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第133話 物盛んなれば則ち衰う

どうも、ヌマサンです!

今回はついにジョシュアが手勢を率いて夜襲を仕掛けるところから始まります!

はたして、夜襲は成功するのか、見守っていてもらえればと思います……!

それでは、第133話「物盛んなれば則ち衰う」をお楽しみください!

「ジョシュア様、敵陣は静寂そのもの。油断してぐっすり眠っているのではないかと」


「そうだろうな。この時刻ゆえ、睡魔に破れるのは仕方ない。だが、見回りの兵士も見当たらないところから察するに、相当我らは見くびられているらしい」


 夜天光の下、静寂と油断に支配されている敵陣。見張りの兵もろくにおらず、転寝でもしているのか、こくりこくりと頭を揺らしている。


 かがり火が消えている個所もあるが、誰かが灯しに来る気配もない。最初に灯した時のまま、放置されているといったところか。


「よし、行くぞ。夜襲で一気に片をつける!魔導銃隊構え!はなてっ!」


 けたたましい音が鳴り響き、次々に見張りの兵士らは吹き飛ばされ、櫓から落下するモノ、門の入り口から右へ左へ吹き飛ばされるモノが相次いだ。


「突撃するぞ!かかれぇ!」


 ジョシュア自らが二振りの剣を引き抜き、陣に突入するべく駆けだす。ヴァルダロス王国の将兵も国王に後れを取るわけにはいかず、我先に本陣へ突入。


 だが、奥へ奥へと進んでいくにも関わらず、人っ子一人見当たらなかった。陣幕を切り裂き、最奥へと到達してなお、玉座や椅子は放置され、旗もただ夜風になびいているのみ。


「さては、捨て陣か!我々が怒りに任せて夜襲してくることを想定して……!」


「うぐっ」


「ぎゃあっ!」


 時すでに遅し。陣営の外からは夜闇に紛れて、矢が放たれ、近くにいた兵士たちが何人も射殺されていた。


「マズい、急いで引き揚げる!南へ、南へ退くのだ!」


 このような暗闇では姿が見えない。魔導銃を闇雲に乱射させるわけにもいかないヴァルダロス王国軍。対するロベルティ王国軍は敵の位置は陣営の中と決まっているうえ、残してきたかがり火だけでなく、松明を持っている兵士も大勢いるのだ。


 火の揺れ具合や、逃げ惑う足音、人の話し声などから場所を割り出し、次々に矢を放つロベルティ王国軍。見事に嵌められたジョシュアたちヴァルダロス王国軍に交戦する気力は消え失せていた。


 兵士たちはいかに自分たちが助かるかしか頭になく、規律もなく逃げ惑う。統制のきかない兵士が何千何万いても意味はなかった。ジョシュアも戦場を離脱するべく、突破口を探る。


「うおっと、これは……敵兵ではない、藁人形だったのか……!」


 突入の際、魔導銃で撃ち殺したと思っていたのは、敵兵ではなく、ロベルティ王国軍の鎧兜を括り付けた藁人形であった。


 怒りに任せ、状況を冷静に観察することを忘れていたことが致命傷となったことを今更ながらジョシュアも悟る。しかし、もうどうしようもなかった。


「止まれ」


「誰だ!」


「俺はヴィクター・エリオット。散っていった者たちの仇を討つため、参上した」


「敵討ちのためにのこのこ出てくるとはいい度胸をしている。よほど死にたいらしい」


 一刻も早く王都グライフへ逃げ延びたい。そんな時に、よりにもよって帝国最強と謳われる茶髪の大男が愛用の大剣・魔剣エールデを担いで現れた。


 運命がジョシュアを殺しに来ていると言っても過言ではない状況に、強がっては見るものの、内心ジョシュアも恐怖に呑まれそうになっていた。


「俺は強者には敵味方問わず尊敬する。お前が尊敬に値する武人であれば、見逃してやる」


「見逃してやる……だと?偉そうに……!」


 国王である自身のプライドを踏みにじられるような心地。反射的と言っても過言ではないほど速く、ヴィクターへと斬りかかっていた。


 両手にある剣を閃かせながら、得意の剣舞でも舞うかのような鮮やかな連撃。ヴィクターほどの大男に、素早い動きはできまい。ジョシュアはそう高を括っていた。しかし、帝国最強は甘くはない。


「な、なに……っ!?」


「見事な太刀筋だ。だが、漆黒の戦姫やルドルフ陛下と比べれば――弱いな。取るに足らん」


 大剣を片手で振るっているにもかかわらず、手数では有利なはずの二刀流に並んでいる。やすやすと防いでいるだけなら、まだ良かった。防御するだけでなく、攻撃まで。攻防一体の動きに一切の隙もない。


 まさしく巌の如し、ジョシュアは息切れするほどの猛攻を仕掛けているのに、ヴィクターは汗ひとつ搔いていないのだ。斬撃が早くなる。ジョシュア自身、ここまで早く剣を振るうことができたのかと思うほどに。


 死に際して、剣の才能に目覚めたからではない。目の前の男に対しての恐怖から逃れたい一心で、生き延びたいという生物としての本能がそうさせているのだ。


「ルドルフ陛下を討ったとて、所詮は飛び道具。小賢しい虫けらの足掻きにすぎん。それを己の力を過信し、図に乗った。見ていて腹が立つ」


 そう言い終えたと同時に、ジョシュアは見た。自身の剣を握った二本の手が頭上高く、舞い上がっていくのを。


「ぐっ、があぁぁぁっ!?」


「腕がなければどうしようもあるまい。降伏するというのなら、せめてもの情けだ。命までは取らん」


「く、降……る」


「そうか、降るか」


「……わけないだろう!降るくらいなら死んだ方がマシだ!」


 降伏すると思い、ヴィクターも油断した……わけではない。だが、ジョシュアの行動が予想外過ぎたのだ。


 ジョシュアが降らないと言った刹那、ヴィクターは有無を言わずに大剣で首を斬り飛ばした。しかし、直後にジョシュアの腰にぶら下がっていた袋が怪しい輝きを放ったのだ。


「これは、弾丸か……!?数は1,2,3――6つか」


 魔導銃の弾丸の予備。それを手首より先がない状態で、爆弾に改造していたのだ。ジョシュアが死した後、ヴィクターは械魔紋の恐ろしさを思い知らされる形となった。


 ヴィクターが袋の中で輝く弾丸を確認した後、袋を放り投げようかと思ったが、下手に投げればその場で爆発する恐れもある。そのうえ、投げた先に味方が通りかかれば、その味方を死傷させることになる。


 仲間を大事に思うヴィクターにはそんな真似は出来なかった。だが、この場に留まれば、自分が死ぬ。ヴィクターは普段はあまり使わない頭を使って、知恵を絞る。


 そして、妙案が思いついた刹那――6つの弾丸は大爆発を引き起こした。


「何事だっ!?」


「何があったんだ!?」


 夜も明けだした頃に起こった大爆発。爆風が土砂をまき散らし、爆炎が空へ上る。そんな光景に、事情を知らない兵士たちは恐る恐る様子を見に来た。


「ヴィクター様ッ!?」


「アナベルか。それに、ミハイルも。血相を変えてどうかしたか?」


「いえ、ヴィクター様が片膝をついて血を流しておられたので、気が動転して……」


 ヴィクターの額や胸部、露出した両の腕からは血が滴り、左大腿部には弾丸の破片が突き刺さっていた。


「心配をかけたな。ジョシュア・ヴァルダロスを仕留めたのだが、自爆されてしまっただけだ」


「じ、自爆……!?」


「何とか重魔紋で爆発の威力を抑えこんだが、無傷とまではいかず、このザマだ」


「いやいや、このザマだとかって私達なら死んでましたよ」


 ただただ驚くアナベルと、冷静にツッコミを入れるミハイル。しかし、ミハイルの言うように、この場にいたのがヴィクターだからこそ、この程度の損害で済んだのは紛れもない事実。


 この場にいたのがアナベルやミハイル、ダリアのような帝国軍が誇る紋章使いであったとしても負傷するだけでは済まない。そのうえ、ライナスのような紋章を持たない者であれば、遺体すらまともに残っていたかどうか。


 それだけの威力であったことを、他ならぬ帝国最強と自他ともに認めるヴィクター・エリオットが負傷したという事実が示している。


 ともあれ、ジョシュア・ヴァルダロスはヴィクターと戦って死亡し、ヴァルダロス王国軍は壊滅した。その事実は、間もなくしてマリアナやナターシャたちの元へ届くのであった。

第133話「物盛んなれば則ち衰う」はいかがでしたでしょうか?

今回はジョシュアの夜襲は失敗に終わり、さらにはヴィクターと戦って敗死するという事態に。

さらには、ヴィクターも勝ったものの、無傷というわけにはいかない状況でした。

はたして、ここからどう話が進展していくのか、引き続き見守ってもらえると嬉しいです!

次回も3日後、9/25(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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