第115話 雲を霞
どうも、ヌマサンです!
今回はアマリアが奇襲を仕掛けようとしているところから始まります。
はたして、アレーヌ率いるヴォードクラヌ兵も奇襲に加えるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第115話「雲を霞」をお楽しみください!
「ヴォードクラヌ兵3千ですか」
「ええ。必ず役に立つわ」
アレーヌにそう言われてなお、アマリアには迷いがあった。ロベルティ王国兵とヴォードクラヌ兵、同じ旗の下で戦うことができるのか――と。
「オレは反対だ。統率が乱れるだけだ。それに奇襲は少ない方がいい」
「そうだな。奇襲はボクたちだけで行く」
「そんな……!」
コリンの言葉に便乗するようなアマリアの言葉に、やりきれないといった表情を見せるアレーヌ。口惜し気に唇を噛む姿が見るに堪えない。しかし、次のアマリアの一言で表情は一変する。
「アレーヌ殿には、ボクたちの後に続いてもらう」
アレーヌの目に光が戻る。だが、後に続いてもらうとはどういうことなのか。そんな疑問が次の瞬間には浮かんでいた。
「何か考えがあるみたいだな。アマリア・ルグラン」
「もちろんだ。無策でついてきてくれと言ったつもりはないよ」
コリン、アレーヌの両名はアマリアの考えを聞き、納得がいった。言葉の意味も、作戦の意図も。
「よし、いっちょやるか」
「久しぶりに大暴れさせてもらうわ」
「期待しているよ、2人とも」
こうしてテルクスで作戦が決まった頃、キバリス渓谷を抜けた帝国軍の先鋒部隊ががキバリス平原に突入していた。
「ジェローム様、今回も快勝ですな」
「ああ、渓谷にあった砦も一つ残らず攻め落とした」
「あの守備兵たちの断末魔、耳から離れやせんぜ……」
「戦とは無情なものだ。勝てばよいが、負ければ悲惨なものだ」
そばに控える兵士たちと軽く言葉をかわすジェローム。先鋒部隊4万9千はほぼ無傷でキバリス渓谷を突破。道中の砦3つを攻め落とし、3百近い兵士を討ち取っている。
「このままいけば、3日でテルクスに着くらしいですぜ」
「そうか、3日か。ならば、4日の後にはテルクスに帝国の旗を翻すつもりで臨もうぞ」
「ハハッ!それではただちに出発を?」
「いや、2時間ほどの休息をとる」
帝国軍は渓谷を抜けるまで、進む足を止めずに来ている。ここで、一息つかなければ兵士たちの体が持たない。ジェロームはそう判断した。
そして、休息を取ったのち、帝国軍がテルクスに向けて進軍しようとした時。キバリス平原のあちこちから、黒煙が上がり始めたのだ。
「あの煙は何だ?狼煙ではないようだが……」
「見てまいります」
「よし、黒煙の数だけ……5つの小隊を編成。黒煙の上がっているところで何があったのか、物見をしてくるのだ」
ジェロームの命令で急遽編成された5小隊は、それぞれ黒煙の方へと向かっていく。
しばらくして帰還した小隊の兵士たちからの報告を聞き、さすがのジェロームも驚いた。
「何?砦に火をかけて撤退していった?」
「はい。我々が到着した時には、敵影は見当たらず……」
ジェロームたちが休息を取っている間に、アマリアの命令を受けた早馬がテルクスを発ち、キバリス平原にある砦に到着していたのだ。
伝令兵たちの働きもあり、砦を守る部将たちは砦に火をかけ、東にあるテルクスまで大人しく下がったのだ。
この状況下で独断専行する者は一人もおらず、皆が大人しく命令に服しているところに、統率力の高さがうかがえる。
そして、今も新しく上がり続ける黒煙は、砦を帝国軍に使用させないための措置。何より、守る個所を限定する判断の迅速さに、ジェロームは驚かされているのだ。
「オレたちが休息を取っている間に、こんな手を打ってくるとは予想外だったが、砦を潰していく手間が省けたと思えば、むしろ有難い。全軍に通達!これより進軍を再開する!目標はテルクスだ!」
「「「「「おおっ!」」」」」
アマリアたちの行動が迅速であれば、ジェローム率いる帝国軍の動きも実に素早かった。一気にテルクスまで陣を進めるべく、東進を開始したのだ。
砦を焼き捨て逃げていくロベルティ王国兵を追うこともなく、追い込み漁でもするかのように、じわりじわりと進軍していく様は、かえって気味が悪かった。
ジェローム率いる4万9千の帝国軍が東進を開始した日の夜。ようやくシリル率いる5万6千もキバリス渓谷を抜け、全軍がキバリス平原に侵入したところであった。
「シリル様、ジェローム様率いる先鋒部隊は着々と東へ進軍中。道中のロベルティ王国兵どもは我らに恐れをなし、砦に火をかけ、逃げ去っていったとのことです」
「フッ、それもそうだろう。この10万という数を目にすれば、逃げたくもなる。これより数日の後には我らの支配下となる地だ。くれぐれも略奪はしないよう、兵士らにも通達しておくんだ」
「ハッ、承知しました。略奪を行なった場合は軍法に則り、打ち首ですか?」
「それだけでなく、略奪を行なった兵士の属する部隊の隊長もだ。部下の監督不行き届きということでな」
シリルは帝国軍の将軍の中でも、一二を争うほど軍法に厳しいことで有名であった。
そのシリルは打ち首にすると言えば、情状酌量の余地があろうとなかろうと打ち首にする。法を破った者に対しての厳格な姿勢で、シリル率いる部隊は統率が取れていた。
シリルとは対照的にジェロームはさほど軍法に厳しくはなかった。どちらかといえば、親しみやすさや頼りがいがあるといった点で兵士たちから慕われているといったところ。
――そんなジェローム率いる先鋒部隊の側に、4百の影が忍び寄っているとは、この時、誰も予想だにしていなかった。
そんなルグラン領から遠く離れた王都コーテソミルに、帝国軍10万が侵攻を開始したとの一報がもたらされるのは、アマリアたちが奇襲を仕掛けようとしている瞬間から、丸一日経った頃。
「帝国軍がルグラン領に……!?」
「ハッ、アマリア様から援軍要請が入っております」
「分かりました。アマリアには必ず援軍に向かうとだけ伝えてもらえますか」
「承知しました。援軍の数や時期については――」
――援軍の数や時期は今のところ不明。判明次第、連絡はする。
報告を受けた時点では、ナターシャにとって精いっぱいの答え。
しかし、ナターシャの動きもまた迅速であった。女王マリアナのいる王城へ登城。大至急、面会の申し入れを行なった。
これに対し、マリアナもすぐに面会を了承。ナターシャはマリアナと面会することができたのだった。
「ナターシャ、アマリアからの援軍要請が入ったわ」
「存じています。私としては身一つで向かいたいところではありますが……」
「ええ、いくらなんでも一人は無茶だものね。とはいえ、援軍の編成には時間がかかるわ」
時間がかかる。マリアナはそう言った。つまり、送る意思はあり、兵数や物資の補給なども目途が立たないとは言っていないのだ。
ナターシャはマリアナに畳みかける。援軍の大将には自分を、と。幼き頃より苦楽を共にしてきた間柄であるアマリアを助けるのは自分だと必死に訴えた。
「分かっているわ。大軍の指揮を執れるのはナターシャ、あなたしか居ないわ。それに、プリスコット領主であるラッセル・プリスコットからも援軍に向かわせてほしいと書状が届いたばかりよ」
「ラッセル殿が……!」
「プリスコット領の兵士6千5百、いつでも出陣できる。迎えと言われれば、すぐにでも動かせるって」
ルグラン領以外でダルトワ領侵攻に加わっていない、プリスコット領の部隊。それ以外にどれだけの数が集められるか。
――そこに戦の命運がかかっている。
ナターシャは腹をくくり、マリアナの命令を受け、すぐにも支度を始めるのであった。
第115話「雲を霞」はいかがでしたでしょうか?
今回はアマリアたちが奇襲を仕掛けようと作戦を打ち合わせ、対する帝国軍が続々とキバリス平原に侵入してきているという話でした。
アマリアたちの奇襲策はどうなるのか、ナターシャは援軍を率いて駆けつけられるのか。
これからの展開を楽しみにしていてもらえればと思います……!
次回も明日の8時に更新しますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!