第116話 緊褌一番
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよアマリアたちが帝国軍相手に仕掛けます!
はたして、奇襲は成功するのか、それとも不首尾に終わるのか。
それでは、第116話「緊褌一番」をお楽しみください!
「コリン、頼むよ」
「分かった分かった。まあ、任せとけって」
次の瞬間。水流を纏う一本の矢がジェロームの陣へと撃ち込まれる。
「何事だっ!」
「どうやら北の方角から矢が……!」
「北だと!?」
陣中へと撃ち込まれた水を纏った矢。紋章の力の賜物か、矢が地面で炸裂したことにより、数十名の死傷者が出ており、陣営内では上を下への大騒ぎ。
――そこへ、4百の決死隊が襲い掛かる。
「今だ!ボクについてきてくれ!」
自ら先頭に立ち、敵陣へ突っ込むアマリア。配下の兵たちを叱咤しながら、哨兵をたちどころに斬り捨てる。
大将自らの突撃に、配下の一兵卒までもが奮起。我先に敵陣へと斬り込んでゆく。その勢いに押され、瞬く間に帝国軍は屍の山を築いた。
そんな乱戦の中、帝国軍の陣地内の松明が倒れ、着火。たちまち燃え広がり、あちらこちらでも火の手が上がり始めた。
敵襲に加えて、火の手まで上がり、帝国兵はますます混乱に陥る。
「よし、これだけ暴れればいいか。みんな!撤退するよ!」
帝国軍が混乱状態にある間に、4百の手勢を呼び集め、颯爽と帝国軍の陣地を後にした。
「アマリア、上手くいったみたいだな」
「コリンも見張り役、ご苦労様でした。近づいてくる隊は……」
「ない。今のところはな。とりあえず、今は迅速に退いた方がいい」
コリンの意見に、アマリアも同感だった。そのまま森の中へと駆け込み、北から迂回する形でテルクスへの撤退を開始。
その迅速な撤退に、騒ぎを聞きつけて駆けつけたジェロームも驚かされた。だが、そこで指をくわえて黙っているようなジェロームではない。
「全軍に通達。逃げる奇襲部隊を追撃する。これだけのことをして、生きて帰れると思うなよ……!」
これだけ、陣地が焼かれ、大勢の将兵が斬り殺されておきながら無傷で返したなど、ジェロームの矜持が許さなかった。
すぐに動ける部隊だけを招集し、追撃を開始。その数、およそ7千。7千の兵士が一つの黒い塊となり、アマリアたちの逃げ去った森へと突入していく。
「今よっ!」
ジェロームたちが森の中心部まで駆け入ったところ、森の東部で待機するアレーヌ率いるヴォードクラヌ兵から次々と火矢が放たれた。
次々に樹木に突き立つ火矢により、あちこちから火柱が上がり、黒い煙が一帯に立ち込める。
「しまった……!火攻めだっ!全軍、森から出るぞ!本陣まで下がれ!撤退するのだ!」
ジェロームは大慌てで撤退命令を下す。しかし、時すでに遅しであった。火の粉が降り注ぎ、黒煙が立ち込める中、冷静な判断を下せる兵士は少なかった。
逃げ惑うばかりで後退すらまともにできない有様。ジェロームが馬を走らせながら戻れば、その途上で数えきれないほどの兵卒を跳ね飛ばしてしまう。
右往左往する中、ジェロームの服の袖についた火の粉を払った。そうしている間に、バリバリと音を立てて燃え盛る樹木が倒れていく。このままじっとしていては自分が倒れてくる木の下敷きになってしまう恐れすらある。
だが、無理に進めば部下たちの命も危ない。しかし、何もせずとも自身もろとも灰と化す。
「ゴホッゴホッ……」
「将軍!煙を……!」
「ああ、ひとまず馬を降りる。騎乗していては煙を吸いやすい」
ジェロームの判断は正しかった。まずは下馬し、近くを流れる川に焦点を合わせると、速やかに指示を出した。
「皆の者!川沿いに移動するのだ!このまま森にいては焼け死ぬだけだ!森を抜けること、それを最優先にしろ!」
そう言い終えるなり、愛馬を背負って川の方へと真っ先に駆けだす。近くにいた部下たちも後に続き、それを見た者たちも我も我もと足を速める。
ジェロームの行動を契機に、ジェローム隊は森の中を流れる川に沿って下流の方向へと脱出を開始。道中、倒れてきた樹木の下敷きになる者なども出たが、半数近くは焔の森を逃れることに成功した。
「ジェローム様、ここからどうするので?」
「こっちは森の南側のようだ。このまま西へ戻れば本営に戻れるはずだ。急ぐぞ」
「ハッ、承知しました!全軍、西へ進むのだ!本営まで帰還するぞ!」
側近がそう下知した刹那、一本の矢が飛来し、肉片となって消えた。必然的に矢が飛んできたと思われる方へ、視線が集中する。
「帝国の犬畜生どもめ、ざまあみろ!人がせっかく墓を用意してやったのに、出てきてしまったのか!大人しく焼け死んでおけば、このオレが骨くらいは拾ってやったのにな!何なら今からでも遅くないぞ!」
矢を放った人物――コリン・ヒメネスから浴びせられる罵声。それに続くように、周りにいたロベルティ王国兵からどっと笑いが起きる。
「おのれっ……!今すぐ首を叩き落としてやる!」
「待て」
「ジェローム様!?なぜです、なぜお止めになるのですか……!」
「敵が挑発しているのが分からんのか。これで挑発に乗って攻撃を仕掛ければ、せっかく助かった命を無駄にすることになる。それこそ犬死だ」
さすがのジェロームも挑発には乗らなかった。颯爽と本営へと移動していく。彼に付き従う帝国兵たちはコリンに向かっていくことはせず、矢と罵声をかけるに留まった。
「ちぇっ、つまらん」
「コリン、いい加減にしろ。そろそろテルクスへ帰還しなければ」
「分かってるよ」
挑発のために飛び出していったコリンもアマリアに連れ戻される形で、テルクスへと帰還。アマリア隊4百が撤収していく間も、ジェローム隊が本当に本営へ引き上げていくか、静かに見守っていたアレーヌ隊もその日のうちに撤退を完了させた。
「アレーヌ、遅くまでご苦労様だったな」
「あら、コリンが余計な挑発をしなければ、もう少し早く帰れたのだけれど」
「うるせぇ、そんなこと知るか」
ヴォードクラヌ王国にいた2人が軽くケンカをし始めるが、斬り合いになるというほど仲が悪いわけでもないため、アマリアは見守ることに徹していた。
そこへ、2人の人物が顔を出す。一人は元ヴォードクラヌ王国の国王であるルイス。もう一人は籠城の支度を進めているユリアだ。
「奇襲は成功裏に終わったようで何よりだ」
「なんとか成功はしましたが、まだまだ油断はできません。むしろ、戦はこれからといってもいい」
「そうだな。アマリア殿、アレーヌは有能だ。存分に使い倒してくれ」
「もちろんです。采配の鮮やかさ、この度の奇襲の間だけでも実感しました。ルイス殿のお言葉に甘えて、アレーヌ殿を使い倒させていただきます」
アマリアもルイスも、双方にこやかであった。しかし、使い倒される側であるアレーヌはどう反応すればよいのやら、困っているといった表情を浮かべる。
「……アマリア、籠城の支度も整った。食料や武器の貯蓄から計算すると、3カ月は大丈夫そう」
「3カ月……」
3カ月。短いような、長いような不思議な感覚に襲われる。この度の奇襲と森での火計で3千数百を倒したものの、依然として帝国軍は10万を超える大軍。
対して、テルクスに集まった兵士は1万6千。住民を含めれば32万人にもなるテルクス。だが、昨年は近年稀に見る豊作だったこともあり、食糧事情はかなり良かったのも幸いしている。
また、ルグラン領の北部と東部に2千5百ずつ、南部に3千人近い兵が駐屯している。アマリアはそちらにも指示を出し、指定した砦に固まって防備を固めるように伝えている。
――この状況でいつまで持ちこたえられるのか。
アマリアをはじめ、多くの者が緊張と不安に襲われていた。
第116話「緊褌一番」はいかがでしたでしょうか?
今回はアマリアたちの奇襲は火攻めも合わせて成功という形に。
とはいえ、まだまだ帝国軍は大軍。
そんな大軍相手にアマリアがどこまでやれるのか、見守っていただければ幸いです……!
次回も明日の9時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!