第138話 王位継承者
どうも、ヌマサンです!
今回は王位継承者絡みの話になるかもしれません。
マリアナの次に王位に就くのは誰になるのか、考えながら読んでもらえればと思います。
それでは、第138話「王位継承者」をお楽しみください!
「マリアナ様、口外しないと誓うことはできません」
「そう、素直ね。アスカルは」
アスカルは口外しないと誓うことはできなかった。それに、そのような機密情報を知ってしまえば、自分や家族の身も危なくなるのでは。そうした様々なことが一瞬で頭を駆け巡り、断ると答えるに至ったのだ。
「アスカルは素直だな。先ほどから見ていてつくづく実感するが、嘘はつかない。落ち着いた態度と言い、何ともナターシャ様やクライヴ様を思い出す」
「そうですか?」
「ああ。少なからず、私はそう思った」
ダレンの嘘偽りない思いに、言葉に、アスカルは感じ入るものがあった。とはいえ、後ろで号泣しているモレーノも、ダレンと同じことを思っているのだろう。そう、アスカルは思うことにした。
「まあ、まだ言えないけれど、近日中に発表することだから、それまで楽しみに待っているといいわ」
「分かりました。では、その発表を心待ちにしています」
その日はそこで切り上げ、アスカルは家路についた。近日中に発表されるという王位継承者絡みの話。一体、どのような内容なのか、アスカルは思考を巡らせる。
アスカルが気になっている王位継承者の話。つまるところ、マリアナの次の王位は誰が継ぐことになるのか、その一言に尽きる。
マリアナは20年間、平和な国づくりを掲げて東奔西走してきた。忙しくしていたこともあってか、夫もおらず、子もいない。マリアナに兄弟姉妹があれば、そちらに王位を譲ることもできようが、マリアナは一人娘。
親族と呼べるのもマリアナの母方の従兄にあたるリカルド・セミュラ。そのリカルドの妻は先代の商務大臣であるクレア・セミュラ。
「あっ、クレア・セミュラってモレーノさんの養女で、ダレン近衛兵長の義姉だったな。それでもって、今は男3人女1人の子だくさんだって前に母さんが言ってたな」
名前を思い出そうと試みるアスカルであったが、適当に聞き流していたため、名前までは覚えていなかった。
「まあ、帰ったら母さんに聞いてみるとするか。さすがに母さんなら覚えているだろうし」
そう思い立つと、家に向かう足を速める。セシリアが温泉に出発する前に、この疑問を、心のモヤを晴らしておきたかったのある。そうして家に帰ってくると、ちょうどセシリアが馬を引いて屋敷から出てきたところであった。
「母さん!」
「あら、アスカル。おかえりなさい。初日はどうだった?上手くやれそう?」
「上手くやれるかは分からないけど、ダレン近衛兵長やモレーノさん、マリアナ陛下と話すことはできたよ」
「そう、マリアナ様にも会えたのね……!」
アスカルの口から懐かしい名を聞き、セシリアは大層嬉しそうな表情を浮かべている。そして、アスカルは母も早く温泉に行きたいと思っているのは明白であるため、手早く用事を済ませようと思い至った。
「母さん、セミュラ領主夫妻の子どもの名前とかは知っていたり……」
「もちろんよ。リカルドとクレアの子どもは4人いて――って前にも話さなかったかしら?」
「ああ、聞いたよ。でも、4人の名前まで思い出せなくて」
「それで、急いで帰って来たのね。呼吸が乱れているから、何をそんなに急いで帰って来たのか分からなかったけど、今分かったわ」
セシリアは我が子の疑問に答えるべく、リカルドとクレアの間に生まれた子どもの名前を順番に言い始める。だが、名前だけを言っても覚えられないだろうと、今はどうしているのかなどの、近況まで付け加えたために話が長くなってしまった。
男女男男の順で生まれた4人の子どもの名は、長男・ウィンデル、長女・パトリシア、次男・ロレシオ、三男・メルヴィル。
長男のウィンデルは今年で17歳となる青年で、セミュラ領主の跡取りとして日々武術に勉学に励んでいる。現在はここ、王都コーテソミルの王立学園に通っているとのこと。
長女、パトリシアは今年で15歳となる少女。兄・ウィンデルと同じく王立学園に通っているが、その美しさから婚約の申し込みが殺到。このパトリシアという少女、持ち前の毒舌で婚約を断り続けているとのことだった。
次男であるロレシオは今年で13歳となる少年だが、こちらは昨年にダレンの養子となり、家名がセミュラからカスタルドへと変わったのだという。
続いて三男、メルヴィル。まだ11歳の子どもではあるが、ボードゲームの天才として名が通っており、年に一度開かれる王国一を争うボードゲームの大会でわずか8歳で優勝してしまった。
それだけでなく、そのまま大会を三連覇し、今年の秋に優勝すれば史上初の四連覇となるため、王都コーテソミルでも有名な少年なのだと紹介し終え、セシリアは一度口を閉じた。
「どう?覚えれそう?」
「覚えれそうだ。名前だけ言われていたら、今頃には長男のパトリンデルの名前を忘れていたところだ」
「ウィンデルとパトリシアの名前が混ざっているわよ。全然覚えれてないじゃない」
「あ、ああ。まあ、聞いているうちに疑問は解消できたし、満足だよ」
マリアナから近日発表されるという、王位継承者絡みの話。もしかすると、マリアナの母方の従兄にあたるリカルドの縁者に後を継がせるという考えなのでは。
アスカルはそんなことを思いついたが、長男・ウィンデルはセミュラ領の跡取りとして将来を嘱目されており、次男・ロレシオはダレン近衛兵長の元へ養子に出されている。
三男・メルヴィルはまだ幼く、ボードゲームの成績はともかく、一国の王として務まるとは思えない。なにより、三男が国王となっては、兄姉が納得しないのではないだろうか。
となれば、長女であるパトリシアが最有力候補か。となれば、二代続けての女王ともなる。
「それじゃあ、アスカル。留守は任せたわよ」
「……あ、ああ。呼び止めてごめん」
「ううん、これくらい大したことじゃないわ。それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。母さん、道中気をつけて」
セシリアはアスカルからの道中を案じる言葉が嬉しく、その嬉しさを、喜びをまぶたに浮かべながら温泉へ向けて出発。養成所の夏休みが終わるまで、羽根を伸ばしてきそうな勢いであった。
セシリアを姿が見えなくなるまで見送り、そろそろ屋敷へ入ろうか。そんな折に、馬蹄の音が接近してきた。
「どうっ……!そこにいるのはアスカルではござらぬか?」
「の、ノーマン殿……!?領地を離れても大丈夫なのですか……?」
アスカルの前に颯爽と現れたのは、バサバサした緑色の髪をポニーテール状にまとめた中年男性。トラヴィスの療養中、ハワード領主の職務を代行しているノーマン・ハワードその人であったのだ。
アスカルから見て、ノーマンは従叔父にあたる。
「ああ、エルマーやハロルドに後を任せてきたでござる。先ほど、マリアナ様に拝謁してきたのでござるよ」
「では、ここへ参ったのは――」
「叔父上の様子を見に来たまででござる。その反応からするに、セシリア殿から何も聞いておらぬようでござるな」
「今日、こちらに来ると手紙で伝えておられたのですか」
こくり、とうなずくノーマン。アスカルは己の母親の不注意を叫びたくなったが、近所迷惑だと思い、腹の奥にしまっておいた。
「立ち話も何ですから、中へ」
「かたじけない。用が済んだらすぐに帰るゆえ」
「分かっています。ささ、こちらへどうぞ」
アスカルは母への鬱憤は温泉から帰って来た時にでも晴らそうと思い直し、まずはノーマンを屋敷の中へ通すことにしたのであった。
第138話「王位継承者」はいかがでしたでしょうか?
今回はリカルドとクレアの間に子どもが4人も生まれていたという話が出てきていました。
今後の話で4人を出す機会もあるので、登場を心待ちにしていてください……!
そして、マリアナから近日発表されることについても、楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も3日後、10/10(火)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!