第134話 命は天に在り
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよジョシュアを倒し、ロベルティ王国軍がヴァルダロス王国の王都グライフへ。
このままロベルティ王国が大陸制覇を成し遂げるのか、引き続き見守っていただけますと幸いです。
それでは、第134話「命は天に在り」をお楽しみください!
「そうですか。ヴィクター将軍が」
「はい。ヴィクター殿も負傷したようですが、ジョシュア・ヴァルダロスは討ち果たしたとのこと」
「それじゃあ、ヴァルダロス王国の王都グライフへ入るとしましょうか」
マリアナは傷の具合を心配していることや、無理せず養生するようにといった内容をヴィクターに宛てて書状をしたため、使いの者に届けさせた。
そして、マリアナ自身は大陸制覇を成し遂げた、誇り高きロベルティ王国軍を指揮し、道中の残党を掃討しながら南下。10日もしないうちに、王都グライフへ到着することができたのだった。
「残るは東のクウォーク王国軍を防ぎに向かったという魔導銃兵の部隊2千のみですが、まだまだ油断はできません」
「……あの皇帝ルドルフや、スティーブ・エリオットを戦死に追いやった部隊なのだから、油断はできないわね」
もちろん、王都グライフでも抵抗する勢力が依然として立て籠もっていたが、百戦錬磨の強者ぞろいのロベルティ王国軍にとって、ヴァルダロス王国軍の残党など蟷螂の斧に等しかった。瞬く間に制圧され、本日。
女王マリアナが堂々と王都グライフへ入り、旧ヴァルダロス王国の王宮を目指すべくパレードを行う運びとなったのだ。その様子たるや、まさしくルノアース大陸を制したのも頷ける、大迫力。
ひたすらに兵士たちの足音と鎧兜が擦れる音が王都グライフの空気を震わすのみで、話し声はおろか、咳払い一つしない、実に規律の守られた軍隊の行進であった。
――そんな中、一発の銃声が空気を一変させる。
「ナターシャ!?しっかり……!?」
「マリアナ様、まだ伏せていてください……!まだ、敵が狙っています。殺気が途切れていませんから……!」
撃たれたのはナターシャ・ランドレス。だが、弾丸は一直線にマリアナの頭部へ向かっていた。そのことに気づいたナターシャが左隣にいたマリアナの頭部を抱きかかえるように押し倒したのだ。
そのため、弾丸はナターシャの背中をえぐり取りながら、反対側へと抜けていった。しかし、その抜けていった先にいた一般市民が頭部を吹き飛ばされ、死亡するという事態に陥っていた。
下手人はヴァルダロス王国軍所属の魔導銃兵の青年。足を負傷していたために、東へ派遣されることなく王都グライフに留まっていた人物だった。
逃げようとしたが、足を怪我しているために逃げきれず、ロベルティ王国兵に取り押さえられ、拷問にかけられた結果、何を思い、銃撃するに至ったのか、詳細が明らかになるのに時間はかからなかった。
だが、マリアナを庇い、銃弾を受けたナターシャの容体は重かった。背中の肉をえぐられ、その傷口から菌が入り、病を併発。傷口をすぐに縫った甲斐もあり、出血を抑えることはできているが、寝たきりとなっている。
自分を庇って負傷したことをマリアナは気にしており、政務の合間を縫って見舞いに訪れた。
「ナターシャ……」
「ま、マリアナ……様」
「ごめんなさいね。私を庇ったせいで、こんな――」
やせ細り、冷たくなった手。死人のように青白い表情をしたナターシャを見て、マリアナは涙が止まらなかった。
「ナターシャ、先ほどアマリアから使いが来ました。無事に、クウォーク王国軍と交戦していた魔導銃兵の部隊を殲滅したそうよ」
「殲滅……ですか。アマリアときたら、またやりすぎたようですね」
「ええ、ナターシャの分も後で叱っておくわ」
「……お願いします」
話すのもやっとといった様子のナターシャ。レティシアも見舞うために部屋の外にまで来ているが、悲しみのあまり涙が止まらず、なかなか入れずにいた。
「マリアナ様……最後のお願いです」
「最後だなんて言わず、何でも言って頂戴」
「そういうわけには……いきません。最後と言ったら……最後です」
ナターシャは頑固だった。とはいえ、マリアナもナターシャならそう答えると分かっているからこそ、それ以上は何も言わなかった。いや、言えなかった。
「臣民が戦禍を被ることなく、誰もが笑って幸せに暮らせる……そんな国づくりを」
「民のことは女王として当然のことよ。でも、ナターシャの家族のことは良いの?」
「……はい。私の家族も、臣民の一人にすぎません。民も、家族も、皆等しく臣民なのです」
ナターシャは最後の願いをマリアナに訴えた。だが、マリアナが返事をする頃には、息が絶えていた。
『漆黒の戦姫』の訃報は国中、大陸中に瞬く間に広まった。ある者は悲しみに泣き崩れ、ある者は悲嘆に暮れる。
戦の世が終わる幕引きとでも言わんばかりに、戦場を駆け回った漆黒の女騎士は散った。今は亡き主君、カルメロ・ロベルティの意思を継ぎ、亡くなるその日まで戦い続けた彼女の死を惜しむ者は多かった。
ナターシャの遺体は旧王都グライフから長い長い時をかけて王都コーテソミルへ。王都コーテソミルにて盛大な国葬が営まれ、雲一つない、晴天にもかかわらず、臣民の涙で王都の大地は濡れた。
その後、王都コーテソミルから故郷・テルクスへと戻ったナターシャの墓は、カルメロ・ロベルティの隣に建てられた。その墓石にはこのような文字が刻まれている。
『ロベルティ王国の忠臣、平和を胸に眠る』と。
ナターシャの死を一番悲しんだのは、他でもない生母・シャノンであった。夫、弟に先立たれ、さらには娘まで失った。その悲しみから容易に立ち直れるはずもなく、気を遣ったマリアナは暇を出し、故郷へと戻るように申し渡している。
悲しんでいるのはシャノンに限った話ではない。モレーノ、クレア、ダレンといったランドレス家に仕えていた者たち。彼女を姉のように慕っていたアマリア、戦友として接してきたトラヴィス、ノーマン、リカルド。
そして、戦友であり、夫の姉として付き合ってきたセシリア。ナターシャの推挙でロベルティ王国に仕えるようになったユリアも受けた衝撃は計り知れない。
アルベルト、シュテフィ、クロエ。クリスティーヌ、アメリア、ルービン。ラッセル、マリナといったかつて刃を交え、その後は共に戦い続けてきた者たちにも、大きな衝撃と、悲しみを与えた。
また、フロイド、レティシア、ヴェルナー、サイモン、クラウス、アーロン、フェルナンド、マルグリット、ヨーゼフ、レイラといった旧ヴォードクラヌ王国や旧クレメンツ教国に仕えていた者たちも、彼女との出会い、過ごした日々に感謝していた。
父や弟、敬愛する主君に多くの部下を失いながらも、平和のために戦い続けた彼女の遺志は、脈々と受け継がれていく。
戦争に溢れていた大陸を、今度は人々の幸福と笑い声で満たすために、自分たちにできることは何か。
誰もが、自分の頭で考え、それぞれの目指す平和を思い描く。戦争で何を失ってきたか、後世の人々が同じように大切なモノを失わずに済むためには、どうすればいいのか。
ルノアース大陸に生きる者たち一人一人が考え、決断し、動き始める。かつての仇とも手を取り合い、人間同士の憎しみの連鎖を断ち切り、前へと進んでいく。そんな様子を見れば、誰よりもナターシャは喜んだのではないだろうか。
――この大陸に生きる者たちはまた、歩き始める。カルメロが、クライヴが、ナターシャが。志半ばで倒れるも、臨み続けた太平の世が永遠に続くことを願って。
第134話「命は天に在り」はいかがでしたでしょうか?
まさかのナターシャの死。
ロベルティ王国がルノアース大陸の統一を成し遂げたわけですが、ここまでに失ってきた者を思い返すと、何か感じるモノがあるのではないでしょうか。
次回からは新章開幕となります……!
次回も3日後、9/28(木)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!