第126話 一念天に通ず
どうも、ヌマサンです!
今回はトラヴィスたちに焦点の当たった話になります!
はたして、トラヴィスたちの方ではどのようなことになっているのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第126話「一念天に通ず」をお楽しみください!
レティシアが仕掛けていった惨劇により、荒れ果てていたダルトワ領も落ち着きを見せ始めていた。
「叔父上。この度は領主就任、おめでとうござる」
「ノーマンか。どうやら王都コーテソミルに戻るなり、ナターシャ殿とレティシア殿が俺を領主に、と働きかけたかららしいのだが……」
「これはマリアナ様も喜んでお認めになったことでござる。自称しているわけではござらぬゆえ、気に病むことはないでござろう」
「それもそうだが、面倒な後始末を押し付けられたのだ。一概に喜べたものではないぞ。何より、俺の領土が最前線なのだから、責任重大と言える」
ナターシャとレティシアがレシテラへ入った日。正式にトラヴィスをハワード領の領主として認めるというマリアナからの書状がトラヴィスの元へ届けられた。
その前日には、私闘を禁じるという書状を王国に降った領内の帝国領主たちに発布。この私闘禁止令に従わない一人の領主をノーマンが手勢を率いて討ち取って来たところなのである。
「にしても、レティシア殿の策はキレイに決まったでござる」
「ああ。そのおかげで、領内も落ち着きを取り戻したわけでが、俺の仕事が増えたのが厄介だ」
目下、トラヴィスの執務室には大量の書類が山積している。これらの書類は、領主から以後は領主であるトラヴィスに従うという旨の誓紙などである。
ハワード領の領主として、トラヴィスはすべての書類に目を通さなければならないのだ。武将であるトラヴィスには、文官のような仕事は性に合わない。だからこそ、気分が乗らないのであった。
「叔父上、頑張るでござるよ。これも領主の務めではござらぬか」
「他人事みたいに言いやがって……。暇ならお前も手伝え」
「では、叔父上。拙者は用があるので、これで」
「逃げやがったな……」
甥っ子に逃げられ、仕事を押し付けたい気持ちをくすぶらせながら書類仕事を再開するトラヴィス。そんな彼の元へ、2人の人物が訪ねてきた。
「トラヴィス殿、失礼するぞ」
「邪魔をする」
「おお、エルマーにハロルドか。よく来たな」
やって来たのは、トラヴィスやノーマンと共に残された新参者の2人。エルマーとハロルド・マクミランであった。
「今さっき、早足で部屋を立ち去るノーマン殿を見かけたのだが、何かあったので?」
「ケンカとかなら、仲裁くらいならできるぜ」
「いや、大したことではない。俺が領主の仕事をノーマンに押し付けようとしたら逃げられてしまったというだけのことだ」
「……そういうことだったのか」
トラヴィスからの説明に納得がいった様子の両名。ノーマンもトラヴィスと同じく、大人しく座って書類仕事が苦手な性質だ。それを知っていれば、ノーマンが逃げるように立ち去っていくのも納得がいくというもの。
「だったら、オレたちが手伝おうか?」
「そうだな、ノーマン殿ほど書類仕事が嫌いというわけではない。トラヴィス殿が良いというのなら――」
「良いに決まっている!3人でやればあっという間に終わる!いやぁ、助かった!実に助かったぞ!」
肩を揺らしながら、喜色満面な様子のトラヴィスに苦笑しながら、エルマーとハロルドはただちに書類仕事へ取りかかった。そして、トラヴィスの言っていたようにその日のうちに、山積みになっていた書類仕事は片付いたのだ。
……さすがに量が量であったため、3人とも疲労困憊といった様子ではあったが。
「二人とも。手伝ってくれたこと、感謝するぞ」
「いやいや、いつもオレの方がトラヴィス殿に世話になってるんだ。これくらいじゃ、返しきれないくらいにな」
「俺もだ。トラヴィス殿のおかげで、帝国にいた頃よりも日々の生活が充実して、楽しいんだ」
「そう言われると照れるが、まだまだ領主としてはひよっこ。2人とも俺を、ロベルティ王国を支えてくれよ」
頼もしい若者たちの姿に笑みをこぼしつつ、トラヴィスは率直な想いを述べる。そして、その日は無礼講だと酒を勧め、3人で酔いつぶれるまで酒を飲んだ。
そんな酔いつぶれた3人を部屋まで担いだのは、書類仕事から逃げたノーマンだったのだが、満足げな3人の表情を見れば、なぜだかノーマンまで嬉しくなってしまうのであった。
その数日後。ナターシャたちがジェロームを討ち取り、本格的に帝国領への侵攻を開始したという報せが舞い込んできた。
「おおっ、ナターシャ殿たちがジェローム・コルテーゼを討ったか!」
「はい。そのままの勢いで北から帝国領の制圧を進め、帝都フランユレールを目指す、とのことです」
「分かった。至急、王都コーテソミルにいるマリアナ様に、我らもダルトワ領への侵攻を再開するべきか否か、判断を求めてくれ」
ナターシャ率いる大軍が勝利し、帝国領への侵攻を開始。これに合わせて自分たちも兵を集めて動くべきなのか。トラヴィスはまず、マリアナに指示を仰ぐことに。
そして、その判断は「進軍せよ」であった。
「そうか。ならば、俺たちも兵を集め、出陣の支度を始めるとしよう」
「だが、叔父上。ナターシャ殿たちのことでござる、すぐにも帝国領を制圧してしまうのではござらぬか?」
「あり得るな。俺たちが動き出すことには、帝都フランユレールにロベルティ王国の旗が翻っている――なんてこともないとは言えん」
ナターシャたちの大軍勢は、ロベルティ王国の主力と言っても過言ではない。それを考慮すれば、自分たちはこんなところでもたついているわけにはいかない。そう、トラヴィスもノーマンも感じていた。
「よし、ただちに兵を集めるぞ!エルマーには食料の調達、ハロルドには武器防具の調達にあたらせる。ノーマンは敵情視察を頼む」
手早く誰にどのような支度をさせるのか、役割を分担。トラヴィスの迅速な指示により、その日のうちに支度は大急ぎで進められる。そして、翌日には援軍が駆けつけた。
「タンデル領より、6千の援軍が到着なされます!」
「おう、ヴェルナー殿が来たか」
トラヴィスは知らせを受け、自身、城下までヴェルナーを出迎えた。6千の軍勢の先頭を進んでくる柿色の髪を刈り上げた好青年こそ、他ならぬヴェルナー・タンデルその人であった。
水色の大鎧と朱色の長槍といういで立ちが、朝日に照らされ、良い武者立ちが際立つ姿に、思わずトラヴィスも目を奪われる。
「ヴェルナー殿、遠路はるばるかたじけない」
「とんでもない!歴戦の名将、トラヴィス・ハワードと馬を並べて戦えるなんて、光栄なことです。それに、これはマリアナ様からのご指示ですよ」
「なに?マリアナ様からの?」
ヴェルナーは懐から、マリアナ直筆の書状を取り出し、トラヴィスへ手渡す。読んでみれば、本当にマリアナからの命令書だった。
「誠にマリアナ様の命令であったか」
「そうですよ。後日、マリアナ様自らも大軍を率いて親征なされるとも聞いております」
「マリアナ様自らお越しになるのに未だダルトワ領の制圧も為せてないとあっては、面目が立たん。お越しになられるまでにはカルロッタを討ち、ダルトワ領を制圧しておきたいものだ」
「その意気ですぞ、トラヴィス将軍。微力ながら、このヴェルナー・タンデルも尽力いたします」
新たにタンデル領の軍勢6千が加わったと聞き、ハワード領の兵士たちも心強い味方を得たと勢いづく。
その数日後には、ヨーゼフ・サランジェ率いる騎馬隊4千5百も到着し、ロベルティ王国軍の士気はうなぎ上り。いよいよ、ダルトワ領でも戦端が開かれようとしていた。
第126話「一念天に通ず」はいかがでしたでしょうか?
いよいよダルトワ領の方でも一合戦ありそうな雰囲気でした……!
そして、久々に登場したヴェルナーとヨーゼフも援軍として加わったロベルティ王国軍を、カルロッタたち帝国軍がどう迎撃するのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは、次回も3日後、9/4(月)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!