第120話 風に順いて呼ぶ
どうも、ヌマサンです!
今回はナターシャたちがジェロームとの戦いに備えて、支度を進めていきます。
一体、どんな支度を進めているのか、注目してもらえればと思います……!
それでは、第120話「風に順いて呼ぶ」をお楽しみください!
「ルービン殿。砦の建設作業、ご苦労様です」
「おお、ナターシャ殿直々のご視察とは……!」
「やはり武将として前線の様子は自分の眼で確かめなければ」
「ナターシャ殿は武人の鑑だ。オレも見習いたいものです」
ダレンとのやり取りが終わったナターシャは、目下建設中の砦の視察を開始。建設しているのは、ジェローム隊の東側と南東。そして、南側の計3カ所。
最初に訪れたのは、ルービン率いるフォーセット領の兵士たちが受け持っている東側の砦であった。
「昨日、オレたちフォーセット領の兵士と、ラッセル殿のプリスコット領、アルベルト殿のラローズ領の部隊がそれぞれ砦の建設をすると聞いた時は驚きましたが」
「そうでしたか。ですが、コーテソミルから延々と運んできたものが木材であったのは、こういうわけだったのですよ」
そう、ナターシャたちは元々コーテソミルの復興に必要な木材を運び、砦づくりに当てた。
「砦の作りは、これほど簡易でよろしかったのですか?どうせ作るなら、少しでも守りを堅くしておいた方が……」
「それでは良くないのです。狙いからどうしても逸れてしまう」
「狙い……。もしや、レティシア殿から何か秘策でも?」
「いいえ、考えたのは私です。もちろん、レティシアからの賛同も得ているので、安心して取りかかってください」
計画立案者が目の前におり、参謀もそのことに同意しているのであれば大丈夫だろう。ルービンも腑に落ちたといった様子で、砦づくりの采配を振るい始める。
その様子に安堵し、次は南東のアルベルト隊が建設している砦へ移動するナターシャ。ラローズ領の兵士たちも熱心に木材を運び、設計図通りに組み立てていく。着実に建設が進んでいるのが見て取れる。
「アルベルト殿、順調そうですね」
「はい。ですが、自分一人の力ではありません。みんなが協力してくれるからですよ」
アルベルトの言葉を聞き、心の内には抑えきれず、表情に喜びを表す兵士たち。だが、喜びながらも真面目に砦づくりを続行している。
ギスギスした雰囲気ではなく、明るく皆が嫌な顔一つせずに働いている様子からも、順調に建設が進むのも見て取れた。
「ナターシャ殿、死を覚悟した兵士たちにどのような戦いを挑むおつもりで?」
「単調な手ですが、引っ掛かりそうな策は考えてあります。後ほどダレンに手順をしたためた書状を届けさせます」
「了解しました。書状を読み、その通りに行動するとします」
「お願いしますよ、アルベルト殿。無事に帰って、クロエ殿やシュテフィ殿、生まれてくる我が子に無事な顔を見せてあげてください」
現在、アルベルトの妻であるシュテフィはめでたくご懐妊。その知らせを受けたのは、出陣の2カ月前であり、まだまだ出産予定日は先となる。
だが、我が子が生まれるとあっては、アルベルトもどこか落ち着いていられないといった風があった。
「分かっています。何としてもこの戦いに勝利し、そのうえで生まれてくる我が子を迎えたいものです」
「頼みますよ、アルベルト殿」
ゆったりとした、余裕がある笑みを向けながら、ナターシャはその場を後にする。次なる目的地は、プリスコット領の兵士たちが建設している南側の砦へと向かった。その現場責任者は他でもないラッセル・プリスコットである。
「やぁ、ナターシャ殿。東と南東の砦を視察なされたようで」
「ええ。どこも順調そうで安心しました」
「ルービン殿も、アルベルト殿も歴戦の強者。兵の扱いにも慣れていますから」
「そうですね。そして、ルービン殿、アルベルト殿以上に兵の扱いに長けているのが、他ならぬラッセル殿ですが」
互いに笑みを称えながら話が進んでいく。しかし、その間の空気はどこか張り詰めているようである。
「いやいや、私などまだまだ若輩者。人の扱いなどまだまだ慣れません」
「そう謙遜なさらないでください。すでに南側の砦の建築は済んで、兵士たちも急速に入っているのですから。間違いなく、一番早くに砦を完成させていますよ」
そう。ナターシャが来た時、すでに砦の建築は終わっていた。指示を出した通りの仕上がり。であるのに、この完成の速さ。さすがのナターシャも内心、驚いていたところ。
「ハハハ、そう言ってもらえるとは光栄だ。だが、こうした土木作業は妹のマリナの方が得意で、以前色々と教わったことがありまして」
「なるほど、そうでしたか。内政面で成果を挙げておられるマリナ殿の教えがあったのですか」
「私は策謀を好む小賢しい輩に過ぎません」
「それでも、2人で足らずを補い合っているからこそ、プリスコット領は上手くいっているのです」
ラッセルとマリナ、お互いに足らずを補える兄妹であったことは僥倖というほかない。アランという豪傑を欠いてなお、十分上手くいっているのだから。
「それに、ハワード家との縁談もまとまったと聞き及んでいます。今後ともロベルティ王国のため、助力を願います」
「申すに及ばず。今後ともロベルティ王国の繁栄と平和のため、働かせてもらうつもりだ」
策士と名高いラッセル。敵であった頃は警戒されもしたが、今では心強い味方となっている。ナターシャとラッセルをつなぎとめているのは、今は亡きクライヴの存在であることは言うまでもなかった。
戦がある限り、平和はない。だがしかし、勝利なくして平和は得られない。その平和の先に、真の繁栄がある。
この信念において、ナターシャとラッセルは団結していた。そんな二人が挑むのは、背水の陣を構えるジェローム・コルテーゼ。
戦場に取り残された猛虎との戦いを終えれば、旧ヴォードクラヌ王国領への侵攻が待っている。そして、ダルトワ領の方面からも帝都フランユレールへ向けて進軍。
東と北からの攻撃で帝都を陥落させ、残る南方の国々を屈服させる。これにより、ルノアース大陸の統一は成る。
レティシアはそう語っていた。ナターシャもそれが最高の結末であることに異論はない。そして、策謀家ラッセル・プリスコットも筋書きは読めていたが、あくまでも机上の空論にすぎないと感じていた。
レティシアもそれは分かっているが、今のロベルティ王国にはそれを実現できるだけの力があると信じていた。レティシア以上にそのことを信じて疑わないのが、他でもないナターシャ・ランドレス。
フレーベル帝国の先帝・ルドルフでも成し得なかったルノアース大陸統一の夢。それを帝国ではなく、ロベルティ王国が実現するためにも、このジェロームとの戦いに何としても勝利する必要があった。
「ナターシャ殿」
「何でしょう?」
「必ずや、勝利を」
「ええ、そのためにも共に槍働きをするとしましょう」
勝利を誓いあい、ラッセルと別れたナターシャは本陣へと帰還。ダレンに命じて、モレーノ、マルグリット、リカルドをはじめとする諸将に召集をかけた。
召集に応じて真っ先に駆け付けたのはモレーノ、その次にリカルド、マルグリットが到着。
「ナターシャ、いよいよジェローム隊1万との戦いが始まるんだね」
「そうです。そのための作戦を伝えます。当初、レティシアと練った作戦とは大きく異なってしまいますが……」
ナターシャは地図を広げ、慣れ親しんだ故郷を指し示しながら、考えを口にする。今ならば異論も受け付ける。そう付け加えたが、誰も異論を唱えなかった。
「では、この手順通りに戦を進めるということで、よろしく頼みます」
――いよいよ、ロベルティ王国による虎狩が始まろうとしていた。
第120話「風に順いて呼ぶ」はいかがでしたでしょうか?
今回はルービン、アルベルト、ラッセルがそれぞれの部隊を指揮して砦づくりに勤しんでいました。
その木材を使ってテルクスを救出に行くのではなく、です。
そして、ナターシャが思い描く策が上手く決まるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
次回の更新は3日後、8/17(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!