第145話 墓参りで感じたことは
どうも、ヌマサンです!
今回は墓参りを終え、ルグラン邸でアスカルたちが一泊するという話。
一体、どんな夜を迎えるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第145話「墓参りで感じたことは」をお楽しみください!
「ごちそうさまでした」
テーブルに並べられた食器類から、料理はすべて消えていた。そして、来客であるセシリア、ミシェル、アスカルの3名は満足げな表情を浮かべている。雨音が激しくなるのとは無縁な、穏やかな一時であった。
「どうだい?美味しかっただろう」
「はい。とても美味しかったです」
「美味かった。もう一泊して食べて帰りたいくらいだ」
「フッ、そうかそうか。でも、ボクも明日には王都へ発たなくてはいけないんだ」
王都へ発つ。このタイミングで王都へ向かうということは、アマリアもマリアナとノルベルトの結婚式に参列するのだろう。一同、口には出さなかったが、そう思っていた。
「まあ、セリアは留守居をしているから、残れなくはないだろう」
「ううん、さすがに帰るよ。アスカルはマリアナ様の結婚式で近衛兵としての任務があるから絶対に帰らないと」
「そうか、アスカルは近衛兵だったか。しかも、若いのに結婚式の護衛を任せられるとはスゴイじゃないか」
いや、そこまで重要な役割じゃない。アスカルはそう弁明したかったのだが、嬉しそうにうなずいているアマリアを見て、何も言えなかった。
「セリア様、留守居って、なんだか寂しくはありませんか?」
「どうだろ?アマリア母さんがいないし、寂しくないと言えば嘘になる。けど、屋敷には使用人のみんなもいるし、外に出れば領民のみんながいる。だから、総合的に見ればそこまで寂しくはないと思う」
そう言って笑うセリア。その笑顔はまぶしく、嘘を言っているようには感じられなかった。
「セリアは大きくなったね」
「もちろん。一応、次の領主だからね」
セシリアはそう言って嬉しそうにセリアの頭を撫でる。撫でられるセリアも心地よいのか、表情が緩んでいる。なんとも、見ているだけで思わず和んでしまう。
食堂の雰囲気ごと和みつつある中で、夕食を済ませたセシリアたち。それからは一泊するということで、屋敷の中で来客用の部屋を宛がわれる。一人に付き一部屋。アマリアはそう言っていたが、ここで予想外のトラブルが起こる。
「すまない。雨漏りで来客用の部屋が一つ使えないようだ」
「つまり、二部屋に分かれないといけないわけね」
「そう……なるね」
3人をどう二部屋に分けるか。そこが話し合われることになった。そのまま家族会議突入である。
「どうする?ミシェルかアスカルがアタシの部屋に来る?」
「それなら、姉さんが行ってくれ。女同士の方がいいだろうからな」
アスカルが女同士水入らずで過ごせばいいと言ったところ、セシリアは容易に首を横に振った。
「ここはあえて、あなたたち姉弟で寝泊まりしてみたらどう?」
「……は?」
「か、母さん!それは……!」
「うん、決まりね!それでいきましょう!」
呆然とするアスカル。そして、それは嫌だと抵抗しようとするミシェル。2人の反応はそっちのけで、部屋割りはセシリアの一存で決定された。それにより、その日はミシェルとアスカルは同室で夜を明かすことになってしまったのだ。
「まったく、母さんは何を考えているんだ……」
「だな。ホント、母さんは何を考えているんだ……。おまけに、姉さんの反対も聞いてなかったし」
荷物を部屋に運び込まれたものの、2人としては同室で一晩過ごすことへの不満が消えたわけではない。だが、強引に母に押し切られてしまい、もう今更どうすることもできずにいた。
「仕方ない。オレはもう寝る。今日は疲れたからな」
「私もそうさせてもらおう」
二人はほとんど話すこともなく、それぞれのベッドに潜りこむ。いつものように姉弟で話すこともできるが、今の状況ではあまり話したくないという想いの方が勝っていた。
とはいえ、ベッドに潜り込んですぐ、睡魔に誘われるというわけもなく。ただただ静寂が室内に満ちる。そもそも、こうして姉弟だけで眠るなど、赤ん坊の頃以来ではないか。
物心がつく頃には、それぞれに部屋を与えられ、別々の部屋で勉学に励み、学校へ通う。互いに趣味に打ち込んだりもするが、会ってゆっくり話すのは自室ではなく、食堂。
食事しながら今日あったことなどを語ったりはしたが、母であるセシリアがいたからこそのにぎやかさがあった。
どちらかと言えば、ミシェルもアスカルも会話すること、特に雑談が苦手なタイプの人間だ。初対面の人間と2人きりで放置されると、そのまま黙りこくってしまう。そして、ただ時間だけが過ぎていく――といったことが起こりがちなのだ。
そんな二人だが、さすがに姉と弟。少しくらいは他愛もない雑談で眠りに落ちるまで時間を潰せる。そう思っていたのだが、驚くほどに無言が続いていた。
「あの――」
「そ――」
見事に話し始める瞬間が被った。そして、被るなり互いに先に話すように譲るのも、姉弟そっくりであった。
「それじゃあ、私からだ。アスカルは墓参りをして、何か思ったことはあるか?」
「思ったこと……」
「難しく考えなくていい。何か感じたものはあったか?」
そんなミシェルの言葉を聞き、アスカルは今日の墓参りの様子を改めて脳内再生を開始。思ったこと、感じたことはなかったかを改めて思い返してみる。
「あった」
「聞いてもいいか?」
「もちろんだ」
アスカルは感じたこと、思ったことを言語化し、改めて姉へと伝えた。それは、人間は生きている限り死ぬということ。そして、肉体が死んでも、生きている間に関わった人々の心の中では生き続けているということを。
「何というか、母さんが墓の前で祈っているのを見て、感じたんだ。心の中で生き続けるなんて、綺麗事だと最初は思っていた。けど……」
「綺麗事でも何でもなかった、ということか」
「ああ。オレも姉さんも、母さんも。生きている限りみんな死ぬ。けど、何か人の心に残ることをすれば、その人の心の中で生き続けることができる。オレも、そんな風に思ってもらえるように、生きていこうとは思ったよ」
いつもならばミシェルはアスカルが真面目な顔で、声で話をすると笑ってしまう。だが、その時の話に、ミシェルは一切笑うことがなかった。
笑わなかったというより、笑えなかったという方が正しい。ミシェルとしても、聞いているうちに思うところがあったのは間違いない。
「逆に姉さんは何か感じたことや、思ったことはあったのか」
「私か?そうだな、母さんを見ていて感じたことが一つ」
「母さんを見ていて……?」
「ああ、母さんは父さんを心の底から愛していたということだ」
真剣に祈る姿に、心を打たれた。ミシェルが言いたいことは、これに尽きる。だが、アスカルには完全には伝わらなかった。
だが、言いたいことが何なのかは分かっている。その心を打たれる感情までは分からなかったが、心打たれたことには共感したのだ。
「姉さん」
「なんだ?」
「墓参り。わざわざ馬に鞭打ってまで来て、本当に良かったな」
「ああ。また来るときも、3人で。いや、おじい様たちも誘って、大勢で来よう。その方が父さんたちも喜びそうだ」
次も家族そろって墓参りしよう。姉との約束に、弟は完全に同意した。だが、次はもっと大勢で、わいわいがやがや墓参りするのかと思うと、それだけで面白おかしい墓参りになりそうだと、アスカルは笑みをこぼした。
そうして夜も更け、明日から始まる王都コーテソミルまでの長旅に備えて、姉と弟は仲良く眠る。これこそ、母親が臨んでいた状況。
我が子たちが仲良くすやすやと眠っている。それだけで嬉しい、母心。
第145話「墓参りで感じたことは」はいかがでしたでしょうか?
今回はミシェルとアスカルが同じ部屋で一泊することに。
その中で、墓参りで感じたことを伝えあったわけです。
お互いにどのようなことを感じたのかを知った姉弟を、次回からも引き続き見守ってもらえればと思います!
次回も3日後、10/31(火)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!