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第128話 暗夜の礫

どうも、ヌマサンです!

今回はトラヴィス率いるロベルティ王国軍と、カルロッタ率いる帝国軍が激突します!

はたして、どのような戦模様となるか、楽しみにしていてもらえればと思います!

それでは、第128話「暗夜の礫」をお楽しみください!

 ヌティス城より真っ直ぐ西へ進んだロベルティ王国軍は、カルロッタ率いる帝国軍の抜かりない布陣に称賛の声を送っていた。


「やあねぇ、もう布陣を終えているじゃない」


「ヨーゼフ殿。これも織り込み済みで、僕たちはヌティス城を出撃したんだ」


「そうなんだけど、やっぱりビックリするじゃない?」


 敵は鶴翼の陣を敷いていた。それはもう、待ってましたと言わんばかりに。


 中央にカルロッタ本隊1万6千。北側にジュリア隊9千。本隊南に、ミルカが残る1万2千の兵で陣取っていた。


 対するロベルティ王国軍はといえば、鋒矢の陣形を取っていた。鋒矢の陣形はまさしく矢印の形をした陣形。強力な突破力を持つ陣形ではあるが、一度側面に回られ、包囲されると非常に脆いのが弱点とされる。


 そんな鋒矢の陣形の先頭にはヨーゼフ・サランジェ率いる騎馬隊4千5百。それにヴェルナー・タンデル指揮する槍兵6千とハロルド・マクミランの部隊9千が続く。その後方に総大将であるトラヴィスが1万3千という数で控えている。


 なお、ノーマン率いる6千の姿が見えないものの、そのことに気づく帝国軍の将兵は誰一人居なかった。


 それもそのはず、トラヴィスもノーマンも同じハワード家の旗を用いている。当然、叔父甥で一緒にいるのだろうと、勝手に思われているのである。


 今回、トラヴィスはそれを利用することにし、密かにノーマンにはエルマーと共に別な任務を与えておいたのだった。


「トラヴィス様、作戦は上手くいくでしょうか?」


「こればっかりはノーマンとエルマーの腕次第だ。作戦通りに事が運べば、確実に帝国軍に勝てる」


 ノーマンとエルマーの任務が成功するよう、トラヴィスは全力でカルロッタの注意を引く。帝国軍にこちらの動きを悟らせないことが、一番の目的。ゆえに、猛獣のごとく目の前の獲物に食らいつかなければならない。


 ロベルティ王国側の思惑に帝国軍が気づくことのないまま、夜が明ける。空が朝日で白くなり始める頃。トラヴィスの号令が全軍に伝わった。


「さて!行くわよ、みんな!」


 おねえ口調のヨーゼフ指揮の下、サランジェ族の戦士たちによる突撃が開始された。夜が明けると同時に行われる突撃に、帝国軍も戦闘を開始する。


「ミルカ様!敵の狙いはやはり……!」


「お姉さまの本隊。なら、見過ごすわけにはいきません!弓隊の支度は整っていますか?」


「はい、矢を番え、号令さえ頂ければいつでも!」


 ミルカは自ら弓隊の指揮を執るべく、馬に乗って前線へ。ジュリア隊とやろうとしていることが同じであることに安堵しつつ、ヨーゼフ率いる敵の動きを注視する。


「まだよ、敵を引き付けて――今よ!」


「放てー!」


 ミルカの指示で矢が放たれる。そして、同時にジュリア隊とカルロッタ本隊からも矢が放たれ、ヨーゼフ隊に矢の雨が降り注ぐ――はずだった。


「ぎゃっ!」


「うぐっ!」


「馬を走らせながら、この距離を……!しかも、こんなに正確に……!?」


 サランジェ族が馬を駆けさせながら弓矢を扱うことができることは先のライオギ平野でも確認済み。しかし、今回のヨーゼフ隊の射撃技術は想定をはるかに上回るものだった。


 射られる前に、矢を番えている敵兵を射抜く。馬を全速力で駆けさせながらの先制攻撃に、帝国兵は乱れる。そして、弓矢を放つタイミングを逃したことが致命的だった。


 態勢を立て直す前に、弓から槍に武器を持ち換えたヨーゼフ隊が真っ直ぐにカルロッタの本隊に突っ込んだ。


「これじゃ、もう弓矢は使えない……!」


 ジュリアが弓矢は使えないと言ったのは、同士討ちになってしまうという意味合いであった。今、ヨーゼフ隊に矢を放てば、他ならぬカルロッタ本隊の兵士たちに当たってしまう。


 こうして帝国軍の対応が後手後手になっている間に、ヴェルナー隊、ハロルド隊が次々にカルロッタ隊へなだれ込む。


 だが、それは鶴翼の陣形を活かす好機であった。ミルカはそのことに気づき、ジュリア隊に向けた狼煙を挙げる。


 ――今こそ、広がった翼を閉じる時。


 鶴翼の翼を閉じるという意味の狼煙を見たジュリア隊は弓隊を下がらせ、騎馬隊と槍隊を突っ込ませようとした。


 だが、次の瞬間にはミルカから中止を意味する狼煙が上がる。それは、トラヴィス隊の進軍が迅速ではなかったためであった。


 今、翼を閉じて敵を包み込めば、その背後を突くようにトラヴィス隊が進んでくる。ならば、トラヴィス隊がヴェルナー隊、ハロルド隊に追いつくのを待とう。


 そう考えての狼煙であったのだが、トラヴィスも敵がそう動くことは百も承知。よって、手前で進軍することを止めてしまったのだ。


 追いつくのを待って閉じようとするならば、追いつかなければいい。ただ、それだけのことなのだが、これでは翼を閉じたくても閉じられない。ミルカが唇を噛んでいる一方で、しびれを切らしたのはジュリアだった。


「このままだと、カルロッタ様が危ない!トラヴィス隊は気にせず、突撃するわよ!」


 ジュリア隊9千はトラヴィス隊にかまわず、突撃を開始。やむを得ず、ミルカ隊はトラヴィス隊へとぶつかる方針へ切り替える。


 カルロッタ本隊とジュリア隊、あわせて2万5千という数で挟撃を受けることとなるロベルティ王国軍1万9千5百。ノーマン隊6千がいればほぼ同数となるが、この事態に際してはそうも言っていられない。


 ――これで帝国軍の勝利。後はロベルティ王国軍を殲滅し、トラヴィス以下の大将首を挙げるだけ。


 カルロッタも、ミルカも、ジュリアも。なにより、帝国軍の将兵もそう思った。しかし、北に翻った旗1つで戦況は180度変わることとなる。そして、その旗は当初のトラヴィス以下、ロベルティ王国の将兵にとっても度肝を抜いた。


「まっ、マリアナ様……!?」


 帝国軍の中でも最北に布陣するジュリア隊の背後。すなわち、戦場の一番北側に突如、マリアナの王旗が翻ったのだ。


「トラヴィス将軍、待たせたわね。さあ、帝都フランユレールまでの道を確保するわよ!」


「おおっ!」


 マリアナ率いる本隊1万3千。その中には、トラヴィスの娘であるセシリアの姿もあった。頼もしい娘の姿に父として、トラヴィスは勇気を取り戻す。


「よし、一息にミルカ隊を蹴散らし、マリアナ様と共にカルロッタの首を挙げるぞ!かかれぇっ!」


 気迫に満ちたトラヴィスの声に、押されかけていたトラヴィス隊が息を吹き返す。その反撃にあい、ミルカ隊が逆に押し戻されていく。


「一体、どうやってここまで来たの……!?」


 ミルカは采配を振るいながら、どうやってマリアナがここまで来たのか、懸命に考えていた。そこで、一つの見落としに気づく。


「ハウズディナの丘を経由してきたのなら、ここまで最短経路で来られる……!でも、あんな足場が悪くて細い道を進もうなんて、女王の考えることじゃ――」


 ミルカの考えは当たりだ。足場が悪く、大軍が通れない狭い道。普通ならば、伏兵を警戒して女王たるものが寄り付くような道ではない。だが、マリアナ・ロベルティという女王はその道を選んだ。


 それだけではない。トラヴィスたちが自分の到着よりも前に動くこと。そして、動くとすればここで帝国軍と合戦になること。すべて予見した上で、険しい道を超えてきたのだ。


 ミルカは震撼した。ロベルティ王国において、恐れるべきはナターシャやレティシアだけではないということを。そんな彼女たちが主君と仰ぐ、他ならぬマリアナも傑物であるということを、今少し警戒しておくべきであった。

第128話「暗夜の礫」はいかがでしたでしょうか?

今回はトラヴィスとカルロッタがついに激突。

そして、ロベルティ王国優位に進むかに見えて、帝国軍も負けじと反撃する。

このままでは、ロベルティ王国が負ける――かと思ったところへ、マリアナの登場という形に。

はたして、ここからの戦いがどうなるのか、引き続き見守っていてもらえれば幸いです。

それでは次回も3日後、9/10(日)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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