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第121話 懸かるも引くも折による

どうも、ヌマサンです!

今回はいよいよ帝国兵との決戦が幕を開けます!

はたして、どのような戦模様となるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第121話「懸かるも引くも折による」をお楽しみください!

 白白明けの頃。空が次第に白くなり、夜が明けようとしている中で、3つの砦に動きがあった。


 ラッセル、アルベルト、ルービンがそれぞれ5百ほどの弓兵を連れて、砦を出たのだ。向かった先は言うまでもない。ジェローム隊だ。


「よし、矢を放て」


「ハッ!弓隊、放て!」


 真っ先に戦端を開いたのは、ルービン率いるフォーセット領の弓隊。朝日を背にして射掛けられたジェローム隊に、少なくない被害が出る。


 続けざまに南東と南からも、次々と矢が放たれる。今日の天気は矢の雨かと思うほどにジェローム隊目がけて浴びせられる矢。


「ジェローム様!敵方が矢を射かけて参りました!射返しますか!?」


「当然だ。弓隊を三方に配置し、応射せよ」


 ジェロームの命令により、帝国軍の弓隊も反撃を開始。これにより、当初は陣形が乱れていた帝国軍も見事に態勢を立て直した。


 そして、帝国軍の本格的な反撃が始まろうかという頃合いで、王国側の弓兵たちは速やかに砦へと撤収。硬く門を閉ざし、守りの態勢に入った。


「ジェローム様、いかがいたしましょうか?」


「出撃する。兵を3隊に分け、小賢しい砦を攻め落とすのだ」


「ですが、それにはこちらの兵数が少ないのでは……」


「それもそうか。であるならば、オレ自ら全軍を率い、南から順に砦を陥落させていくこととしよう。全軍に南の砦に進軍すると伝えて参れ」


 当初の3手に分けての攻撃を中止し、一点集中で砦を一つずつ攻め落とす動きに出たジェローム。この時点で、背水の陣は解消され、死兵は死兵でなくなっていた。


 シリルがいれば、そのことに気づけた。しかし、戦況を俯瞰してみることのできないジェロームだけでは難しかった。


 そうしてジェロームは南へ進軍。さほど距離はないが、ジェローム隊を背水の陣でなくしてしまうことで、わずかでも隙が生じていた。


「者共!総がかりだ!砦を踏み破り、我らが帝国の武を示せ!」


「「おおっ!」」


 総大将であるジェローム自らが砦の間近まで馬を進め、総攻撃の命令を下す。それだけでも、麾下の兵士たちを奮起させるには充分であった。


 ラッセル率いる6千5百のプリスコット領の兵士たちが守備する南側の砦を今日中に陥落させるという意気込みで前進していく。


 戦場の風に深緋色の髪をなびかせ、櫓から攻め寄せる帝国兵を見下ろしていたラッセルの狼煙を合図として砦をめぐる攻防戦の幕が開けた。


 攻め寄せる帝国兵は後方から弓隊が援護射撃を行う間に、槍隊が城へ近づき、門を打ち破るという手法を取った。


 通常、攻城戦において城へ近づく際には、矢を防ぐための盾が必要となる。しかし、濁流で武器庫を破壊されたジェローム隊は、盾を一枚も持ち合わせておらず、矢も今の手持ちのみ。さらには、槍も剣も替えがないという厳しい状況にあった。


 それでもなお、帝国兵たちは必死に砦へ突入せんものと飛んでくる矢をかいくぐりながら前進を続ける。結果、千を超える屍を築きながら槍隊は砦の壁際まで到着。壁といっても木製で、飛んでくる矢は防げても、槍で突かれれば容易に貫通してしまう。


 帝国兵により、壁が貫かれることはラッセルとて百も承知。その前提の下、兵士たちを壁から離れた位置に配置しており、槍で壁が突き破られれば、その隙間から突き返す。


 そうして決死の攻防戦は展開され、まさしく一進一退の様相を呈していた。そこへ、ジェロームの下に一報が届けられる。


「何ッ、敵が渡河を試みているだと!?」


「は、はい!リカルド・セミュラなる者が4千の兵で……」


「4千か。兵種は?弓隊か、槍隊か。それとも騎馬隊か」


「槍隊です。弓兵も騎馬兵もほとんど見当たらないと斥候より報告が」


 リカルド隊4千が渡河を試みている。これを見過ごせば、退路を断たれるばかりでなく、砦攻めの背後を突かれる形となる。だが、ここで砦に背を向け、元の陣地まで引き返せば、砦に立てこもった兵士たちは打って出てくる。


 難しい決断を今、ジェロームは迫られていた。


「やむを得ん。城攻めは中止とする。背後の憂いを断つ必要がある。一度、北へ戻るぞ!」


 ジェロームの下知に従い、砦攻めは中断。リカルド隊を迎撃するべく、北へ、北へ。それを確認し、あえてラッセルは追い討ちを行わなかった。


「ラッセル様、首尾よくいきましたな」


「皆の奮戦のおかげだ。礼を言うぞ。後は、ナターシャ殿のお手並み拝見といこうか」


 そういうラッセルの籠る南側の砦のすぐ東を、粛々と通過していく人馬の姿があった。


「聞きな!あそこにいるのが、帝国の将軍・ジェロームだよ!憎き帝国兵をアタシたちサランジェ族の手で仕留めるよ!」


 かつて、帝国に迫害された過去のあるサランジェ族。その族長であり、サランジェ量の領主でもあるマルグリットの号令で、騎馬民族の猛襲が始まった。


 精鋭騎馬隊と名高いサランジェ族の戦士たちは、ジェローム隊の背後から襲い掛かる。馬を駆けさせながら弓を射てくる戦法に、ジェローム隊の陣形はかき乱される。


 黒旋風のごとく駆け入ってくるサランジェ族の戦士たち。マルグリットの采配もまた見事なもので、実に自らの手足を操るかのごとく、自在に騎兵たちを動かしていた。


 一人一人が精鋭である者たちが、息のあった集団戦法を駆使してくる。もはや迎え撃つジェローム隊の将兵たちには脅威としか映らなかった。


 正面から迎え撃ったとしても厳しかったであろうが、此度は背後からの急襲ということもあり、ジェローム隊は蹂躙されるのみ。


 それでも、ジェロームは退くことを許さなかった。自身、愛用の大剣を振り回し、サランジェ族の戦士数名を一瞬で屠る。


「オレはジェローム・コルテーゼ!腕に覚えのある者はかかって参れ!」


 ジェロームの名を聞き、サランジェ族の戦士たちの眼は獲物を狙う猛獣のように瞳を光らせる。そして、「自分こそがジェロームの首を挙げてみせる!」と意気込み、次々にジェロームへ向かっていく。


 そんな大将首・ジェロームの周囲には、あっという間に血の湖が形成されていった。序盤は押されるばかりであった帝国兵たちも、ジェロームの雄姿に感化され、猛反撃を開始。


 じりじりと帝国兵たちに押され始めるサランジェ族の戦士たち。その様子を見かねた褐色肌の長身女性が、黄土色の髪を勇ましく揺らしながら姿を現す。


「アンタら!こんな相手に怯んでるんじゃないよ!ジェローム以外は雑魚だ!その手に持った得物で仕留めちまいな!」


 そう言い終えるなり、寄ってくる帝国兵を2,3人両断。マルグリットの持つ赤茶色の柄をした斧槍は、帝国兵の血で赤く染め挙げられており、それを見てサランジェ族の戦士たちも負けてなるものかと進んで帝国兵にぶつかっていく。


 双方一進一退の攻防を繰り広げる中、戦姫が戦場に顕現する。ランドレスの旗が戦場に翻り、帝国兵をさらなる動揺が襲う。


「チッ、マルグリットの次はナターシャか……!憎い奴ら、全員まとめて叩き斬ってくれる!」


 烈火のごとき怒りを持って、新たな敵へ対峙せんとするジェローム。しかし、兵士たちが同じように闘志を燃やすとは限らないということを、彼は忘れていた。


「なっ、逃げるな!戦え!戦わんか!くそっ、戻って戦うのだ!」


 ナターシャの手勢が駆け入るまでもなく、ジェローム隊は崩れた。ほぼ同数のマルグリットの部隊相手にようやく持ちこたえていた。ところへ、『漆黒の戦姫』と麾下の兵士らがなだれ込むと分かれば、兵士たちは戦意喪失するのも無理はなかった。

第121話「懸かるも引くも折による」はいかがでしたでしょうか?

今回はついにジェローム隊は総崩れ。

ラッセル、マルグリットの奮戦もこの状況につながる形に。

ナターシャの登場がトドメをさした形になったわけですが、ジェロームの運命やいかに……!?

次回も明日の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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