第141話 いざ、テルクスへ!
どうも、ヌマサンです!
今回はセシリアたち親子でのテルクスに向けた旅路の話になります。
親子3人で楽しく旅していく様子を一緒に楽しんでもらえれば幸いです。
それでは、第141話「いざ、テルクスへ!」をお楽しみください!
セシリアが帰宅した夕刻。アスカルとミシェルは大急ぎで旅支度を整えさせられ、ただちに北へ出発する運びとなった。
あまりにも強引な誘いであったが、詳しい行き先は移動中に話すとのこと。帰りにイチオシの温泉へと連れて行ってくれると聞くなり、ミシェルは大喜びで準備を開始したのだ。
「まったく、母さんも強引だし、姉さんも相変わらずチョロい」
ため息まじりに愚痴を吐くアスカルだが、何だかんだ言って準備はちゃんと終えていた。休みはゆっくり家で体を休めるつもりだったが、こうなってしまっては母は止められない。
そうして日が暮れる前に出発することができ、その日は隣町まで移動するにとどまった。だが、移動手段は馬車だとアスカルは予想していたのだが、それは大外れであった。
「母さん、馬でテルクスまで行くのかい……?」
「ええ、この方が早いもの」
馬車であれば乗り継ぎの都合もあり、マリアナの結婚式までに王都コーテソミルまで戻ってくることは不可能だ。だが、自分たちの馬に乗って移動するのであれば、日の出ている間は移動し続ければ、ギリギリ戻ってくることができる。
どうやらセシリアもその行程で往復したことがあるらしく、「大丈夫大丈夫」とアスカルとミシェルへしきりに口にしていた。
「母さん、どうしてテルクスまで行くのか、まだ聞いていないんだが」
「そうだったわね。実は、この機会にテルクスにあるランドレス家の墓に参っておこうと思ってね。こういう時じゃないと、3人で墓参りなんてできないなぁって温泉に入りながら思ったの」
思いつきでの提案という点が母らしいと子2人は思いつつも、目的がランドレス家の墓参りという点は意外の一言に尽きた。
だが、ランドレス家の墓には2人の父であるクライヴ・ランドレス、父方の祖父母にあたるドミニク・ランドレスとシャノン・ランドレス。
そして、2人にとっては叔母であり、アスカルにとっては養母でもあるナターシャ・ランドレスが墓に眠っているのだ。
子どもの頃は毎年墓参りに赴いていたものの、ミシェルもアスカルも学校へ通い出してからというもの、忙しさから足を運ぶことが亡くなっていた。そのため、セシリアが1人で赴くことはあっても、家族揃っての墓参りは久しく行っていないのである。
いつしか学校を卒業し、仕事を始めれば、仕事も絡んで予定を合わせることが難しいという問題が発生し、そのうちに、また機会があれば、と思って先送りにし続けていたのだ。
そうした事情から、セシリア1人だけで年に1回以上墓参りをするということが、ここ十数年続いている状況。
「最後にみんなでテルクスの墓へ参ったのはおばあ様が亡くなった時だから、もう17年前も前になるんだな」
「そうなるかな。あの頃は2人とも小さかったわよ。ミシェルは5歳、アスカルだって4歳だったんだから」
昔のことを思い出しているのか、セシリアは懐かしさに思いを巡らせている。だが、表情は我が子への慈愛に満ちた、母親としての顔をしている。
それを見ているミシェルとアスカルにとっては、むずがゆいモノを覚えさせる。だが、嫌な気分はしない。母親が我が子を思っている。それを子供からすれば何にも換えがたい、大切な想いだ。
「そうだ、2人とも。アマリアのことは覚えてる?」
「アマリア――あっ、ルグラン領主の……!?」
「そうよ。この前、手紙を貰ってね。機会があれば2人に会いたいって書かれてたから」
「それじゃあ、テルクスへ行った時に会いに行くのもいいんじゃないか?私も久しぶりに会いたいしな」
アスカルは記憶があやふやなのか、辛うじて名前を憶えている程度だった。だが、ミシェルの方は嬉しそうにまた会いたいと言っている。姉と弟で、反応がまったく違うが、セシリアとしてはミシェルが覚えていただけ良かったと思っていた。
「それじゃあ、テルクスに着いたら会いに行ってみようか」
「今から楽しみだ。そういえば、セリア姉さんにも久しく会ってないし、会いたいな」
「確か、セリアも今は時期ルグラン領主として頑張っているんじゃなかったかな」
アマリアの養女であるセリアも、今では31歳になり、立派に成長している。そんなセリアに、セシリア自身も長らく対面していないため、ミシェルからその名を聞き、会いたいという気持ちが芽生えてきた。
こうして今から向かうルグラン領での友人との再会に思いを馳せつつ、夜を更かす三人。しかし、明日のことを考えて早めに寝ることとし、再び朝を迎えた。
「さあ!今日からはひたすら馬を走らせて、テルクスを目指すよ!」
「おお!」
「おっ、おお……!」
乗り気なセシリアとミシェル。そんな彼女たちの勢いについていけないアスカル。旅への想いに差が感じられるが、アスカルも嫌々ついてきているわけではない。
先頭きって進んでいくセシリア。その後に、ミシェル、アスカルと続く。だが、アスカルも遅れまいと続いているのが、嫌々来ているわけではない、という証拠ではないか。
そうして親子3人、仲良く旅を満喫しながら北へ。ロベルティ王国が代々治めてきた北方の小国。その旧王都へ向けての長い長い旅路。
道中の何気ない人との出会いを、その土地にその時に訪れなければ見られない景色や行事を楽しむ。旅の醍醐味とも呼べるものを贅沢に味わいながらの旅である。
セシリアとミシェルの女性陣はもちろん、当初は乗り気ではなかったアスカルも次第に表情がほぐれていく。そうして一行はラローズ領の中心地、パレイルの少し南の町で宿を取った。
「サドール川、ルーナム川、ウルムクーナ川。この3つの川を越えたザチュア平野が今いるところだよ」
「この辺りまでが、旧クレメンツ教国だったわけか」
「おっ、よく知ってるね」
「まぁ、学校でこれくらいは習うからな」
アスカルの口からクレメンツ教国という懐かしい単語を聞いたセシリア。特に母国でもないのに、なぜだか嬉しい心地が彼女を満たしていた。
「そっか、学校の授業で習うんだ」
「まぁ、地名とか、特産物とかは地理の授業で習った。それで、具体的にどんな戦いがあったとか、その辺の話は歴史で習ったぞ」
ロベルティ王国がルノアース大陸を統一した後。マリアナが最も力を入れたのが、教育だった。その子どもたちへの教育の成果が、今のアスカルの話からも感じられて、セシリアにとって嬉しかったのかもしれない。
「今ではこのウルムクーナ川を越えたところから、3つの領地に分かれています。さて、何領というでしょうか?」
「東からフォーセット領、ラローズ領、プリスコット領だろ。バカにするなよな、母さん」
「ふふっ、正解正解。ちゃんと勉強してて偉いね」
素直に母親から褒められ、アスカルは俯き加減に視線をそらした。そうしたいじらしい我が子の様子を見て、もっとからかいたいと思う気持ちを抑え、セシリアは静かに見守ることとした。
それは、アスカルをこれ以上からかったらかわいそうだと思ったからではない。そのうち、母親の代わりに姉がいじり出すことを何となく察していたからだ。
「アスカル、顔を赤くしてどうしたんだ?普段、褒められることがないから恥ずかしいんだろ?お前は本当に可愛いな」
「うっとうしい!いつも俺が色々言ってる仕返しのつもりだろ……!ほんと、そんなだから男に逃げられるんだ」
「逃げられたことはない!近寄ってこないだけだ!」
こうして目の前で姉弟がじゃれ合う様を見るのが、母親として何よりの楽しみになっているセシリアなのであった。
第141話「いざ、テルクスへ!」はいかがでしたでしょうか?
今回はセシリア、ミシェル、アスカルの3人がテルクスへ向けて旅をしていく様子を描いた回でした!
旅の風景とかは描いていませんが、親子の仲睦まじい様子を見て、ニヤリとしてもらえれば何よりです……!
それでは、次回も3日後、10/19(木)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!