第122話 会者定離
どうも、ヌマサンです!
今回はジェロームが帝国へ逃れようとするところから始まります……!
はたして、ジェロームは何を思い、どんな行動をとるのか、注目していてもらえると嬉しいです!
それでは、第122話「会者定離」をお楽しみください!
「くそっ、くそっ!」
総崩れとなり、敗走する羽目になったジェローム・コルテーゼ。わずか二十数名の共に守られながら、西へ西へと落ちていく。
「将軍、帝国領まで戻れば再起を図る機会もございます!ここは辛抱こそ肝要」
「分かっている!だが、だが……!」
勝てると思った。いや、負けないと思っていた戦に敗れる。人生で最初の敗北。ここまで連戦連勝を続けてきたジェロームにとって、何よりも受け入れがたい現実であった。
「いたぞ!ジェローム・コルテーゼだ!生け捕りにして、ナターシャ様の前に引き据えろ!」
川を渡ろうとする手前。リカルド隊の小隊に補足されてしまうジェローム一行。
「あの程度の数、オレ一人で皆殺しにしてくれる!」
「なりませぬ!ここは川を渡り、退いてくだされ!」
部下たちに止められ、渋々川を渡るジェロームであったが、武人として敵に背を向けるなど、誇り高き猛将にとって、これほど耐え難い屈辱はなかったしかし、二十数名という数では、小隊一つ壊滅させることは不可能。
頭では分かっていても、体が受け付けない。まさしく、ジェロームはそのような心境であった。
リカルド隊の追撃を振り切り、キバリス平原を西へと進んでいく。このままキバリス渓谷を抜けられれば、ロベルティ王国領を抜けることができる。
――あと一息。
その想いでジェローム主従はひた走る。だが、そうは問屋が卸さなかった。新たな追撃者が東より現れたのだ。
「ルグランの将軍旗です!アマリア・ルグランが追ってきました……!」
「馬鹿なっ、船もない中でどうやって……!」
答えは一つ。予想に反してジェロームが隊を分けなかったことで、東と東南の砦を解体。バラした木材で筏をくみ上げ、テルクスへと送り届けたのだ。
それを用いてアマリア自らが出陣。出陣とはいえ、筏の数的に八百が限界であった。だが、今のジェロームの手勢を殲滅するには十分な数である。
「アマリア隊の数は八百ほどか」
「こちらは26名です。逃げるしかありませぬ」
「いや、オレはもう逃げん。逃げたいのなら勝手にしろ。オレはここを死に場所と決めた」
「死……!?」
部下たちは驚いた。自分の将軍が死に場所を決めたのだから。しかし、ここまで付き従った部下たちの中に、主君を置いて逃げ出すような不忠者は誰一人いなかった。
「ジェローム将軍!我らもお供します!」
「お前たち……」
「死ぬと言っても、一矢報いて死んでやりましょう!」
猛勇を振るい、戦場で恐れられた大男の瞳から涙があふれ出る。最後に、これほどの忠臣がいてくれたことを、ただただ感謝した。
「ここまで付き従ってくれたこと、感謝するぞ。最期は敵に背を向けず、武人として死のうではないか」
主従は反転、東へ駆ける。元より、生を捨て、善き死を求めて向かってくるのである。そう容易く討ち取れるものではない。アマリアはそう判断した。
「アマリア様、ジェローム主従が向かってきます!」
「分かっている。せめて安らかな死を与えたいものだが、それではこちらの犠牲も計り知れない」
「それでは……!」
「弓で狙い撃ちに。それでも生き残った者だけを相手にするんだ」
死兵との接近戦をなるべく避けるため、アマリア隊から容赦なく矢が射かけられる。向かい風ならぬ向かい矢に、ジェロームの部下たちは射られ、倒されていく。
結局、矢が降り注ぐ中でアマリア隊に接近戦を挑むことができたのはジェロームのみとなっていた。
「爆魔紋ッ!」
スティーブ・エリオットから継承された紋章の力を惜しみなく使い、アマリア隊の第一陣を一蹴する。その光景に第二陣、第三陣の者たちも怯む。
「みんなは下がれ!ボクが相手をする!」
ジェロームが左肩と右大腿部に矢が突き立っているとはいえ、手負いの猛獣をこのまま突っ込ませては、第二陣、第三陣も危ないと見たアマリア。単身でジェロームの前へと躍り出す。
「ジェローム・コルテーゼ!お相手願おう!」
「アマリア・ルグラン!相手にとって不足はない!いざ、尋常に勝負!」
ここに一騎打ちが幕を開ける。紅蓮の色をした大剣――魔剣エルツィオーネと火炎を纏う武骨なサーベルが正面衝突。
初手の力比べを制したのはジェローム。突進の勢いでアマリアを吹き飛ばし、強制的に後退させる。
「くっ……!」
「わずか数秒でもオレの一撃を受け止めるとは見事!だが、次はそうはいかんぞ!」
地面に二つの直線を引きながら後退したアマリアへ、容赦なく大剣での連撃が見舞われる。手負いとは猛獣は猛獣。炎魔紋を発動したアマリアであっても、戦闘を優位に進めることは至難の業であった。
今のアマリアはジェロームの猛攻を凌ぐことのみ。防戦一方と聞けば印象は悪いが、ジェロームを相手にしていることを考慮すれば、かなり善戦しているとも言えるほど。
だが、このまま戦闘が長引けば、アマリアが倒されることは目に見えている。そうなれば、自分を屠った勢いでこの場にいる者たちを一人で殲滅させてしまうことだろう。
ジェロームほどの豪傑であれば、可能なことなのだ。そうなれば、アマリアは何としてもジェロームを倒す必要性に迫られる。
逆転の一手を模索する中で、アマリアはジェロームの攻撃をサーベル一本で捌いていく。その中で思い浮かぶのは『漆黒の戦姫』の姿。
ナターシャであれば、難なく成し遂げてしまうのだろうか。そんなことが脳裏をよぎるも、すぐに振り払う。
ここにいるのはナターシャではなく自分なのだという鉄の意思を胸に、目の前の強敵と対峙する。
「どうした?先ほどから守ってばかりだが」
「そうだね。おかげで見切ることができたよ」
その言葉を証明するかのように、ジェロームの攻撃をかわすだけでなく、受け流していた。真正面からジェロームの一撃を受け止めていては、長時間戦い続けることは不可能。
それゆえに、軌道をそらして受け流すといったやり方で応戦し、戦っている中でも確実に体力を温存することができていた。そして、温存した体力を反転攻勢へと結びつける。
「ぐっ、オレの剣を受け止めた……!?」
「ずいぶん疲労が蓄積しているようだ。明らかに先ほどより攻撃の威力が落ちている」
左肩を射られ、膂力が低下していることはもちろんこと。しかし、それ以上に自分が体力を無駄に使い過ぎ、その上筋肉にも負荷をかけすぎたのだと、ジェロームは悟った。
「覚悟ッ!」
「ぐはっ……!?」
ジェロームに生じた僅かな隙を、アマリアはみすみす逃すほど甘くはない。腹部に一文字の傷が深く、深く刻まれる。
炎を纏った刃により、傷口は焼き切られ、血しぶきが上がることはなかった。だが、もはやジェロームは剣を振るえる体ではなくなってしまったのだ。
「アマリア・ルグラン、見事だ……」
「貴殿ほどの武人に褒められるとは光栄だ。だが……」
「ああ、分かっている。オレを楽にしてくれ」
「承知した」
刹那、ジェロームの心の臓はサーベルに貫かれた。そのまま地面にまで届いた刃を引き抜くと、周囲に血だまりが形成されていく。
「あ、アマリア様!お怪我は……!?」
「大丈夫だ。致命傷は一つもない。すべてかすり傷だ」
これほどの激闘を繰り広げてなお、アマリアは軽傷だった。さすがに無傷とはいかなかったが、見事な勝利である。
「ここに散った26名の亡骸は、丁重に葬ることとする。異論はないかな?」
その場に残る兵士たち皆が首を縦に振る。いかに敵とはいえ、せめて死者は丁重に弔いたい。皆の想いは一致していた。
第122話「会者定離」はいかがでしたでしょうか?
今回はついにジェローム死すという結果に。
討ち取ったのはアマリアだったわけですが、死者を丁重に弔う姿勢が印象に残ったのではないでしょうか?
ともあれ、ここからの帝国との戦いがどうなるのか、引き続き見守ってもらえればと思います!
次回も3日後、8/23(水)の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!