第143話 ランドレス家の墓参り
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよランドレス家の墓参り。
そして、その中でアスカルたちはある人物と会うことになります。
それでは、第143話「ランドレス家の墓参り」をお楽しみください!
太陽が頭の真上へと至る頃。王都コーテソミルより長旅を続けてきた一行がテルクスの門を潜った。
「久しぶり……だな。でも、帰って来たという心地もする」
「ああ、アスカルの言うとおり、久しぶりに帰って来たというような心地がするな」
ランドレス家の血が、この地のことを記憶しているのか。不思議とアスカルもミシェルも、家へ、故郷へと帰って来たような感覚を覚えていた。
そんな二人を一歩ひいた位置から見ていたセシリアは、母親として、涙が今にもこぼれそうになっている。だが、子どもである姉弟はそのことには気づかず、奥へと進んでいくのであった。
「このまま墓参りに直行するのか?」
「ううん、花を買っていくわ。買う花も決まっているの」
そう言って今度はセシリアが先頭に立ち、御用達の花屋へと向かった。そこで購入したのは青い薔薇の花束。故人であるナターシャ、クライヴの両人が好きだったという花だ。
「青い薔薇を見ていると、クライヴの氷魔紋を思い出すわ」
「氷魔紋……オレと同じか」
「ええ、あなたに受け継がれた――のかもしれないわね」
「そうだと嬉しいな」
クライヴが亡くなった時、アスカルはまだセシリアのお腹の中にいた。そのため、父親の顔も見たことがないのだ。だが、どのような人であったのかは、周りの人が教えてくれたため、ある程度は知っている。
ミシェルは父親の顔を見たことはあるが、何分にも1歳前後の記憶だ。今では思い出そうとしても、ちっとも思い出せないのである。
「アタシは……よく覚えてる。そう長く一緒にいたわけじゃないけど、ね」
互いの意思に沿って、一緒に過ごした時間は多い方が親密な関係と言えるのは間違いない。しかし、短いからと言ってその人への恋慕の情が薄いとも言い難い。そのことを母親の言葉一つから思い知らされたように二人は感じた。
その後は、途切れ途切れの会話を続けながら、墓地へと到着。ランドレス家の墓地は女王マリアナの厳命により、極めて厳重に警備されている。だが、セシリアは身分が身分だけに、あっさり通してもらうことができた。
「あっさり通してもらえたな」
「そうだな。軍部に顔がきくとは聞いてはいたが、これほどとは……」
「まぁ、夫たちの墓参りだから。それに、私の名を聞けば、軍の関係者はすんなり通してくれるわよ」
元よりハワード家の人間は軍部に広い人脈がある。中でも、トラヴィスの人望は高く、セシリアもその娘ということもあって、幼少の頃から軍部には顔見知りが多かった。
今では、その時の顔見知りが、今では軍部で高い地位に就いていることも多い。それを頭で分かっていても、実際に見てみるのとでは感じ方が異なってくる。
そうして驚いているのも束の間、ランドレス家の墓へと到着した。周囲の木々が風でざわめき、夕刻の木漏れ日が辺りを優しく包んでいる。
「ここが……」
「そうよ。ランドレス家の、2人の父や叔母、祖父母が眠っているのよ」
ここまで来るのに4日間もかかったこともあり、尋常ではないほどの達成感がアスカルとミシェルに押し寄せていた。
「セシリアと、ミシェル、アスカルが参りました」
そう言って、青い薔薇の花束を墓前へ。悲しげな表情であり、子どもたちの成長をつたえる喜びであったり、感情が幾つも織り交ぜられた表情をしている。
そこへ、さらなる来訪者が姿を現した。
「あら、セシリア。あなたもここへ来ていたのですね」
「これは、マリアナ様……!」
ロベルティ王国の女王であるマリアナも、同じくランドレス家の墓参りに訪れた様子であった。マリアナもまた、手に同じく青い薔薇の花束を抱えている。
「セシリアも青い薔薇の花束を……」
「はい。青い薔薇を好んでおられた方々が眠っていますから」
セシリアはミシェル、アスカルに目配せし、墓前から立ち退いた。いくらランドレス家の者であっても、女王を待たせるわけにはいかないからだ。
それを分かっているのか、マリアナはわずかばかり早足で墓前へ向かい、抱えている花束を霊前に手向ける。少しの間、祈りをささげるとクルリと向きを変え、墓より離れた。
「マリアナ様、もう行かれてしまうのですか」
「ええ。ナターシャに、クライヴに、結婚のことを報告がしたかっただけですから」
「そうでしたか。道中、何卒お気をつけて」
「ありがとう。セシリア、また王宮にも顔を見せて頂戴。待っているわ」
そう言い終えると、マリアナは近衛兵たちを伴い、その場を後にした。
「近衛兵たち、かなりピリピリしていたな」
「そうね。ここで女王様の身に何かあれば、その責めを負うことになる。だから、その重圧を一身に受けて、戦っていたんだよ。アスカルも見習わなきゃね」
近衛兵の中でも女王の警護を担当している者たち。アスカルから見れば、先輩たちである。が、セシリアから見れば、戦場の経験もない若武者ばかり。
女王の護衛だけあって、装備も煌びやか。数も相当なものであったが、何分にも一人一人の戦士としての質が20年前よりも目に見えて落ちている。争いがないと、戦士は、武人は、腐っていくのだろうか。
……ふと、そのようなことを思ってしまうセシリアなのであった。
「母さん?」
「……そろそろ帰ろっか」
不意に顔を覗き込んでくる娘の表情は『何か考え事をしているのか?』と問いたげであった。ミシェルに女王の護衛を見て感じたことを話すのは何か違うような心地がし、セシリアはグッと心の奥へ考えを押し込める。
そうして、帰る前に親子3人でランドレス家の墓前に立ち、祈りをささげる。その時、思い思いに故人の顔を思い浮かべていく。
故人の表情など、生前のことを思い返し、セシリアが背後を振り返ると、とっくに祈り終えた娘と息子が立っていた。2人からすれば、はっきり顔を覚えているのは祖母にあたるシャノンのみ。
せいぜい、ぼんやりとナターシャの顔を思い出せていればいいところ、といった具合だ。
時の流れというか、世代や共に過ごした時間がいかに血縁よりも大事なのか。セシリアは子どもたちを見て感じるモノがあった。
何はともあれ、墓参りを終えた3人は帰路につく。墓地を出たところで、3人を呼び止める者がいた。
肩にかかるくらいで切り揃えた金髪、飾り気のない武骨なサーベル、動きやすいように胸当てと肩当てのみを身に着けた人物が栗毛の馬に跨っていたのだ。
「アマリア、久しぶり」
「セシリアも元気そうで何よりだよ。最近、あまり顔を合わせることがなかったけど――何年ぶりかな」
「もう2,3年は会っていないんじゃない?」
「そうだったかな」
ナターシャの死から20年。お互いに40歳を超えた。それでも変わらず、武人同士で親しく交流を続けている。
「セシリアたちがここを通ったって報告を受けて来てみれば、やっぱり会えた」
「さっきまでマリアナ様もいたんだけどね」
「ああ、それも報告を受けているよ。というか、その直前までボクと会っていたからね」
「その時にランドレス家の墓に参っていくという話を聞いたわけか」
セシリアの言葉に首肯するアマリア。その時に浮かべる笑みも、セシリアにとっては懐かしさを感じるものだった。
「そうだ、セリアも3人に会いたがっていたから、今晩はボクの屋敷に泊まっていくといい」
「それじゃあ、お言葉に甘えて一泊させてもらうわね」
その日の宿も決まり、セシリアたちランドレス家ご一行はルグラン領主の邸宅にて一夜を明かすこととなった。
第143話「ランドレス家の墓参り」はいかがでしたでしょうか?
今回はマリアナも時を同じくしてランドレス家の墓参りに訪れていました。
そのまま戻って王都コーテソミルにて結婚式、というスケジュールも明らかに。
さらに、墓参りを終えたところでアマリアと出会い、そのまま領主屋敷で一泊することになっていました。
次回も3日後、10/25(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!