第132話 夜郎自大
どうも、ヌマサンです!
今回はヴァルダロス王国側の視点で話が進みます!
いつもとは違う視点で、物語を楽しんでいただければ幸いです……!
それでは、第132話「夜郎自大」をお楽しみください!
「ほう、ロベルティ王国軍が来たか」
「はっ、東からはクウォーク王国の軍勢、およそ1万。そして、北からはヴィクター・エリオットの手勢1万を合わせ、19万5千にまで膨らんだロベルティ王国軍が迫りつつあります」
「よし、クウォーク王国の軍勢には魔導銃兵2千で殲滅させろ。残る全軍でロベルティ王国軍を打ち破るぞ」
ここはヴァルダロス王国の王都グライフ。国王ジョシュアは四方へ指示を出し終えると、自ら国境付近へと出陣。
すでに、3万8千の軍勢が北でヴィクター・エリオット率いる帝国軍1万と対峙している。だが、ロベルティ王国軍18万5千が加勢した以上、今の兵数では勝ち目は薄い。
ゆえに、国王であるジョシュア・ヴァルダロス自らが出陣し、兵たちを鼓舞せざるを得なくなった。だが、実践に投入できる兵士は送り出しているため、自身と側近、護衛の兵数十で向かうほかない。
「こちらには魔導銃だけでなく、魔導砲もあるのだ。20万近い敵であっても、魔導砲の前では塵芥も同然。手早く済ませて、王都へ戻るとしよう」
オールバックにした白髪が特徴の若き国王、ジョシュア。白を基調とした高潔な印象を受ける装束に身を包み、見るからに一国の王であることが分かる風格を醸し出していた。
何より、白で統一された衣服の上から着用する鎧兜、剣に至るまで白銀色で統一されている。そんな彼の趣味は剣舞と兵器開発。休日には剣舞を舞うことも多いが、大抵は臣下も招いて、大人数で行う。
大人数と言っても、皆で同時に舞うのではない。一人一人順番に舞い、各々の腕前を披露する。そんな集まりを行っているためか、国内でも剣舞が競技として盛んにおこなわれている。
また、趣味の兵器開発は子どもの頃から機械いじりが好きだったことに起因している。そして、械魔紋が備わってなお、兵器開発を続け、その過程で生まれたのが、魔導銃であり、魔導砲なのである。
20年前までのヴァルダロス王国は領土こそ、今と変わらないが、別に戦に強いわけではなく、帝国軍やクウォーク王国の侵攻に頭を悩ませていた。
こうした度重なる隣国からの攻撃に耐えかね、先代の国王は亡くなってしまった。その跡を継いだのが他でもないジョシュアだった。
この時、機械いじりを好む弱冠15歳のジョシュアが国王となったことに、不安を感じた重臣たちは先代の弟、つまりはジョシュアの叔父を後見人と定め、政務を取り仕切らせた。
だが、どうしても自分で国を動かしたいと思ったジョシュアは、試作段階であった魔導銃で叔父を射殺。反対する重臣たちも出たが、数百人規模の魔導銃を装備した部隊を編成し、粛清してしまう。
そこからは、破竹の勢いで国内を統一。自身に歯向かう勢力を一つ一つ潰していきながら、自身の名声を挙げていく。迅速に国内の統一を進める中で、ヴァルダロス王国やフレーベル帝国の息のかかった人間も排除。
ある意味、国政における膿を出していくこととなったわけだが、何よりもクウォーク王国やフレーベル帝国の息のかかった人間を排除できたことはジョシュアにとって大きかった。
水面下でヴァルダロス王国を内部から切り崩すという両国の思惑を打ち砕き、新兵器である魔導銃、魔導砲を量産化。
量産化といっても、必要な素材が希少であるため、10年も作り続けているうちに資源が枯渇してしまい、今は新規で生産することはできていない状況だ。
だが、10年の間に量産した魔導兵器だけでも、クウォーク王国とフレーベル帝国を退けることに成功し、一時はクウォーク王国から停戦の申し出があったほどだった。
そして、特筆すべきは魔導兵器を用い、フレーベル帝国の初代皇帝であるルドルフ・フレーベルを葬り去ったこと。
これにより、帝国の脅威が遠のいていくと、クウォーク王国との間に緊張が走った。ヴィクター・エリオット率いる帝国軍に苦戦している現状を受けて、今のうちに東の憂いを断とう。
ジョシュアがそのようなことを目論んでいた時に帝都フランユレールをロベルティ王国が占領し、帝国を降伏させ、クウォーク王国をも屈服させたという一報であった。
これにより、ヴァルダロス王国の国王として対応に追われている、というのが今のジョシュアが置かれている状況。ひいては、ヴァルダロス王国の今なのだ。
「だが、クウォーク王国の軍を退け、魔導銃兵2千を北へ呼び戻し、一気にロベルティ王国軍を叩く。あわよくば、女王マリアナを討ち取ることが叶えば、当面の脅威は消え去る」
その間に、先延ばしとなっているクウォーク王国への侵攻を行い、その後に改めて北へと領土を拡大させていく。
机上の空論にすぎないが、実現すればヴァルダロス王国がルノアース大陸を統一するのも夢物語ではなくなる。そのためにも、焦眉の急は迫りつつあるロベルティ王国軍を撃退すること。
「撃退すると言っても、相手は百戦錬磨の強者ぞろい。一筋縄ではいかぬことは目に見えているが、やるしかない」
新たな決意と共に、ヴァルダロス王国の国王・ジョシュアは決戦地、イルドフ平野へと到着した。
今ここに、ロベルティ王国軍19万5千と3万8千のヴァルダロス王国軍が対峙する状況が完成した。両軍が武器を構え、にらみ合う様はまさしく竜と虎がにらみ合うかのよう。
「この決戦、我らが先に動いてはたちまち数で殲滅させられて終わる。かといって、睨む合うだけでは無駄に戦が長引く。この戦、長引けば長引くほど不利になるのは分かり切っている。何か手はないものか……?」
ジョシュアが思案し始めた折、ロベルティ王国軍から投降を呼びかける使者がやって来た。
「よし、ここは油断させるとしよう」
使者に面会したジョシュア。降伏の条件を一通り聞いてみて、怒りに手が震えた。明らかに小国の王と見下しており、条件もありえないほどに厳しいものであった。
一、国王ジョシュアは女王マリアナの御前で詫び、自害すべきこと
一、所持している魔導兵器すべてを引き渡し、全軍の武装も合わせて解除すること
一、ヴァルダロス王家に列なる者は老若男女問わず、自害すべきこと
一、ヴァルダロス王国の貴族は一人残らず、奴隷に落とし、王都コーテソミルへ連行すること
「この条件は理不尽すぎる……!」
「ですが、降伏の条件は書状の通り。変更はあり得ぬと、女王マリアナ様も申しておりました。そして……」
「そして?」
「3日以内に返答がなければ総攻撃を行うと、かように申しておりました」
猶予は3日。ジョシュアは「検討する」とだけ使者に伝え、帰らせた。だが、心の内では検討する余地はなかった。このまま降伏しては、ヴァルダロス王国は終わる。
「皆の者。今宵、動くぞ。支度せよ」
そう短く言い放つと、自身も鎧兜を脱ぐことなく、夜が更けるのを待った。そう、自身らを小国だと見くびり、そのうえ、厳しい条件を受け入れて全面降伏することを受け入れる可能性がある。
そんな敵の心理を考慮すれば、ヴァルダロス王国側は返答の期限である3日の間は絶対に動くことはないと高を括っているはずなのだ。
ならば、兵数も劣っているヴァルダロス王国側が取れる選択肢は一つ。ロベルティ王国側の油断している隙をつき、夜襲を仕掛ける。
その夜襲の中で、女王マリアナか、軍の重鎮を討ち取ることができれば、恐れをなして撤退する。少なくとも、条件を緩和させたうえで和睦しようと試みるはずだ。
それを蹴った上で戦闘を継続し、完膚なきまで叩きのめし、鬱憤を晴らしてやる。ジョシュアはそう、決意したのだった。
――それこそが敵の思惑なのだとも知らずに。
第132話「夜郎自大」はいかがでしたでしょうか?
今回はいよいよヴァルダロス王国とロベルティ王国が激突する――というところで、終わっていました。
はたして、ルノアース大陸を統一するための最後の大戦がどうなるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは次回も3日後、9/22(金)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!