第147話 日々の鍛錬
どうも、ヌマサンです!
今回はパレイルに戻ってきた翌朝の話。
一体、どんな話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第147話「日々の鍛錬」をお楽しみください!
旧都テルクスより王都コーテソミルへ帰る道中。パレイルで宿を取ったランドレス家ご一行。
夜が明け、新たなる一日の始まりを朝日にまぶしく急かされたようにアスカルは目が覚めた。
隣の部屋で眠る母と姉。2人を起こさないよう、アスカルはそっと音を立てずに部屋を出る。欠伸しながら朝日に当たり、伸びをする。朝、起きれば誰もがするようなことをした後は、素振りだ。
昨日、面倒だと諦めていた武芸と学問に励むと誓った。ゆえに、まずは今日からどのように行動していくかが大切。
そう思い、一度部屋に戻り、魔剣ヴィントシュティレを持ち出す。何をするかと言われれば、素振りだ。
学校で叩き込まれた基礎基本に立ち返る。子どもの頃に学校で何を教えられたのか、もう一度思い出しながら、ゆっくり、ゆっくりと剣を振り始める。
だが、アスカルとて近衛兵の試験に受かる程度には剣術はできる。ゆえに、太刀筋にほとんどブレは見られない。
「振り上げる時はゆっくり。そして、振り下ろす時は剣が頭上を通過した瞬間――勢いよく!」
振り下ろした剣は風を切り、ビュッという音がアスカルの耳にも届いた。基礎については、これで良かったはず。そう思いながら、何百回と素振りを繰り返す。
素振りを始めた時はまだ眠気が残っており、夢見心地であった。それがいつしか、しゃっきとし、目も大きく見開くことができている。運動しているうちに目が覚める。今のアスカルはまさしくソレであった。
「アスカル、朝早くから素振りとは精が出るな」
「姉さんか。母さんはまだ寝ているのか?」
「ああ。疲れが取れていないんだろう。だが、起きてくるのもそう遅くはならないと思うぞ」
セシリアは「武人として最も大切なのは敵に立ち向かうや日頃の訓練を欠かさないこと以上に、休める時に休めることだ」と言っていたのを、アスカルは思い出していた。
自分で行ったことを実行している。有言実行している母親に、アスカルはただただ尊敬の念を抱いていた。
「アスカルを見習って、私も素振りをするとしよう」
「姉さんもするのか。そういえば、一緒に素振りをするなんて、今まで一度もなかった気がするな」
「確かに。学校では素振りさせられることは多かったし、家でも自主練を兼ねてやっていたが、一緒にする機会はなかったな」
そう思えば、姉の剣の腕前を見ることのできる、いい機会だ。何か、自分に足りないモノなどが見え、成長に繋げられるかもしれない。
アスカルはそう思い、いい機会だから一緒に素振りをしようとミシェルを誘い、姉弟揃って朝から剣の素振りをすることに。
「姉さん、綺麗だな」
「なっ、何を言っているんだ……!?こ、これくらい大したことじゃないだろ……!」
「いや、何。オレよりも太刀筋にブレがない。新人近衛兵よりも剣術に優れている司書って組み合わせ、よく考えれば面白いよな」
「た、太刀筋の方か。ビックリするじゃないか」
そう言って、胸をなでおろす姉。一方で、自分の姉が何を言っているのか、よく分からず、困惑する弟。そんな構図が出来上がっていたところで、残り一人の家族がやって来る。
「おっ、朝早くから素振り?偉いねぇ」
「そりゃそうだ。昨日の今日だからな。今日から励まないと、明日励む気が失せてしまう」
「そっか。確かに、明日からやろうと思ったところで、やらずに終わることって多いから」
「母さんのダイエットみたいにな」
アスカルがダイエットについて触れた直後、セシリアから放たれた蹴りがアスカルの鳩尾を穿つ。
「うぐっ……」
「いい?アスカル。女性に年齢と体重についての質問はダメなの」
「ダイエットも体重の話に分類されるという認識なのか……」
「人によってはそうなるわね。だから、注意しなさい」
ピッと人差し指を立てて、念を押すセシリア。アスカルはこの訓戒を忘れまいと、記憶に深く深く刻み込むこととした。
「そうだ、母さん」
「何かしら?」
「母さんは剣術の腕を上げるためにやったこととかはあるのか、聞いておきたいんだが……」
「そうね……」
剣術を上達するためにやったことはないか。改めて聞かれると返事に困ると言った様子で考え込むセシリアであったが、割と答えはすぐに出た。
「ないわね」
「……ない?」
「あっ、ないと言っても変わったことは特にしていないってことなんだけどね」
特に変わったことはしていない。それでも、剣術の腕は上達するというのか。アスカルは不思議でならなかったが、セシリアは不思議そうな表情を浮かべる我が子に対して、情報を補足する。
「大体のことはそうだと思うけど、抜け道を探すよりも愚直に基礎を繰り返せる人の方が強くなるわ」
「愚直に、基礎を……」
「そう。まずは素振りを毎日欠かさず何百回も繰り返すの。少なからず、ナターシャ様はそうしてたわよ」
大陸中に武名を轟かせた、かの『漆黒の戦姫』が毎日欠かさずに素振りをしていた。それは『漆黒の戦姫』に限って言えばの話だろ。
そう思って何もしないのは簡単だ。だから、アスカルは愚直にすることにした。まずは自分に足らないのは、日々の鍛錬そのものであるからだ。
「よし。じゃあ、オレも毎日欠かさずに素振りをする。それで、一歩一歩自分なりの速度で強くなっていく」
「うん、それでいいと思うよ。まずは、日々の鍛錬を欠かさないことを習慣づける。アスカルはそこから始めるのが良いと思うよ」
アスカルは改めて決心した。今日からは毎日、欠かさず素振りを続ける。何より、日々鍛錬すること自体を毎日の習慣に組み込んでいくことから始めなければならないのが、今の自分の立ち位置なのだ。
改めて、自分の剣術の技量を見つめ、足らずを補うべく鍛錬していくこと。素人ほど見落としがちな、基礎を積み重ねていくことを、母から教わった。アスカルは母の何気ない一言ではあるが、これから大切にしていこうと思えていたのだ。
「アスカル。素振りはこの辺にして、クロエ殿のお菓子屋へ向かわないか?」
「そうだな、もういい頃合いか」
早朝から素振りをしていて気づかなかったが、少しずつ通りに人の往来が戻り始める時刻となっていた。
そうと決まれば、ひとまず稽古は切り上げ、クロエのお菓子屋へ向かおう。この用事を済ませたら、王都コーテソミルへ向けてパレイルを出発しなければならない。
ここでもたもたしてしまっては、それこそマリアナとノルベルトの結婚式に間に合わず、アスカルは仕事を放りだしたていになってしまうのだ。
「それじゃあ、一度2人とも汗を拭いて着替えておいで」
「だな、こんな汗くさい状態でお菓子屋に行くのは申し訳ない」
「私もそこまで動いたわけじゃないが、一度部屋で着替えるとしよう」
家族三人、一度それぞれ部屋へ戻り、お菓子屋へ向かう準備を整える。アスカルの方は清潔な布で汗を拭き、寝間着から普段着へと着替えれば終わり。
だが、アスカルは自身が汗を拭いて着替える時間よりも、セシリアとミシェルの支度が整うまでの待ち時間の方がはるかに長かった。
まだかまだかと思いながらも、早くしろと言うことしかできない。部屋に突入して女性陣の支度を手伝えるわけでもないのだ。
「まったく、女というのはどうしてこうも支度に手間取るんだ……」
ため息まじりに呟くも、それで待ち時間が短縮されるはずもなく。ただただ廊下で待ち続ける羽目になったアスカル。その後、お菓子屋へは時間がないことから、走って向かうことになるのであった。
第147話「日々の鍛錬」はいかがでしたでしょうか?
今回はアスカルが朝から素振りに励んでいました。
その中で、ミシェルやセシリアと話したりしながら、彼なりに得るものがあった……という感じでした!
ともあれ、次回はクロエのお菓子屋での話になります!
次回も3日後、11/6(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!