第127話 生け簀の鯉
どうも、ヌマサンです!
今回はカルロッタたち帝国側の視点での話。
帝国から見た、ロベルティ王国軍の快進撃はどんな影響を与えるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは、第127話「生け簀の鯉」をお楽しみください!
ヌティス城にて、トラヴィスたちが戦支度を始めたことは、すぐにもカルロッタの元へ伝わった。
「そう。王国は戦の準備を」
「ハッ、ヴェルナー・タンデル率いる6千、ヨーゼフ・サランジェ率いる4千5百が続々と入城しております。元よりトラヴィスが1万9千もの兵で駐屯しておりますれば……」
「敵はあわせて2万9千5百ということね。分かったわ、引き続き動きがないか探っておいてくれる?」
「承知しました」
現在、カルロッタが有する兵力は3万7千。兵数の勝っている今であれば、野戦に持ち込めれば倒せる。
だが、先日痛い目を見たばかりであるため、あまりの重さに腰も上がらないといった風であった。
「カルロッタ様!」
「ジュリア、そんなに急いでどうかしましたか?」
「はい、一大事です」
女帝ソフィアに援軍を要請するため、帝都フランユレールへ派遣していたジュリアが慌てふためいて戻ってきた。それだけで、何があったのかとカルロッタの心にわずかな不安の火がが灯る。
この日、ジュリアの口からカルロッタの元に届けられた一方。それは、ナターシャ率いるロベルティ王国軍が快進撃を続け、シムナリア丘陵地帯を抑えたという一報であった。
「それで、ソフィア様からは何か……」
「こちらに」
ソフィアからの書状には、ダルトワ領への援軍は送れないことを謝罪する文言が記されていた。そして、帝都フランユレールへは臨時で招集した1万しかおらず、帝都陥落もありうるという内容も。
「ヴィクターはこんな時に何をしているのですか……!」
「ヴィクター様は1万ほどの軍勢を率いて、ヴァルダロス王国と交戦中。そして、ジェローム・コルテーゼは戦死し、シリルも死亡。大軍勢を動員し、帝都までお救いに行けるものが誰もいないのが現状です」
ジュリアからの言葉に、カルロッタの心に宿る不安は、絶望へと変わる。何より、帝都には息子のエルネスト、ローレンスとジュリアの間に生まれたヒューゴ、妹・ミルカの娘であるアイリスを人質に出している。
もし、帝都が陥落すれば、人質に出している我が子らにも危険が迫る。カルロッタは帝国の将軍として、それ以上に一人の母親として葛藤していた。
我が子を、主君を助けるために帝都フランユレールへ向かいたい感情を持つ自分と、ここで自分が離れればダルトワ領はトラヴィスたちに蹂躙され、帝都が東からも敵の攻撃を受けることになるという理性的な自分。
親心と理性の衝突に、カルロッタは精神的な苦痛を味わっていた。
「カルロッタ様、こうなれば私たちのできることをするしか……」
「……そうね。私たちができるのは、少しでも長く東からのロベルティ王国軍を防ぐこと。体も1つしかないのだから、私はここでやれる限りのことをするわ」
カルロッタは苦しんだ末に、やれることをやるしかないとジュリアに諭される形となった。しかし、決意と呼ぶには、それは余りにも脆い。そんな代物。
「お姉さま、ガレス様が7千の兵を率いて、帝都フランユレールへ入ったとのことです」
「ガレス様が……?」
先日の戦い以降、ガレスは手勢を率いて帝都フランユレールの西部にある自領へ戻っていた。そんなガレスが、7千の兵をかき集めて帝都へ入ったというのだ。これにはカルロッタも意外そうな顔を浮かべていた。
「意外……でしたか?」
「そうね、直近の負け戦で金枝玉葉としての誇りを打ち砕かれて、落ち込んでおられる様子だったもの」
「確かに。でも、帝都に敵が迫っていると知り、くよくよしている場合ではないと思われたのかもしれません」
「そうかもしれないわね。でも、帝都に集まった兵は1万7千。対するナターシャ率いるロベルティ王国軍は10万。数の上では不利であることに変わりはないわ」
守る帝国軍は1万7千。対する寄せ手は10万。5.8倍という兵力差になる。一般的に城を落とすのに3倍の兵数が必要と言われるが、問題は兵数以外の点にもある。それは
広大な帝都フランユレールを1万7千の兵で守ることは不可能に近いという点。
かつて、先帝ルドルフは『帝都フランユレールは5万の兵がいなくては守り切れない。市街地の防衛を捨て、王城のみであれば1万いれば守り抜ける造りになっている』と公言していた。
はたして、女帝ソフィアは市街地の防衛を捨て、王城の守備に全力を注ぐ決断ができるか。これに帝都が陥落するか否か、大きく左右することになる。
「お姉さま。ロベルティ王国軍は続々と兵が集まり、今では11万になったそうです」
「さらに1万も増えたの……!?」
ここへ来て、ロベルティ王国軍の兵力が増えた。ますます、帝都フランユレール陥落の可能性が高まることにもなりかねない。
「申し上げます!敵方の兵力、判明いたしました」
「聞かせて頂戴」
「ハッ、先日より9千増えて、3万8千5百」
東より向かってくる兵力も敵がわずかばかり上回る形となった。そして、さらなる悲報が届けられる。
「また、ロベルティ王国の女王マリアナ自ら1万3千の兵を率いて、ヘキラトゥス山地に入ったとのこと。このまま南下し、ヌティス城を目指しているようです」
「お姉さま、敵は本気のようです。この度の遠征で帝国の息の根を止めるつもりなのでしょう」
もし、マリアナ率いる1万3千が合流すれば、敵の数は5万を超え、国王自らの親征となれば兵の士気もおのずと上昇する。こうなっては、カルロッタたち帝国軍に勝ち目はないに等しい。
「カルロッタ様、マリアナの部隊は未だヘキラトゥス山地。ヌティス城へ到達するには、どれだけ急いでも4,5日はかかります。今のうちに戦端を開き、短期決戦でケリをつけてしまうのは……」
「ダメよ、敵は打って出てくることはない。マリアナ率いる本隊と合流するまでは、ヌティス城に籠るわ」
そう、トラヴィスたちはマリアナとの合流を待っていればいいのだ。合流後、5万という数で一気に侵攻し、カルロッタたちを倒す。そして、そのままの勢いで帝都攻めに参陣する。
カルロッタもミルカも同意見であった。ゆえに、ジュリアの申し出は却下された。しかし、ここで新たに伝令兵が駆け込んでくる。
「何事……!?」
「カルロッタ様!敵がヌティス城を出ました!大挙してトリテルテアへ向かいつつあり!」
今現在、カルロッタたちがいるトリテルテアへ、敵が押し寄せてくる。となれば、敵の狙いは野戦。しかも、マリアナの到着より前に決着をつけておくつもりか。
「カルロッタ様」
「お姉さま」
「ミルカ、ジュリア。決戦よ。今のうちに布陣を済ませて迎え撃つわ。今のうちに敵の先鋒を叩くわよ!」
マリアナが合流する前の野戦に勝機を見出したカルロッタは各隊へ指示を飛ばす。すなわち、トリテルテア東部の街道沿いに布陣。あとは、攻めてくる敵を正面から迎え撃つ。
敵が5万を超えていれば、トリテルテアにおいて籠城戦を挑むつもりであったが、そうでないなら話は別。
ここでトラヴィス率いる3万8千5百のロベルティ王国軍と雌雄を決する。そこで敗北すれば、トリテルテアへ後退し籠城。勝てばそのまま押し戻し、あわよくばヌティス城を奪還する。
ヌティス城奪還した後に、マリアナが来たのであれば、そのままヌティス城で籠城し、敵を少しでも足止めすればいい。
いずれにせよ、敵とほぼ同数のうちに野戦をし、この勝敗で動きを決める。カルロッタはそう決断したのだ。そんな彼女の瞳には、闘志の炎が燃え盛っていた。
第127話「生け簀の鯉」はいかがでしたでしょうか?
今回は決戦前夜的な話でした……!
いよいよダルトワ領でも王国軍と帝国軍の戦いが始まります!
はたして、勝つのはどちらか!?
次回も3日後、9/07(木)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!