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第144話 テルクスでのひと時

どうも、ヌマサンです!

今回はアマリアの屋敷で話が展開していきます。

どんな話しになるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第144話「テルクスでのひと時」をお楽しみください!

 手入れの行き届いた広大な庭園。石や木の葉ひとつ落ちていない道。派手さはないが、高潔さのにじみ出る雰囲気の真っただ中に屋敷はあった。


「アマリアの屋敷は相変わらず手入れが行き届いていてすごいわ……」


「そうだろう。だが、手入れをしているのは、庭師たちだ。褒めるなら、彼らを褒めてやってくれ」


 人の手柄はその人の物。決して横取りするような卑怯な真似はしない。


 そうした態度、言語にアマリアの人柄が出ている。それゆえに、庭師をはじめ、屋敷の人からも好かれ、自然と働く者たちもより良い仕事をしようと心がける。


 その結果が、今現在のルグラン邸。その屋敷の主であるアマリアに付いていく形で、セシリア、ミシェル、アスカルが続く。


 セシリア以上に久しぶりにルグラン邸を訪れたミシェルとアスカルの二名は物珍し気に視線をあちこちに散らしている。そんな我が子らの様子を感じ取り、セシリアからクスリと笑みがこぼれていた。


「アマリア母さん、おかえりなさい」


「ああ、今帰ったよ。それと――」


「来客だね」


 アマリアが言うよりも早く、来客を対応するべく、セリアは使用人たちに目配せした。そして、使用人たちもセリアが言葉にせずとも、意図をくみ取り、奥へと何名かが姿を消す。


「セリアも久しぶりね。アタシのこと、覚えてる?」


「もちろん。セシリア様のこと、忘れるはずがありませんよ」


 ニコリと無邪気な笑みを浮かべるセリア。ひとかけらの邪気も感じさせない笑顔は、20年前から一つも変わっていない。


 そして、子どもらしく走り回っていた頃からは想像もつかないほど、礼儀正しく、淑女としての振る舞いを習得していた。といっても、アマリアが厳しくしつけたからに他ならないのだが。


「それじゃあ、この2人は覚えてるかな?」


「ミシェルとアスカル。ナターシャ様の姪と甥だということも含めて、知っていますよ」


 そう。セリアはナターシャと面識があるばかりか、ミシェルとアスカルの両名とは違い、『漆黒の戦姫』の表情も仕草も鮮明に思い返すことができる。


 そんなセリアはかつて、帝国軍と共にミシェルとアスカルの父であるクライヴを死に追いやったジェフリー・ルグランの娘。


 ジェフリーとクライヴの子どもたちが顔を合わせている。この状況は、何とも言えぬものをセシリアとアマリアに感じさせていた。もちろん、感じたことは口にも表情にも出さず、心の奥底にそっと締まっていたのだが。


「セリア様、お久しぶりです。私のことを覚えていて頂けたこと、光栄の極みです」


「そう畏まらなくてもいいよ。私はミシェルもアスカルも妹や弟だと思ってるから」


 裏表のない人の言葉ほど、人の胸を打つものはない。聞いているうちにセシリアは涙が溢れ出そうになるのを、ギリギリのところで押しとどめながら見守っている。


「アスカルは今、近衛隊に所属しているんだったっけ?」


「あっ、はい。まだまだ入ったばかりで、右も左も分からないですが……」


「そうかぁ……。アスカルが近衛隊に入れる年になったんだと思うと、私も年をとったなって思ってしまったよ」


 くすくすと笑っているセリア。だが、彼女の言葉を聞いて、アマリアとセシリアの二人だけはまったく笑えなかった。彼女たちにとって、老いはどんな仇よりも憎い敵だからだ。


「ミシェルは今、司書として働いてるんだよね?」


「そうだ……です。職場の人とも上手くやれています」


「なら良かった。でも、辛いこととかがあっても、心の中に貯めこんじゃだめだからね。困ったこととかがあったら、私に手紙を送ってくれれば力になるから」


「ありがとうございます」


 アスカルもミシェルもイマイチ緊張が抜けず、硬い口調のまま。対して、セリアの方は徐々に言葉遣いが柔らかく変化してきている。


「セリア、玄関口で長話は」


「あっ、それもそうだね。とりあえず、続きは応接間でしよう」


 ずっと玄関で足を止めていたことをアマリアから指摘され、セリアもようやく気が付いた。危うく、立ち話を続けてしまうところだったのだ。


 ともあれ、場所は玄関付近から応接間へと移ったが、話題は相も変わらず近況報告ばかり。しかし、セリアが楽しそうにミシェルとアスカルに話しかける様子に、アマリアもセシリアも安堵していた。


「アマリア、セリアも成長したね」


「そうだな。もう、31歳だ。初めて対面した時はまだ10歳だったというのに……」


「本当に時間が経つのは早いわよね」


 20年という月日はセシリアにとっても、アマリアにとっても、長くもあり、短くもある。そんな曖昧な、されど次世代の成長を実感できる月日であった。


「今、セリアに領主としての仕事を教えているんだって?」


「ああ。早いうちに領主の座を譲ろうと思っているんだ。何というか、彼女は自然と人を惹きつける。そんな彼女が領主になれば、きっと民は明るく愉快に暮らすことができる」


「アタシの目には、すでに民は明るく愉快に日々を送っているように見えるけど……」


「まだまだだよ。あの子はボクよりも賢い。領民を思いやれる優しい心、人から慕われる明るさ。そして、治政に活かせる知力。この3つが合わさった領主だ。ボクよりも良い領主になるよ。間違いなく、ね」


 アマリアは断言した。それが何を意味するのか、セシリアは感じ取っていた。


 自分の子どもたちと楽し気に話し、笑うたびに揺れる二つ結びにした紫色の髪を持つ女性。


 マリアナの側仕えをさせるまでは自由奔放で天真爛漫な少女だった。しかし、20年という月日をかけ、自由奔放と天真爛漫の良さだけを抽出し、融合させたような、人を惹きつける淑女へと成長を遂げている。


 そんなセリアが領主となったならば、とセシリアは思い描く。それこそ、民が明るく、笑って暮らせる地となる。


「なるほど、分かった気がする。アマリアが領主をセリアに譲りたいと思う理由が」


「そうだろう。武芸一辺倒のボクよりも絶対に良い領主になる。賭けてもいい」


「それに、領主としての事務仕事はアマリアの性に合わないだろうし」


「セシリア、一言余計だ――と言いたいところだけど、間違ってはいないし、何も言わないでおくよ」


 そう言って、顔を見合わせてクスクスと笑う二人。共に戦場を駆け抜け、同じようにナターシャを慕い、世話になった者たち。20年後も笑えている今この瞬間に感謝を捧げる。


 そして、自分たちの想いなど知る由もなく、ただただ楽しそうに笑って話をしている3人を見やり、平和であるということの幸福を噛みしめる。


「アマリア様、夕食の支度が整いましてございます」


「ああ、分かった。すぐに食堂へ向かうから、準備を頼むよ」


 使用人から、夕食の支度が整ったという報告を受けたアマリア。すぐ隣で報告を聞いていたセシリアと共にセリア、ミシェル、アスカルの3人に夕食の時間だと伝える。


「もうこんな時間かぁ、早いなぁ」


 ゆっくりとした動作で行われる伸び。その中で、服と体が密着し、体の線が浮き上がる。ミシェルは特に反応を示さなかったが、この空間でただ一人の男であるアスカルは不意に目をそらしていた。


 セシリアとアマリアはどうしてアスカルが視線をセリアからそらしたのか、分かってはいる。だが、指摘するのも野暮というもの。深く追求するような真似はしなかった。


「さっ、今日は5人で食卓を囲もう!ごちそうを揃えているし、テルクスの名物料理もいくつかあるから、ミシェルもアスカルも味わっていくといいよ」


 そう言って、先頭に立つセリアに続くように、4人は食堂へ向かうのであった。

第144話「テルクスでのひと時」はいかがでしたでしょうか?

今回はセリアが久々に登場していました!

自由奔放だったセリアが落ち着いているのに驚いた方もいたかもしれませんね……!

そんなルグラン邸での一時を引き続き、楽しんでもらえれば幸いです!

次回も3日後、10/28(土)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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