第123話 運否天賦
どうも、ヌマサンです!
今回はアマリアがジェロームの墓前にいる場面から始まります……!
前回の戦いを経て、今回はどのように物語が進展していくのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第123話「運否天賦」をお楽しみください!
ジェロームが死した翌日。墓の周りを掃き清め、礼儀正しく一礼するアマリアの姿があった。
「アマリア、ジェローム主従の墓参りですか」
「はい。お姉さまも?」
「いえ、そのつもりで来たわけではありません。ですが、せっかくですから冥福を祈ることにします」
アマリアを探しに来たナターシャも、彼女の右隣で死者の冥福を祈る。ジェローム主従をはじめ、散っていった帝国兵の墓はテルクス郊外の共同墓地に埋葬された。
さすがにロベルティ王国兵の墓のように町の一角にある墓地へ埋葬するわけにはいかない。それでは民心が納得しないからだ。侵略してきた者と侵略を受けた者を同列に扱うことはできなかった。これではいらざる反発を招いてしまう。
アマリアもそのことは重々承知しているが、どこかモヤモヤとした違和感を感じてもいた。
「アマリア、その感情を大事にしなさい」
「このモヤモヤとした、何とも表現できない感情を、ですか?」
「そうです。それは敵とはいえ、その者と、その者たちが抱き、背負ってきたものともども斬ったという証なのですから」
「その者と、その者たちが抱き、背負ってきたもの――」
人を斬ることは単に、人を斬っただけではない。その者たちが背負い、生き延びてきた『生』そのものを断ったということ。そして、希望も絶望も野望も、望みという望みのすべてを斬ったことでもある。
「そのモヤモヤは、彼らが背負ってきたものを剣で断ち切ったという証。これからはアマリア、あなたが代わりに背負う物なのです」
「……ボクが代わりに背負う、ですか」
「背負うかどうかはアマリアの自由意志に任せます」
「お姉さまは、背負われているのですか。これまで斬ってきた者たちの分も」
立ち去ろうとするナターシャにアマリアがかけた言葉に、ナターシャは静かに首を縦に振るのみであった。その時の視線、態度からにじみ出るモノだけで、アマリアには十二分に伝わっていた。
「分かりました。お姉さま。ボクも背負うことにします。背負わなければ、いつか申し訳なさに押しつぶされてしまう」
その瞬間、アマリアに新たな力が宿る。炎魔紋が爆魔紋に上書きされていく。スティーブ・エリオットからジェローム・コルテーゼ。彼らを経て、今。アマリアの身体に爆魔紋が宿った。
その日の夜。ナターシャから会議を行うと通達があり、主だった武将らは参じることとなった。
集まった者たちはナターシャのほかに、アマリア、ユリア、モレーノ・ダレン父子、リカルド、マルグリット、サイモン、クラウス、ラッセル、ルービン、アルベルトといったテルクスにいるロベルティ王国の主だった面々。
そして、ルイス、アレーヌ、コリンといったヴォードクラヌ王国の面々も加えた計15名。
「この度の戦はこれまで。そう言いたいところですが、ここで手を緩めるわけにはいきません」
「そうだろうね。ここで足を止めれば、同じことの繰り返しになっちまうよ」
「オレも同感だ。ここまでくれば、ロベルティ王国の力も借りて、旧領奪回くらいは達成したい」
ナターシャの意見にマルグリット、ルイスの2人は賛同。侵攻戦へと切り替えるとすれば、まだまだ遠征は続くことになる。だが、ここで遠征を渋れば、力を回復させた帝国が再び侵攻策を採ってくることは火を見るよりも明らか。
ならば、先にこちらから攻め、ダルトワ領からも同時に西へ侵攻し、北と西の2方面から攻撃を仕掛けることで、帝国からの侵略を止める。そして、帝都フランユレールを陥落させ、帝国を屈服させるしかない。
そうしなければ、待てど暮らせど平和など訪れない。それゆえに、誰も反対する者はいなかった。
ナターシャとしては、ルイス、アレーヌのヴォードクラヌ領奪回を試みている者たちが賛同するのは分かり切っていた。そして、ロベルティ王国の面々も、自分の言わんとすることは理解を示してくれている。
そして、自領への脅威が薄れるアルベルト、ルービン、ラッセルの3名は渋ると読んでいた。だが、誰も渋らなかった。ここで帝国を一挙に屠らなければ、脅威がいつまでも残り続けることは、彼らも肌身で感じていたのだ。
「では、このまま帝国領へと攻め込むということで、誰も異論はありませんか」
首を横に振る者はおらず、侵攻するということで意見はまとまった。後は、どう侵攻していくか、この点について議論することとなる。
「お取込み中、失礼いたします!レティシア・クローチェ様、ご到着です」
本格的に軍議を始めるという時に、軍師が来た。このことに誰よりも喜び、心強く思ったのは他でもないナターシャであった。
「みんなお待たせ!」
「レティシア、待っていましたよ」
「だろうね、アタシも軍議に遅れたくないから急いで来ちゃったよ」
頬に汗をつたわせながら、レティシアは軍議を行っている部屋へ入った。そして、一同の視線は彼女の右手にある書状へと向けられる。
「レティシア、その手に持っている書状は……?」
「マリアナ様からだよ。読む?」
「そう言われては、読まないわけにはいかないでしょう……」
咳ばらいをして、全員に聞こえる声量でマリアナからの書状は読み上げられた。ナターシャの透き通るような声を介して、マリアナからの姿が見えるような心地と共に命令は伝えられる。
それはすなわち、このままの勢いで北から帝都フランユレールを目指せ、ということ。そして、同時にダルトワ領の制圧も進めていくという内容も記されていたのだ。
「マリアナ様も決断したのですね」
「うん。このままじゃ、いつまで経っても終わらないから」
「民の塗炭の苦しみはなくならず、マリアナ様も上に立つ者としての苦悩が終わりませんからね」
「そういうこと」
苦しみを上から下まで終わらせる方法は、もはやロベルティ王国によるルノアース大陸の統一しかない。そのために、みんなの力を貸してほしい。書状にはそう記されていたのだ。
「ナターシャ、準備はいい?」
「もちろんです。こうなれば、私たちの手で、乱世に終止符を打ちましょう。そして、これ以上墓前で人々が泣き崩れることのない世を作らなければなりません」
その場に居合わせた者にも、愛する者を失い、墓前で泣き崩れたことのあるものは多かった。そして、この時のナターシャの言葉が全軍へ伝わり、かつてないほどの闘志に満ちたロベルティ王国の軍勢は6万を数えた。
先陣はアマリア率いるルグラン領の兵士で、その数2万4千。副将としてユリア、コリン、サイモン、クラウスが同行。
それに続く形で、ルイス率いるヴォードクラヌ兵3千。そこには補佐役としてアレーヌも参陣している。
そこからはマルグリット隊7千5百、ナターシャ本隊1万、ラッセル隊6千、アルベルト隊5千、ルービン隊4千8百、リカルド隊1千という形で、続々とテルクスを発した。
その一報はレシテラまで退いたシリルの元に届けられたが、彼らに今の王国軍を防ぐ手立ては皆無。
「し、シリル様……!」
「もう良い。ここは南へ撤退する。このままレシテラに籠城すれば、敵に南への退路を塞がれることとなる。そうなれば、我々は餓死して終わる」
このシリルの決断に難色を示す者たちは多く、大勢の将兵がレシテラを去り、郷里へと帰っていく。
最終的にシリルに従い、レシテラ南部のシムナリア丘陵地帯へ布陣したのは、わずか7千ほどであった。
そこへ、ナターシャ率いる6万を超すロベルティ王国軍が押し寄せる――
第123話「運否天賦」はいかがでしたでしょうか?
今回はナターシャ率いるロベルティ王国軍が北からも帝国領への侵攻を開始。
いよいよ帝国との戦いも本格化してきたという感じになります……!
今後の戦いがどうなっていくのか、引き続き楽しんでもらえますと幸いです!
次回も3日後、8/26(土)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!