第150話 迫る女王の結婚式
どうも、ヌマサンです!
今回は屋敷に帰ってきたアスカルたちの話になります!
はたして、どのような話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第150話「迫る女王の結婚式」をお楽しみください!
旧都テルクスにてランドレス家の墓へ家族で参り、パレイルやテルクスで知己とも会うことができた。セシリアとしては満足のいく旅であった。そして、アスカルとミシェルにとっても思い出に残る旅であったのだ。
そんな旅も今この瞬間、終着点ともいえる王都コーテソミルの門を潜った。ここまで一週間近い旅であったためか、アスカルとミシェルはどこか体が重く感じられてもいる。
「やっと帰って来れた……」
「本当に長かったな」
肺の内の空気を勢いよく吐き出すアスカルに、ポンと手を置きいたわるミシェル。王都まで戻ってきた頃には、ミシェルの恋煩いも落ち着きを見せていた。
とはいえ、まったく恋慕の情が薄れているわけではないため、またオリヴィエと対面すれば、顔を真っ赤にすることは明らかなのだが。
「さぁ、帰ろっか。アタシたちの家に!」
そう言って、笑顔のセシリアに続いて長旅を共にした馬たちと共に敷地へ足を踏みいれるアスカルとミシェル。トラヴィスもハワード領へと戻り、誰もハワード家とランドレス家の人間はいない屋敷。
だが、使用人たちは働き続けており、静寂とはいえない。けれども、帰ってきた家に泥棒以外の人がいるということは、どこか温かみが感じられる。
「ただいまー!」
「おかえりなさいませ」
扉を開ければ、ズラッと使用人が立ち並んでいる――ということはなく。たまたま荷物を運んでいる使用人と出会ったのみ。
とはいえ、元気溢れるセシリアの「ただいま」に吸い寄せられるように、あちこちから屋敷で働いている人たちが集まってきた。
それからは3人の荷物を部屋まで運んでくれたり、食事の用意がもうすぐ整うことを伝えてくれたり、使用人たちが懸命に気を遣ってくれる。その様は、久々のランドレス家ご一行の帰還を心の底から喜んでいることが伝わってくる。
「ミシェル、アスカル。どうする?食事をしてから休む?」
「私は賛成だ。とはいえ、食事までまだかかるようなら、一度部屋で荷解きもしたい」
「オレも姉さんと同意見だ」
「それじゃあ、全員部屋で荷解きをしているから、食事の用意が整ったら呼びに来てもらってもいいかな?」
そういうわけで、3人は揃って部屋へ戻り、荷解きに取りかかる。女性陣は荷物の量も多いため、見るからに時間がかかりそうであったが、アスカルは割とすぐに終わってしまった。
「……素振りでもするか。いや、荷解きが終わったら部屋まで呼びに来てくれるわけだし、部屋にはいた方がいいな」
一度、部屋を出ようとした足を止め、また窓際のベッドの方へと立ち戻る。戻ってベッドへ腰かけるも、実に浅い。
また立ち上がっては何をするでもなく、部屋をうろうろするばかり。しかし、そうしている間に時間は過ぎ、部屋の入り口から足音が聞こえてきた。そして、予想通り、自分の部屋のドアからコンコンと音が聞こえてきた。
「アスカル様、食事の用意が整いました」
「分かった。すぐに向かおう」
待ちわびた――というわけではないが、食事の用意ができたのならばとアスカルは部屋を後にする。1階の食堂に入ると、まだ母と姉の姿は見えず、どうやら自分が一番乗りらしいと感じつつ、着席。
そして、アスカルが着席して一拍の後、2階からドアの開閉音が聞こえてきた。開閉音が二つ聞こえたことから、女性陣が同時に食堂に姿を現すことは容易に想像に難くない。現に、そうなったのだから。
「すまない、遅くなった」
「ごめんね、アスカル。怒らないで――って怒ってないか」
「まぁな。怒るほど待ってないからな」
食堂へやって来た女性陣はアスカルと言葉を交わしながら、優雅に席につくセシリアとミシェル。バタバタと品のない動きをしないところに貴族らしさが表れている。
ともあれ、一家が揃って食堂に集まったのだ。そこからは普段通り、家族らしく砕けた口調での話が続いていく。そして、食事がテーブルの上に並ぶ。
「今日は皆さまが帰って来られるということで、いつも以上に素材にこだわった料理となっております」
「あら、気を遣わせてしまい、ごめんなさいね」
「いえいえ。使用人一同、セシリア様、ミシェル様、アスカル様のお帰りを心よりお待ちしておりました。ただただ無事のお戻りが嬉しかったのです」
「そう。それなら、かける言葉はごめんなさいではなく、ありがとうね」
にこやかに対応するセシリア。その言葉に使用人たちもどこか嬉しそうにしている。仕事中であるため、喜びの感情を抑え気味にしていることは明らかであるが、それでも十分に喜びは感じられる。
母に続く形で、ミシェルとアスカルも感謝の想いを言葉にして伝え、実に温かい空気に包まれる中で、夕食は進んだ。
「いよいよ明日はアスカルも大仕事ね」
「ああ、女王の結婚式の警備なんて、新兵のオレには関係ないと思っていたんだが……」
「人手は大いに越したことはないからね。もちろん、女王の身辺警護は近衛兵の中でも手練れが行うとは思うけど」
「ああ。オレみたいな新兵は街の通りで突っ立って警備するのが任務だからな」
自嘲気味に笑うアスカル。ミシェルは何とも思わなかったが、セシリアの目は厳しい光を放っていた。
「アスカル。仕事はちゃんとこなすのよ」
「それはもちろんだ。言われた仕事はキチッとこなすつもりだとも」
「そう。アタシには気が緩んでいるように見えるのだけれど」
気が緩んでいるという母親からの指摘。母親からそんな注意を受けたとしても、はいはいと軽く流す子どもの方が多いだろう。
だが、セシリアは真紅の斧を引っ提げて戦場を駆け回り、数多の戦場に身を置いてきた古強者だ。戦場に立ったことのある先達からの意見だと思うと、アスカルもぎくりとした。
「気が緩んでいるって言ってたけど、母さんはどうしてそう思ったんだ?」
「あなたの言っている言葉の中に、新兵という立場に甘えが感じられたのよ」
確かに、思い返してみれば、「新兵のオレには関係ない」「オレみたいな新兵は」と新兵という立場に甘えているようだ。そして、その甘えに己自身が気づいていない。その危うさに母親からの言葉で気づかされた。
「アスカル、よく聞いて。あなたは戦場に立ったことがないから、警護の任務を軽く捉えているようだけど、そんな風に思ってはダメよ。その油断で、守るべき女王様が死ぬかもしれないし、傷つくかもしれないの。それに、油断していたがために、自分の命も危うくなることだってあるんだから」
セシリアの言葉には確かな重みがあった。それまでの温かい空気から一転。重苦しい空気となるが、決して険悪な空気ではない。
母親の愛と戦士としての訓戒が入り混じった言葉は、平和というぬるま湯につかり続けてきた人間の心に深く突き刺さる。
「分かった――とは気軽に言えないけど、今言われたことを胸に、改めて明日の任務に当たるよ」
「よろしい。マリアナ様のこと、くれぐれも頼んだわよ。ナターシャ様のような悲劇は二度と、引き起こしちゃいけないから」
唇を噛みしめる母親の姿と共に、改めて覚悟を決めるアスカル。ミシェルも、警備に当たるわけではないが、平時であっても戦時の心構えを忘れないことの大切さを教わった気分であった。
そして、セシリアは義理の姉にあたるナターシャのような被害者を増やしたくない、彼女が身を挺して守った女王を守ることの責任を教えられたことに満足感を覚えるのだった。
第150話「迫る女王の結婚式」はいかがでしたでしょうか?
今回は家族団らんがメインではありましたが、ラストで空気は一変。
セシリアから女王の結婚式の警備にあたるアスカルに、厳しい言葉が投げかけられていました。
その覚悟を胸に、警備にあたるアスカルを見守ってもらえればと思います!
次回も3日後、11/15(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!