第146話 旧都を発つ
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよアスカルたちが王都コーテソミルへの帰路につきます。
どんな話になるのか、予想しながら読んでもらえればと思います……!
それでは、第146話「旧都を発つ」をお楽しみください!
「それじゃあ、またね。アマリア」
「ああ。また会おう。といっても、ボクも王都に向かうから、王都で会うかもしれないけどね」
そう言って、顔を見合わせて少女のように笑う2人。外見は大人になったが、心根はまだまだ子供らしさを残している。
「そうかもね。じゃあ、王都で会ったらアタシの家でお茶でもどう?」
「それはいいね。ついでに、君とまた手合わせがしたい」
「本当に手合わせが好きよね、アマリアは」
「君だって嫌いじゃないだろ?」
またしてもクスクスと笑い合う大人二人。一方で、ミシェルとアスカルもセリアとの別れを済ませようとしていた。
「ミシェル、アスカル。久々に会えて嬉しかったわ」
「私も。また、王都にお越しの際はゆっくり話がしたいです」
「今から王都へ行くのが楽しみになったわ」
王都へ行く楽しみが増えたとセリアは笑っているが、次はいつ王都コーテソミルへ行けるか、まだまだ分からない。今回のようにアマリアが領主としていくことはあっても、次期領主という立場では赴く機会がなかなかないのである。
とはいえ、領主になったらなったで忙しくなる。そして、王都へ行くにしても何かしらの公務であったりするため、自由に観光したり、動き回ることも難しくなってしまう。
「どうせ、墓参りにはこれからも来るわけだし、その時にまた話でもすればいい。わざわざ王都じゃなくても、話くらいできるだろ」
「まぁ、それもそうだね。それじゃあ、また二人がテルクスへ来た時には、もてなせるようにしておくわ」
わざわざ王都で会う必要はない。話の本筋からは逸れているアスカルの言葉だが、確かに王都でしか会えないわけではない。セリアとしても『それもそうか』と思えた。
それに、今の一言は当分の間会えなくなることを寂しく感じている自身への励ましの意味合いが多分に含まれている。そのことに気づいてみると、セリアとしても非常に嬉しく思えた。
「そうだ、ミシェルやアスカルはお菓子作りに興味はある?」
「オレはないが……」
「私は興味があります。やってみたいとは思っているが、右も左も分からず、始められていない……とった具合で」
「それじゃあ、次に来た時には一緒にお菓子作りをするのはどう?」
思いがけぬセリアからの提案に、喜色満面のミシェル。そのまま、次に来た時は一緒にお菓子作りをするということで、約束が成立してしまっていたのだ。
それを傍から冷めた目で見ていたアスカルだが、『一緒に』という言葉に自分も含まれていることが分かると、案外悪い気はしなかった。
「そうだ、アスカル」
「はい。何でしょうか、アマリア様」
セリアとの別れもひと段落した絶妙なタイミングで、アマリアからアスカルへ声がかけられる。
「改めて装備を見ると、ナターシャ様を思い出す。だが、覇気が足らない」
「覇気……」
「すまない。ナターシャ様と比べるようなことを言ってしまった」
「いえ、事実だと思います。装備に見合うほどの武芸や教養を身につけられていわけではないので」
口では気にしていない風を装いつつも、胸にグサリと、刃物のようなものが深く深く突き刺さるような感覚を覚えていた。
「ちょっと、アマリア。うちのアスカルに何を言っているのよ」
「だからすまないと言っただろう。というか、セシリア。君はいつも身内に甘すぎる。もっと身内には厳しくした方がいい」
仲がいいのか悪いのか。そのまま口論に発展するセシリアとアマリア。それをセリアとミシェルが間に入って止めている間、アスカルはアマリアから言われたことをじっと考えていた。
『漆黒の戦姫』が身に纏っていた装備品の数々は、どれも一級品。さらには、隅々まで手入れされており、アスカル自身も受け継いだ以上は、と定期的に手入れしているほどだ。
だが、自身の武将としての腕前は遠く及ばない。そもそも『漆黒の戦姫』と比べてしまえば、及ばない者ばかりであるが。
「頑張ってみるか。もう一度」
どうせ、自分には無理だと武芸の稽古をいつしか手を抜きがちになっていた。学問も面倒だと真面目に取り組むことを諦めていたのだ。
歯に衣着せぬアマリアの一言で、なんだかアスカルは目が覚めたような心地もしていた。これを機に、もう一度武芸も学問も懸命に取り組んでみるのもアリなのではないか。そう思えてきた。
「アマリア様。オレ、もっと武芸の腕を上げられるよう、精進したいと思います」
「そうか。ボクで良ければ、王都で会った時にでも少しは指南できるかもしれないが……」
「ぜひ、お願いします」
アスカルのその一言に、ミシェルとセシリアは満月のように目を丸くしていた。何かに真剣に取り組もうと自分から言い出すアスカルなど、久しぶりに見たからである。
だが、精進するという我が子を、弟を見て、嬉しくない母と姉などいない。むしろ、成長を眼前で見られたことに感動すら覚える。終いには、セシリアは涙ぐんでいたほどだ。
「母さん、何を泣いているんだ。見ているこっちが恥ずかしいだろう」
「でも、涙が止まらなくて……」
止めようにも嬉し涙はとどまることを知らなかった。アスカルも最初こそ止めようとしたが、途中からは諦めて見守ることに徹している。ミシェルも、そんな母と弟の様子をアマリアやセリアと共に見ていた。
そうしてセシリアが落ち着き始めたところで、話が戻り始める。アスカルは再びアマリアの元へ移動し、改めて指南のために時間が確保できそうな日を確認し、日程を調整。
「それじゃあ、マリアナ様とノルベルト殿の結婚式の3日後、ボクがテルクスへと戻る前日に稽古をつけよう」
「あ、ありがとうございます」
アマリアに剣術指南してもらえる日も決まり、そろそろテルクスを出立しなければならない時刻となっていた。
「それじゃあ、3人とも。道中気をつけて帰るんだぞ」
「次からはお墓参りが終わった後、気軽に寄ってくれていいからね~!」
馬を走らせようかというタイミングで、アマリアとセリアの2人からかけられた言葉。その言葉にひらひらと手を振ってこたえ、そのまま3人は帰路につく。
「母さん、帰りはパレイルにも寄っていかないといけないわけだが、今日中に入るのか」
「行きと同じく迂回しないといけないだろうから、厳しいかな?でも、明日の昼前には到着できると思うけど」
「そうか、迂回路のことを忘れていた……」
昨日の今日で土砂崩れで通れなくなっていた道が開通しているとは考えづらい。あまり期待せずに向かおう。
そう思っていた一行だったが、予想はいい意味で裏切られることとなった。
「通れるようになってるぞ……!」
「これはツイてるな。これなら、日付が変わる前にパレイルに入れるかもしれない」
帰り道は幸運に恵まれたアスカルたち。迂回路を使わずに済んだことは大きく、夜遅くの到着にはなったが、無事にパレイルへと到着することができたのだった。
「とりあえず、宿を取って、明日はクロエのお菓子屋に寄ることになるわけか」
クロエからお礼をさせてほしいと言われ、帰りに立ち寄ると返事をしていた。ゆえに、忘れずに寄っていく必要があるのだ。
「そうだね。じゃあ、明日は正午にパレイルを出発するってことで良いかな?」
「オレは構わない。そんなに長引く用事じゃないだろうからな」
「私もだ」
「決まりだね。とりあえず、今日は遅いから休もう。それで、明日は元気な顔をクロエに見せに行こう!」
「店だけに、な」
ミセに元気な顔をミセに行こう、というアスカルの笑えないギャグに肌寒さを覚えながら、3人は宿へ入ったのだった。
第146話「旧都を発つ」はいかがでしたでしょうか?
今回はアマリアとセリアに別れを告げて、王都への帰路についていました。
そして、アスカルはもう一度自分磨きをしようと決心したのも印象に残ったのではないでしょうか?
次回も3日後、11/3(金)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!