第142話 パレイルでの再会
どうも、ヌマサンです!
今回はパレイルである人物が久しぶりに登場します!
はたして、誰が登場するのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第142話「パレイルでの再会」をお楽しみください!
セシリアが言い出したことで始まった旧都テルクスへの墓参り。家族水入らずの楽しい時を過ごしつつ、3日目の朝にしてラローズ領のパレイルへと到着していた。
「なんとか明日の夕方にはテルクスに入れそうだ」
「ここまで来ればあまり急ぐ必要もないわね。昼すぎまでパレイルでゆっくりしていこっか」
アスカルの提案を聞き入れ、一行はセシリアの案内の下、パレイルの観光をすることに。何度もパレイルへ訪れたことのあるセシリアが厳選した観光スポットを巡る中で、一人の女性と出会う。
「あれ?もしかしてセシリア様?」
聞き覚えのある女性の声に反応し、振り向くセシリア。すると、彼女の視界に束ねた水色の髪を後頭部でまとめたモデル体型の女性の姿が映った。
「もしかしなくても、クロエ?」
「そう!やっぱりセシリア様だ!」
真紅の瞳が水色の髪と、同色を基調とした服装と対比している女性。まさしく、ここラローズ領の領主を務めるアルベルト・ラローズの実の妹。クロエ・ラローズその人であった。
だが、この状況において、ミシェルもアスカルも置いてけぼりとなっていた。
「クロエ、こんな街中でどうしたの?」
「ここのお菓子屋さんでお菓子を作って売ってたんだぁ。そうしたら、セシリア様が店の前を通っていくのが見えたから」
「お店……」
「うん、ここワタシのお店だから。あれ、セシリア様に言ってなかったっけ……?」
理解するのに数秒を要したが、セシリアはふと思い出した。3年前、クロエがお菓子作りの趣味がこうじてお菓子屋を始めたということを。
「あっ、思い出した!確か、去年の年末にもらった手紙にも……」
「うん、書いたよ」
「ごめん、すっかり忘れてて――」
「だ、だよね。セシリア様、乳製品とか苦手だし、興味ないだろうなって思ってたから」
そう、セシリアは牛乳やチーズなどの乳製品が子どもの頃から大の苦手。40年生きてきて、未だに克服できていない苦手な食べ物なのだ。
だからといって、友人がお菓子屋さんを始めたことを忘れていいことにはならない。ゆえに、セシリアはクロエに謝り倒していたが、そこは店の前の大通り。その様子はどうしても人目についてしまう。
「と、とにかく店に入ろう。母さん」
見かねたミシェルが母の謝罪を止めに入り、一同は店内で続きを話すこととした。
「ご、ごめん。店の前で何回も謝ったりして……」
「い、いいよいいよ。気にしないで」
クロエには許してもらえたものの、セシリアは改めて申し訳ない気持ちに苛まれていた。
「まったく、見ているオレまで恥ずかしい想いをしたぞ」
「そ、それは本当にごめん……!」
目に涙をためながらセシリアはアスカルにも謝った。母親として、子にそんな思いをさせてしまったということにも、申し訳なさを感じているのだ。
ともあれ、しばらくしてクロエは焼き菓子をいくつか持ってきた。ミシェルは母親とは違って、甘い物は大の好物。目を嬉しそうにキラキラ輝かせながら、目の前に置かれるお菓子を見つめている。
「良かったら、試作品の味見だけでもしてもらえるかな?ちょっと新しいお菓子作りに行きづまってて」
ちょうど小腹も空いていたところ。ミシェルもアスカルも異論はなかった。だが、アスカルが一つお菓子を食べる間に三つも四つもお菓子をほお張るミシェル。その様は、どんぐりをほお張るリスのよう。
そんな姉を見やりながら、アスカルは頭の中で感想をまとめる。普段から甘い菓子を好んで食べるわけではないため、どう表現して良いモノか、アスカルも迷いがあった。
しかし、食べて感じたままにクロエへ伝える。すると、クロエはハッとしたように奥の厨房へと小走りに戻っていく。
「姉さん、オレは何か変なことを言ってしまったんだろうか」
「いや、それはないんじゃないか?アスカルの感想を聞いて、何か気づくことがあったのかもしれない」
「それだったら、良いんだが……」
またしばらくして、クロエはミシェルたちの前に姿を現した。それも、満面の笑みで。
「アスカル君、ありがとう!おかげで美味しいお菓子が作れそうだよ!」
「そ、それなら良かった……です」
「そうだ、ミシェルさんもアスカル君もパレイルに滞在するの?」
「いや、今日の昼過ぎにはテルクスに向けて出発しないといけないんです」
困惑するアスカルに代わり、ミシェルがクロエから聞かれた内容に答えた。それを聞き、クロエは少し考えるようなそぶりを見せ、また口を開く。
「それじゃあ、テルクスの帰りにまたお店に寄ってもらえる?その時に、お礼をさせてほしい」
「いや、お礼なんて――」
「分かりました。必ず寄ります!」
アスカルより先にミシェルが返事をしてしまった。お礼をかなり期待しているのだろう。声を聞くだけでも、そのことが十二分に伝わってくるほどに。
時刻はちょうどお昼時。長居してはクロエにも迷惑だと考え、一行は店を後にした。予定していた時刻より少々早いが、ひとまずテルクスに向けて出発することに決めたのだ。
「出発を早めた分、テルクスに早く着けそうだな」
「その分、テルクスでゆっくりしよっか」
アスカルもミシェルもテルクスでゆっくりするというセシリアの言葉に同意。パレイルには帰りに再び寄ることになるため、その時にまた立ち寄れるからだ。
「そういえば、アルベルトとシュテフィ、オリヴィエにも2人は会ったことがなかったかな?」
「確か、10年前にアルベルト殿やシュテフィ様には会ったことがあるはず」
「オレは会った記憶がないが、もしかして忘れているだけか?」
「いや、アスカルはおじいさまと出かけていた時だったと思うぞ。まぁ、どこに出かけていたかは私も覚えていないんだけどな」
ミシェルはラローズ領主・アルベルト、アルベルトの妻であるシュテフィには会ったことがある。対して、アスカルは面識がない。
そして、最初にセシリアが口にした『オリヴィエ』という名は、アルベルトとシュテフィの一人息子である。ロベルティ王国によるルノアース大陸統一の瞬間、まだシュテフィのお腹の中にいた。
そして、大陸統一の喜びと、ナターシャの死。二つの衝撃に包まれる中、生まれてきたのがオリヴィエ・ラローズなのである。
帰りにパレイルへ立ち寄った際には、領主一家と会うことができるだろうか。そんな期待を残しつつ、3名はテルクスを目指した。
途中、土砂崩れによって通行止めとなっている地点があり、やむなく迂回しなければならない場面もあったが、日が傾き始める頃にはラローズ領とルグラン領の境にまで進むことができ、その日は付近の村で宿を取ることに。
明日の昼前にはテルクスへ到達できそうで、3人そろってホッと胸をなでおろしていた。
「早めに出て正解だったかもしれないな。予定通り出発していたら、もう少し手前で宿を取らないといけなくなっていた」
「そうだね。迂回しなくてすんでいたら、とっくにルグラン領に入れていたんだけど」
先日、付近で大雨が降ったらしく、それに伴う土砂崩れなのだと地元の人たちから聞いたのだ。
それに、今日通った道もぬかるみが多かったのも、大雨の影響なのだろう。天候のことだから、誰が悪いわけではない。
「それじゃあ、今日はゆっくり休んで、明日にはテルクスに入って、お墓参りをしよう」
「うん」
「了解」
セシリアの言うとおり、長旅の疲れもあるため、ゆっくり休みたい。それはミシェルもアスカルも同じである。
ともあれ、いよいよ明日はランドレス家の墓参り。そう思うと、身が引き締まる若者二人なのであった。
第142話「パレイルでの再会」はいかがでしたでしょうか?
今回はアルベルトの妹・クロエが再登場!
彼女がお菓子屋を始めていたことに驚いた方も多いかもしれませんね……!
ともあれ、次回でようやくテルクスに到着します!
次回も3日後、10/22(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!