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第129話 櫓も櫂も立たぬ

どうも、ヌマサンです!

今回でダルトワ領内での合戦も決着します!

一体、どのように決着するのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第129話「櫓も櫂も立たぬ」をお楽しみください!

 思いがけない女王マリアナの参戦。帝国軍も女帝ソフィアが指揮を執っていれば、味方の士気も瞬時に回復させられただろうが、現実とはそう上手くいくものではなかった。


 敵国の女王が戦場に現れ、猛反撃を開始する王国兵に、帝国兵は一人、また一人と逃げ始める。


 いかに、敵の女王の首を取る好機だと将軍たちが喚こうと、兵士たちには魅力的に映らない。我先に逃げ出す者を見て、我も我もと続くのは人間の性である。


 マリアナの号令の下、南の帝国軍へぶつかっていく1万3千の王国軍であったが、満足な戦いにもならず、帝国兵は逃げ出していく。言葉を選ばずに言えば、総崩れを起こしていた。


 そんな逃げ回る帝国兵を撫で切りにしていく中で、トリテルテアの市街地から黒煙が立ち昇る。そう、トラヴィスの当初の目論見が実行されたのだ。


 エルマー他数名が行商人のフリをして戦の前に町へ潜り込み、カルロッタ率いる帝国軍が出撃し、合戦が始まった時に行動を起こす。それは、都市の北、林の中で息を潜めていたノーマン隊6千を招き入れたのだ。


 すなわち、潜伏していたエルマー達が北門を開け、それを合図にノーマン隊が突入。そこからは都市の内部でわずかな守備兵たちと交戦が始まる。


「それ!一気にトリテルテアを制圧してしまうでござるよ!」


 士気の高いノーマン隊は帝国側の守備隊を一蹴。そこへ、潜伏していたエルマーたちも合流し、力を合わせてトリテルテアの占領を進めていく。


 この戦いの中で上がった黒煙は、トリテルテアの外で戦う帝国兵の心を打ち砕いた。心を打ち砕かれた人は、その人が集まる軍隊は脆い。脆過ぎた。


 このままでは退路が断たれる。カルロッタ、ミルカ、ジュリアは続く敗戦に心を痛めながら、トリテルテアを放棄した。


 今からでは間に合わないと判断してのことだったが、この決断が意味することは帝国がダルトワ領を完全に失ったということ。そして、失ったのは領地だけでなく、民衆からの信望も同時に失ってしまったのだ。


「お姉さま!」


「ミルカ、戦はもうダメです。かくなるうえはここで――」


「ダメです!ここで死んでも帝国のためになりません!帝都フランユレールへ落ち延びましょう。せめて、死ぬならソフィア様の御前で」


 妹からの哀願に、姉は折れた。ただちに兵をまとめて西へ退却していく。だが、その様は退却というよりも、敗走という方が正しかった。それは、カルロッタにとって、それほどまでに惨めな負けを味わうことと同義。


 だが、幸運と言うべきか、敗走する帝国軍をロベルティ王国軍が追撃することはなかった。それにより、主だった将軍たちが討ち取られることもなく、生きて帝都まで戻ることができたのだ。


「ソフィア様、申し訳ございません。この度の失態、どう償えば良いのか……」


「気にすることはないわ。ワタクシが迎撃したとしても、結果は同じでした。ですが、カルロッタと共に帝都まで戻ってきた1万1千が加わったおかげで、帝都フランユレールを守ることができるかもしれないわ」


 そう、帝都を守る兵力が不足していることをソフィアもガレスも悩んでいたのだ。そこへ、敗軍とはいえ、カルロッタが1万を超える兵士と共に帝都フランユレールへ入った。


 依然として3万には届かないものの、1万以上の数が増えたことは僥倖ともいえる。


「だが、敵に女王と合流することを許してしまったのは事実だ。見ろ、敵兵の士気はうなぎ登りだ。このままだと、明日にも総攻撃が始まるぞ」


 ガレスの言うとおり、ロベルティ王国軍の士気は最高潮に達していた。北から向かってくる11万に、マリアナ自らが4万7千という数で合流した。東からのロベルティ王国軍に4千ほどの死傷者が出たとはいえ、それでも5万に迫る数。


 北と東の二方面の部隊が合流し、帝都フランユレールを包囲するロベルティ王国軍は総勢15万7千。対して、帝都フランユレールに入った帝国軍の数は2万8千である。5倍以上の敵数に囲まれている点では、何ら変わりはない。


 ――そこへ、一人の男が現れた。


「申し上げます。ロベルティ王国の外務大臣、アーロン・カーシュナーと申す者が面会を求めております」


「敵の外務大臣自らが、敵地へ?」


「偽りだろう。人質にするか、一思いに叩き斬ってしまえ」


 早くも腰の剣へ手をかけるガレスを制し、ソフィアはアーロンと名乗る人物に会うことを決断した。この期に及んで、交渉に偽物を送り込んでくるとは思えない。ゆえに、ここは話を聞くだけでも聞いてみるべきだ。


 ソフィア自身、そう思ったからこそ、反対するガレスを押しとどめ、会うことにしたのであった。


「お初にお目にかかります。アーロン・カーシュナーにございます」


「ワタクシがソフィア・フレーベルよ。アーロン殿は何ゆえにここへ参られたのです?降伏勧告ならお断りさせてもらうわ」


「では、帰らせていただく……と言いたいところだが、それでは命をかけて来た意味がない」


「分かりました。話だけでも聞かせてもらうとしましょう」


 アーロンの目的が降伏勧告だと判明したものの、正直に目的を語る姿を見て、誠実さ、豪胆さをソフィアは気に入った。


 第一、並みの使者なら、この剣呑な空気に気圧されてしまうが、そんな様子も見られない点でも、アーロンは傑物であることを物語っている。


 そんなアーロンの口から改めて降伏してもらいたいと告げられるが、ソフィアはそれを拒否。ソフィア自身、ルドルフ・フレーベルの孫娘であり、後を継いで皇帝の座についた誇りと責務がある。


 それをやすやすと放棄することは死んでいった者たちの遺志を踏みにじる行為でもあった。そうした心境から、降伏などもってのほかと撥ねつけるしかないのだ。


「我が主、マリアナは大人しく降伏すれば皆様の命まで取るつもりはないと申しております。ここにマリアナ直筆の誓書も」


「見せて頂戴」


 アーロンから受け取ったマリアナの誓書。もちろん、ソフィア以下、主だった武将たちの命は取らないことを念頭に置かれている。


 だが、その後にはソフィアたち帝国に侵攻し、多くの兵士や配下の命を奪ったことを謝し、今なお戦火で民を苦しめていることに心を痛めていることなど、心のうちに秘めている想いが赤裸々に記されていた。


 そして、これ以上民を苦しめることは本意ではなく、総攻撃をかければ罪なき帝都の民まで傷つけてしまう。それを回避するべく、どうか降伏してほしい。そう記されていた。


 その書状はソフィアの手から、カルロッタへ、カルロッタからガレスへ。涙と共に手渡されていく。涙に含まれるのは無念さだけではない。敵国の民衆を思う気持ちに感謝しての涙でもあった。


「分かったわ。こちらとしても、これ以上抵抗する余力はありません。何より、帝都での決戦において一番苦しむのは帝国軍でも貴国の軍でもない。この帝都に住まう、臣民たち」


「では……!」


「ええ。フレーベル帝国はロベルティ王国へ降伏し――」


 ソフィアの言葉は彼女の身体に刃が刺さる鈍い音に遮られることとなった。


「ソフィア!許さん!帝国は最強なのだ、親父が築いた帝国が他国に屈するなどあってはならん!」


「ガレス……、帝国の面子よりも民衆のことを考えて――」


「黙れ!」


 乱暴に剣が引き抜かれ、大量の血が流れだす。玉座を転がり落ちるソフィアを見て、さすがのアーロンも青ざめた。


 だが、先帝ルドルフの次男であり、女帝ソフィアの叔父であるガレスの反抗は、一本の槍により収束する。

第129話「櫓も櫂も立たぬ」はいかがでしたでしょうか?

今回はついにロベルティ王国軍が帝都フランユレールを包囲する形に。

このまま話がまとまり帝国が降伏する――というところで、ガレスが凶行に及ぶ事態になってしまったわけです。

一体、ここからどうなってしまうのか……!?

次回も3日後、9/13(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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