事への姿勢が伝わっていれば幸いです。
そして、このまま何事もなく警備任務が終わるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も3日後、11/18(土)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!