第148話 パレイルのお菓子屋
どうも、ヌマサンです!
今回はアスカルたちが再びクロエのお菓子屋に立ち寄ります!
一体、立ち寄ったお菓子屋でどんな話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第148話「パレイルのお菓子屋」をお楽しみください!
「あ、セシリア様。それに、ミシェルさん、アスカル君も!」
「クロエ、また来たわ」
「ということは、テルクスの帰りだね」
「そうよ。クロエが帰りに寄ってって言ってたから、寄らせてもらったわ」
店先でセシリアとクロエが言葉を交わし、そのまま店の中へと場所を移す。開店準備最中の店内は客はおらず、クロエの他に何名かの店員が開店準備を進めている。
だが、大急ぎでしているという慌ただしさはなく、むしろ落ち着いた様子で準備している様子は、まさしく手慣れているといったところ。
「開店準備で忙しい時にごめんなさい。忙しいでしょ……?」
「ううん、いつものことだし。それに、そもそも帰りに寄ってと言ったのはワタシの方だから」
ニコリと笑いながら、3人に座るよう勧めるクロエ。セシリアとミシェルは座ろうとしなかったが、アスカルは遠慮なく椅子に腰かけた。そして、アスカルが2人にどうして座らないのかと問いかけている間に、クロエは厨房へ。
アスカルに説き伏せられる形でセシリアとミシェル席についたところへ、クロエが人数分の紅茶を淹れて運んできた。
「とりあえず、紅茶を」
「――この香り、もしかして……」
「あっ、セシリア様は分かりました?茶葉はラローズ領内で取れたものです。シュテフィ姉さま主導で広まった茶葉で、今ではラローズ領の名産品にもなっているんですよ」
「ふふふっ、それは知っているわよ。王都で話題になって久しいもの」
王都コーテソミルでも貴族や商人など、金持ちの間で話題沸騰の茶葉。そう思うと、飲もうとする手が止まるミシェル。対して、気に留める様子もなく、ぐびぐびと飲み干すアスカル。
姉と弟でも正反対の動きをしていることにセシリアも、そしてクロエからも笑みがこぼれる。
「そうだ、アルベルト殿とシュテフィ殿はもう王都へ?」
「はい。昨日出立しました。これでもギリギリの到着になるのだ、と大急ぎで」
「でしょうね。私たちのように少人数で移動するならいざ知らず、領主として移動するからには大勢で動かなければなりませんから」
「それが領主になって一番煩わしいと兄さんも言っていました」
アルベルトもクロエも、もともと貴族出身ではない。田畑を耕すだけの農民だった。それが、アルベルトに氷魔紋の力が備わっていたことで取り立てられ、今に至るのだ。
「そういえば、シュテフィ殿は相変わらず、田畑を耕しているの?」
「はい。そこまで広い面積ではありませんが、領主夫人としての職務をこなす傍ら、農作業にも従事しています」
領主夫人としての仕事も大変である。来客があれば応対し、饗応役も務める必要があるのだ。その傍らで農作業もするなど、体力が化け物じみている。
「そうだ、セシリア様。今日は会わせたい人がいるんです」
「会わせたい人?クロエもついに身を固めるのかしら?」
「ワタシはもう、四十を過ぎた年増の女ですよ?それはもうありません――って、そういうことではなくて!」
そうクロエが言っていると、奥の部屋から一人の青年が姿を見せた。白みがかった黄色の髪に真紅の瞳を持つ青年。髪の色はシュテフィと同じ、さらに瞳の色と精悍な顔つきはアルベルトに瓜二つ。
「もしかして――」
「はい。兄さんとシュテフィ姉さんの息子にしてワタシの甥っ子、オリヴィエです」
ルノアース大陸が統一された頃、まだシュテフィの胎内にいた子が、ここまで大きく育った。それだけで年月を感じさせる。
「どうも。オリヴィエです。セシリア様、ミシェル様、アスカル様。お噂はかねがね伺っています」
なんと礼儀正しい青年なのかとセシリアは感服しっぱなしであった。一方で、アスカルはぺこりと会釈し、ミシェルはお辞儀をすることも忘れて呆然としている。
「オリヴィエ君、もう20歳になったんだっけ」
「はい」
「今はお父上の下で次期領主として励んでいるの?」
「は、はい」
グイグイ距離を詰め、質問攻めにするセシリアにたじろいでしまうオリヴィエ。そんな様子に助け船を出すわけでもなく、クロエはクスクスと笑っている。
そうしてオリヴィエは誰に助けを求めることもできず、ただただセシリアから浴びせられる質問に、答えていくしかなかった。しかし、そんな無力な青年に、クロエではない、別の人物から助け船が出される。
「おい、母さん。やめないか。見るからに困っているじゃないか」
「はっ、つい質問攻めにしてしまったわ……!ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。誉れ高いセシリア・ランドレス殿と話せて恐縮です」
緊張しているのか、オリヴィエは固い口調のままである。とはいえ、物腰柔らかな好青年という印象は崩れない。何とも、貴婦人うけしそうな青年だと勝手に思うアスカルであったが、母が失礼しましたと、今は引き下がるしかなかった。
アスカルがセシリアをオリヴィエから引きはがして、元の席に戻した時でもミシェルは未だにぼんやりとしていた。
「姉さん、何をぼんやりしている」
アスカルからそう言われ、ようやく我に返ったミシェル。しかし、オリヴィエを見て赤面し、また顔をそらしてしまう。そこへ、セシリアがアスカルを手招きする。
「アスカル、ちょっとちょっと」
「なんだよ、母さん」
「これって、恋じゃない?」
「姉さんが、オリヴィエ殿に一目ぼれ……か」
ひそひそ声でセシリアから指摘されるまでアスカルも気づいていなかったが、今の指摘でハッとした。一目ぼれだと言われれば、ミシェルの反応にも整合性が見いだせるのだ。
「オレは人の恋路を邪魔する気はないから別に良いんだが、母さん的にはどうなんだ?」
「アタシは構わないと思うけど?恋は女の戦だからね。どっちも経験がすべてだよ」
「そういうものか……?」
未だ恋をしたことのないアスカルにはピンと来ないが、恋をした人間がどういう反応を示すのか、周囲の人間を見て学んできている。
経験上、ミシェルがオリヴィエに対して一目ぼれしたということまでは分かっても、恋という感情はサッパリ理解できていない。それが、今のアスカルなのだ。
とはいえ、人の恋路は邪魔しないというのは事実であり、姉のミシェルに幸せになってほしいという想いは多少なりとも持っている。今まで、まったく色恋沙汰のなかった、姉にもいよいよ春が訪れたか。
そう思い、しみじみするアスカル。一方で、娘の恋の波動を感じ取り、保護者といっても差し支えないクロエに色々と質問するセシリア。
そうした中で、オリヴィエはミシェルの方を見やっていた。別に、オリヴィエもミシェルに一目ぼれして――というわけではない。
ただ、自分とミシェル以外の人間が目を閉じながらうんうん頷いていたり、ひそひそ話をしているから、どうしたものかと戸惑っているのだ。そこへ、セシリアと話が終わったクロエが話しかける。
「オリヴィエ、この前の見合い話はどうなったの?」
「見合い話――もちろん、断りました」
「それは、どうして?好みじゃなかった?」
「いや……まぁ、そうですね。ああいうおっとりした人はどうも苦手で」
オリヴィエが見合い話を断ったと聞けばビクッとし、おっとりした人は苦手だと聞くと、ふんふん首をわずかばかり縦に揺らすミシェル。
彼女としては、無意識のうちに取っている行動だが、そんな彼女の行動を見て、母のセシリアはただただ嬉しそうに表情筋を緩めている。弟は、この状況は母が裏で糸を引いていると気づき、嘆息するのだった。
第148話「パレイルのお菓子屋」はいかがでしたでしょうか?
今回はミシェルに春が訪れたかもしれないという話でした!
次回はこの話の続きから始まりますので、引き続き楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も3日後、11/9(木)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!