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第136話 見るは法楽

どうも、ヌマサンです!

今回はアスカルが王城へとたどり着きます。

近衛隊に入った初日をアスカルがどう乗り切るのか、楽しく見守ってもらえればと思います……!

それでは、第136話「見るは法楽」をお楽しみください!

「……何とか時間には間に合ったようだな」


 切れた息を整えつつ、アスカルは飾り気のない素朴な石造りの城門を見上げる。町の中心部にある小高い丘の上に作られた王城であるため、城門までひたすら坂道を上ることになる。


 そして、登り切った先に待つのは、大陸を統一した王国の王城としては煌びやかさの欠片もない城門。


 ――もっと黄金をふんだんに使って煌びやかにするくらいの方が、王城の門としての威厳も出るのではないか。


 アスカルは内心、そのような無礼なことを思いながら、跳ね橋を渡り、鉄製の見るからに頑丈そうな門をくぐ――ろうとしたところで、門番に止められ、X型に槍を交差させて通れないようにされてしまった。


「何者だ」


「オレ――私は今日から近衛兵となるアスカルと申す者です」


「身分証を見せろ」


 アスカルは門番に言われたとおり、身分証を出し、いくつかの質問に答えたりして、ようやく城門をくぐることを許された。


「開門!」


 門番の声が響くと、すぐに重い地響きのような音を響かせながら門が開いた。門が開いた先には、舗装された道が続いていた。しかし、幅は狭く、馬車一台が何とか通れるほどの広さ。


 人も左側通行、もしくは右側通行などと定めていなければ往来することすら困難を極めることはアスカルでも想像することができた。


「アスカルとか言ったな。他の近衛兵は皆集合しているぞ。急げよ」


「分かりました」


 門番の言うことが正しければ、自分が最後ということになる。遅刻はしていないが、一番最後に来たというだけで、色々と印象が悪くなりそうなものである。


 しかし、アスカルはあくまでも焦る様子は見せず、のんびりした様子で奥へと進んでいく。


 道は細いだけでなく、基本的に上り坂。さらには曲がりくねっており、非常に進みづらい。敵の侵入を防ぐという観点では申し分ない造りだが、平和となった世では不要ではないのか。


 アスカルは色々と王宮へと向かう中で考えてしまっていたが、そのうちに王宮へとたどり着いた。


 王宮の側まで来て、ようやく城の防衛とは無関係な庭園を見ることができる。そんな王宮の中へ、ようやくアスカルは足を踏み入れた。


 大広間の内部には今日より近衛兵として勤めることになる、アスカルにとっては同僚が大勢いたが、整列が完了した状態。つまるところ、アスカルが他の面々よりもかなり遅れてやって来たことは疑う余地もない。


「おっ、やっと来たか。アスカル・ランドレス、君はここだ」


 黒で統一された軍服に身を包み、銀色の髪を肩にかかるくらいで切りそろえた、さわやかな印象を受ける好青年……いや、好中年がアスカルを手招く。


 手招かれた方へ歩き、自分の調子を遵守しつつ列に並ぶ。入り口から見て、一番右の列の最後尾。1列につき20名ずつ、それが5行。アスカルを含め、新たに近衛兵となったのは100名ということを意味する。


 そして、アスカルが到着するのを待っていたかのように、アスカルが列の最後尾に加わるなり、式典が進行を開始。進行役として前に進み出たのは、アスカルを手招きし、列の最後尾につかせた好中年であった。


「私が本日の進行役を務める近衛兵長ダレン・カスタルドだ。まもなく女王陛下がお見えになる。それまで――」


「ダレン、もう来てるわ」


「陛下っ!?」


 小走りでダレンの側へ駆け寄り、肩を叩く女性こそ、ロベルティ王国の女王。マリアナ・ロベルティその人であった。妖艶さを感じさせる真紅のドレスを纏い、今日より近衛兵となった100名の若者たちの前に姿を現した女王マリアナ。


 大人の色気を醸し出す服装をしていながら、ドレスの裾は膝より少し下と短く、ダレンの肩を軽く叩く行動などに現れている子供らしさに王族としての気品を同居させる、奇妙な人物であった。


「マリアナ様、まだ登場には早いのでは……」


「構わないわ。元々式典の予定は押しているのです。こういった行事は早く終わらせた方がいいわ」


 主君であるマリアナにそこまで言われてはダレンとしても食い下がるわけにもいかない。大人しく、マリアナを中央に据え、式典を継続させるほかなかった。


「今日よりここにいる100名は近衛兵となりました。自身が近衛兵の一員となった誇りを胸に職務に誠実に取り組み、この王城と女王である私の護衛を頼みます」


 告げられた言葉は至極当然のことであった。アスカルは内心、つまらないと思いながらも、それを顔に出さず、最後まで聞き終えた。聞き終えたと言っても、ほんの一時の、短いあいさつであったのだが。


 しかし、アスカルは最後に思いも寄らぬ言葉をマリアナよりかけられることになる。


「初日から遅刻しかけたという、アスカル・ランドレス。職務の説明などが終わり次第、近衛兵長の執務室へ行くように」


 満面の笑みで告げられた呼び出しに、アスカルは驚いたが、それ以上に他の99名からはくすくすと笑い声がチラホラ聞こえてくることに不快感を覚えていた。


 ともあれ、予定通りの時刻に式典は終わり、マリアナも退出。ダレンによる職務の説明へと移行していく。


「近衛兵の職務は王宮を含む王城の警備、そして女王であるマリアナの身を護ることが任務となる。だが、入ったばかりの諸君らに女王の警備は荷が重い。よって、王城の警備から入ってもらうことになる」


 王城の外壁に立っている兵士、王城と王宮の間の庭園その他の部分の見回りなどを担当する。そして、真面目に職務に取り組み、実績を積み上げていけば王宮内部の警備を担当する部隊に配属。


 つまり、ダレンが伝えた内容をまとめれば、腕前を挙げ、実績と経験を積んできた近衛兵の精鋭中の精鋭が女王の警備を任せられる、ということ。そして、経験も実績もないアスカルたちは王城の警備に回されるということ。


 王城の警備は3交代制。午後10時から翌朝6時まで、午前6時から午後2時まで、午後2時から午後10時までの3つの勤務時間となる。


「どの勤務時間となるか、一人一人の意見を聞いていては今日中に決めることはできない。よって、くじ引きで決定することにする。左の列、前から順番にくじを引いていってくれ」


 午後10時から翌朝6時までの勤務時間は1番、午前6時から午後2時までの勤務時間は2番、午後2時から午後10時までの勤務時間は3番と番号が振られているという説明も直後に加えられた。


 こうしてアスカルのいる右の列とは正反対、左の列から順番にくじを引いていく。全員が順番を守り、一人一人規則正しく動いている。


 アスカルから見ても、近衛兵に入隊するほどの愛国心と生真面目さを持ち合わせていることが、このくじ引きだけでも分かるような心地がした。


 待ちに待った勤務時間を決めるくじ引き。一番最後にくじを引くことになったアスカルのくじには2番と記されていた。つまり、勤務時間は「午前6時から午後2時まで」となる。


「朝一の勤務か……。参ったな……」


 朝に弱いアスカルにとって、一番引きたくない番号を引き当ててしまった。だが、決まってしまったものはどうしようもない。苦手だろうと、明日からは朝6時には王城の警備にあたらなければならないのだ。


 そんな最悪のくじ運を発揮した自己を呪った後、職務の説明も無事に終わった。何もなければ家にそのまま帰ることができたのだが、アスカルは近衛兵長ダレン・カスタルドの執務室へ行かなければならない。


 一体、何を言われるのか。考えるだけで重くなる足を動かし、近衛兵長の執務室へと向かうアスカルなのであった。

第136話「見るは法楽」はいかがでしたでしょうか?

今回はアスカルが近衛隊に入り、シフトが決まるまでの話でした!

その中で、ダレンとマリアナの久々の登場が印象に残った方も多いかもしれませんね……!

ともあれ、ダレンの元へ呼び出されたアスカルの運命やいかに……!?

次回も3日後、10/4(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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