第140話 吹く風枝を鳴らさず
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよアスカルの予想が当たっているのか、答え合わせの時が……!
はたして、アスカルの予想が当たっているのか、楽しみながら読んでもらえればと思います……!
それでは、第140話「吹く風枝を鳴らさず」をお楽しみください!
最後の戦から早くも20年。戦により人々が傷つき、苦しむことはなくなった。だが、平和な世を築くことも大変な苦労を強いるものだが、それ以上に維持することの方が至難の業と言える。
そんな平和な世を維持していくためにも、王位の継承を争い一つ起こさず済ませ、盤石なものとしなければならない。
ある日。マリアナは国中に触れを出した。それは、女王マリアナの婚儀について。
ルノアース大陸の統一より、休む間もなく平和のために尽力してきたマリアナ・ロベルティがついに――
お触れを見た国民たちはそのようなことを思った。そして、誰もが気になり、驚いたのはマリアナと結婚する、お相手のことだ。
「何ッ、ノルベルト・プリスコットが女王様と……!?」
「どういうことだ?特に接点もないだろうに」
「いや、男女の仲というのは見えるものとは限らん」
「そ、それは確かにそうだが……」
昼すぎに発表がなされたロベルティ王国の女王であるマリアナと、プリスコット領主の息子であるノルベルト・プリスコットの婚姻。
素直に喜び、祝福の言葉をかける者もいれば、そうでないものもいる。いつの時代も有名人の結婚というのは、そういったものである。
王都コーテソミル中、マリアナとノルベルトの結婚発表に湧いていた。それはもちろん、アスカルの身の回りでも同じであった。
「おい、アスカル!聞いたか!?マリアナ様とノルベルト殿が……!」
夕刻。仕事を終えてランドレス邸へ帰宅したミシェルは嬉しさと驚きを噛みしめたような、興奮気味な様子で帰ってきた。そして、帰って来るなり、2階のアスカルの部屋の扉を開け、中へ突入してきたのである。
「何だよ、姉さん……それなら知っているよ。何を今さら――」
「寝るな!どうしてそんなに落ち着いているんだ!?」
まだ慣れない早朝からの勤務で疲労が蓄積しているアスカルは、昼過ぎからこうして何時間も睡眠を取っていた。そこへ、ミシェルの帰宅。
一度は大人しく叩き起こされたが、話の内容のしょうもなさに呆れ、また寝ようとしたのであった。
「まったく、マリアナ様とノルベルト殿の結婚なんて、この前のノーマン殿の話からも推測できてたし」
「待て。推測できていた?それはどういう――」
ノーマンの話から今日の発表を予想できていたという弟を問いただそうとするが、ミシェルは諦めざるを得なかった。なにせ、すでに寝息を立てて夢の世界へと誘われた後だったからだ。
「仕方ない。夕食の時にでも改めて聞いてみることにしよう」
そうしてミシェルも自室へ戻り、体を休めることとした。そして、姉弟そろってひと眠りした頃、夕食の時刻となった。1階の食堂にトラヴィスが真っ先に入り、それに続くようにミシェル、アスカルも到着。
木製のテーブルと椅子が並ぶ、いつもの空間に各々の席につく。毎食ごとに訪れる場所のため、3人とも迷うことなく、気品を漂わせながら着席。
そうして一家が揃ったタイミングで、使用人たちが料理を運んでくる。慣れた手つきで出来立てほやほやの料理が食卓へ並べられ、お腹を空かせる匂いで食堂が満たされた。
銀の燭台に火がともされ、部屋の至るところにオレンジ色の光が発される。全体的に薄暗い空間でありながら、燭台の炎が揺れるさまから風情も漂う。
「それじゃあ、いただくとしようか」
そう言って、トラヴィスが食事をとり始めると、ミシェルとアスカルも食事に手を付ける。目上の者から食するマナーの下で、上流階級らしい食事風景が広がる。
「そうだ、アスカル。一つ聞きたいことがあるのだが」
「ああ、今日のマリアナ様とノルベルト殿のことか」
「その通りだ。どうして、分かっていたんだ?それもノーマン殿の話を聞いて分かったとも口にしていたのも気になっていてな」
そう、アスカルの言葉を聞いてから、起きている間、ずっと気になっていたこと。それを聞く機会が、ようやく訪れたのだ。ミシェルとしては、質問しない選択肢などなかった。
アスカルとしては、事前にマリアナからそれらしいことを匂わされていたからこそ気づくことができた。そして、マリアナが発表するよりも早く口にして、当たっていてはマズいのではないかと思い、黙っていたのだ。
それについて、隠すような真似はせず、素直にミシェルに説明した。「分かっていたのなら、こそっと教えてくれればよかったのに……」と言わんばかりの表情をミシェルは浮かべていたが、トラヴィスは声を上げて笑い出してしまう。
「ジ……じい様。どうして笑うのか、聞いても……?」
「もちろんだ。だが、お前の行動が君主を慮ってのことだと知って、つい嬉しくてな」
もし、自分が口外しては国家の大事に関わる。そう思っていても、つい漏らしてしまう軽率な人間は多い。だが、アスカルは違った。その点が祖父として、同じくロベルティ王国に仕える者として何よりも嬉しいと感じていたのである。
「だが、ノーマンが言っていたフォルトゥナートをラッセルの元へ養嗣子へ出すことと、マリアナ様とノルベルト殿の縁組が繋がったものだ」
「確かにそうだな。私もそれについては驚いたぞ」
「まぁ、あの時の話のおかげでプリスコット家との関係性とか、色々と情報を整理できたから。それで、タイミングがタイミングだし、もしかすると……と思っただけだ」
偶然、たまたま。そう言った言葉でアスカルは片付けようとしていたが、そう偶然思い至るわけではない。トラヴィスもミシェルも話を聞いていてそんなことを感じていた。
しかし、ミシェルはアスカルの話を聞き、胸のつかえがとれたような心地がしていた。
トラヴィスはと言えば、アスカルがマリアナとノルベルトの婚姻を予想していたことはもちろんのこと、分かっていながら誰にも漏らさなかったことに最も驚かされたのである。
まさか、誰にも口外しなかったことを祖父から高く評価されていようとは、アスカルにとって思いがけないことであった。
ともあれ、マリアナとノルベルトの挙式については一国の主らしく、盛大に執り行うことも決まっており、目下、レティシアを筆頭に重臣一同が東奔西走して整えていた。
そして、マリアナとノルベルトの婚姻発表の翌日。降りみ降らずみの天候の中で、日取りが発表された。
日取りは10日後。場所は王都コーテソミルにある王宮。午前中に結婚式を盛大に執り行い、午後からは王都コーテソミルにおいてお披露目の意味合いでパレードを行うことも発表された。
そのさらに翌日、ハウズディナの丘付近の温泉を満喫したセシリアが帰宅。その母から、仕事帰りのアスカルとミシェルは思いも寄らぬ提案を受ける。
「そうだ、二人ともしばらく休暇よね」
「ああ、俺は明日から8日間。肝心のマリアナ様の結婚式の警備を受け持つことになったからな。その代わりに、多めに休みがもらえただけだが」
「私は10日間だ。昨日おとといの発表で、マリアナ様の結婚式当日と前後の一日は図書館が休館することになったんだ。それで、勤務時間に色々と変更が出て、先に休みがもらえたという感じだな」
「それじゃあ、2人とも。行けるうちに3人で行っておきたいところがあって」
――行くってどこに?
そんな二人の疑問は、次の瞬間に遥か北へと吹き飛んでしまうのであった。
セシリアから伝えられた行き先はロベルティ王国北部、ルグラン領のテルクスであった。かつての王都テルクスに、今すぐ出発!
今から出発という言葉に驚いたのも束の間、行動力の塊である母親に引っ張られて大急ぎで旅支度をさせられるのであった。
第140話「吹く風枝を鳴らさず」はいかがでしたでしょうか?
今回はマリアナとノルベルトの婚姻が発表されました。
アスカルが分かっていながら誰にも漏らさなかったことをトラヴィスから高く評価されてもいました。
そして、セシリアがアスカルとミシェルを連れて、テルクスへ行くのは何のためなのか、次回を楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは次回も3日後、10/16(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!