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第113話 堅白同異の弁

どうも、ヌマサンです!

今回でリカルドとクレアの話も一段落します。

一体、どういう形で落ち着くのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第113話「堅白同異の弁」をお楽しみください!

 リカルドからクレアへの結婚の申し入れがあった翌朝。


 茶髪のポニーテールを揺らしながら、リカルドを探すクレアの姿があった。


「レティシア……!」


「あれ?クレア、こんな朝早くにどうしたの?」


「あの、リカルド殿下を見かけなかった……?」


 息を切らし、汗が頬を伝い、地面へと落ちていく。そんなクレアの様子に、レティシアは驚いた。が、こうまで焦る何かがあるのだと察し、つい先ほどリカルドに会った方角を指さす。


「あっちでさっき会ったよ。今日中に王都コーテソミルに戻らないといけないって言ってたけど」


「分かりました。ありがとうございます……!」


「あっ、ちょっと……」


 クレアは礼を言い終えるなり駆けだす。リカルドへの返事を伝えるために。


 そして、その様子を不思議に思ったレティシアは宿舎へ戻り、ナターシャに何かしらないか聞いてみることにしたのだった。


 そうしてレティシアと別れたクレアは、馬にまたがり、一鞭当てて王都へ走ろうとしているリカルドの姿を見つけた。


「殿下!」


「おっ、クレアか。殿下なんて堅苦しい呼び方はしないでくれよ」


 そんなことを言いながら、下馬し、クレアを迎えるリカルド。そして、胸元に飛び込む……ようなロマンティックな展開にはならず、クレアは手前で足を止めた。


「大事なお話があります……っ!昨日のことで……」


「分かった。まずは落ち着いて。水でも飲むかい?ああ、口は付けてないから、気にしないで」


 汗だくになって自分を追いかけてきた女性に対し、リカルドは水筒を差し出す。もともとは自分が帰路で飲むつもりだった物だ。


 最初は遠慮していたクレアだが、リカルドが心配そうなまなざしを向けていることもあり、気を使わせてしまったという気持ちで差し出されたものを受け取る。


「少しは落ち着いたかな?」


「はい。おかげさまで」


「それなら良かった」


「それで、昨日のお返事を……しに来ました」


 意を決したという表情。そして、眼に宿る真剣さ。そうした真面目な姿から、リカルドは彼女が彼女なりに考え、答えを出そうとしてくれているのだと感じた。


「まず、結婚の申し入れについてはお断りさせてください」


 クレアから伝えられた予想外の言葉に、びっくりして声を上げそうになるが、グッとこらえ、何でもないような様子で応対した。


「そうか。オレのような誠実さのカケラもないような人間からのプロポーズは……」


「いえ、アタシのような者には身に余る光栄です」


「身に余る光栄……か。具体的にはどういったことが身に余ったのか、聞いてもいいか?」


 クレアの言葉に、リカルドは食いついた。それもそのはず。断られるにせよ、理由がリカルドには思いもつかなかったことだったからだ。


 ふざけている様子はなく、真剣なまなざしとともに見つめられ、クレアは話すことを決める。


「アタシはカスタルド家の娘だ」


「それは知っている……が、重要なのはそこじゃなさそうだな」


「そう。娘と言っても、父・モレーノとは血は繋がっていないし、養女として迎えられた身だ」


「養女……か。でも、今の世の中、養子縁組なんて珍しくもなんともないだろう」


 そう。リカルドの言うとおり、ロベルティ王国、フレーベル帝国、ヴォードクラヌ王国。どこの国でも、王侯貴族であろうとなかろうと、養子を迎える、養女を迎えるといったことは珍しい風習でも何でもない。


 それゆえに、気にすることではない。そう、リカルドは言っているのだ。


「それにな、クレア。オレはカスタルド家の縁者になりたいから、クレアに結婚を申し込んだわけではない。オレは純粋に君に惚れているから、その想いを伝えたまでだ」


 リカルドの『純粋に君に惚れている』という言葉に、クレアは顔ばかりか、胸の奥まで熱くなるような感覚を覚える。


 しかし、それでもなお心のモヤは、相応しくないという思いは晴れることがなかった。


「アタシは由緒正しい家柄の生まれではなく、平民で、孤児で……!」


 そう口にするクレアは涙を流す。それはもう、堰き止めていたものが決壊し、あふれ出すかのように。


 そんな彼女を優しい温もりが包み込む。


「クレア。そう、生まれを蔑むことはない」


「生まれを蔑む……」


 クレアは平民であり、孤児。己の出自を悪く言う、つまり蔑んでいる。自分は貴族に養女として迎えられたが、元をたどれば平民の娘であり、孤児なのだ。


 己の出自を誰よりも蔑んでいる心が、相応しくないと考えてしまう思いにも、今の涙の根底にあるのだ。そのことをリカルドから言われて、気づかされた。


「オレも帝国ではセミュラ王家の人間ということで、亡国の皇子だの、死にぞこないだの、それはもうヒドイ言われようだった。冷たい態度を取られることなど、数えきれないほどある」


「それはさぞ辛かったでしょう?」


「いや、辛くはなかった。だが、そういった言葉を投げかけられて、心のどこかで自身の出自を蔑む、己がいることが辛かった」


「辛かったのは、自分の出自を他ならぬ自身が蔑んでいること――」


 リカルドの過去。そして、思いを聞いたクレアは、自分がどれだけ自分を苦しめ続けてきたのか、思い知らされる心地がした。


「クレア。これ以上、自分の出自を蔑み、自分の心を苦しめてはいけない。もっと自分自身を大切にしなければ」


「……はい」


「それに、相応しくないだなんて、誰が決めた?自分自身じゃないか。他人にどれだけ蔑まれても、自分で自分を蔑むようなことはしてはいけないんだ」


 ここまでリカルドに言われてしまっては、クレアは答えを出さずにはいられなかった。


 想いを伝えるべく、膝をついて泣き崩れていた体勢から立ち直る。そして、目と目を合わせ、噓偽りのない、何物にも縛られない、答えを出した。


「リカルド・セミュラ殿下。お伝えしなければならないことがあります」


「聞こう。クレア・カスタルド。君自身が導き出した答えを」


「アタシは殿下からの結婚の申し出を受けたいと思います。ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」


 ここに、リカルドからの結婚の申し入れはクレアに受けいれられた。


 クレアは少し恥ずかしそうにしていた一方で、OKが出たということでリカルドは浮かれていた。


 あまりに上機嫌であるためか、周りが見えておらず、王都コーテソミルまでの帰り道で落馬してしまうのではないか。


 そんな心配をしてしまうほど、危なっかしさがあった。


 クレアに心配されてしまうようなリカルドだが、杞憂に終わる。無事に王都コーテソミルへと生還したリカルドは、すぐさまクレア・カスタルドとの婚姻成立を発表。


『まさか、リカルドとクレアが……!?』


 そんな驚きの一方が王都中を駆け巡る。


 一方、港湾都市ケルビアに滞在中のナターシャとレティシアには、クレアの口から直接知らせられることとなった。


「そ、それでリカルドからの申し出を受けたのですか……!?」


「そうだけど……」


 レティシアは「良かったね」と素直に祝福の言葉を贈る。だが、ナターシャはクレアがリカルドからの申し出を受けた。つまり、夫婦となる現実を信じられず、思考が追い付かない状態に陥っていた。


「く、クレア。まずはおめでとう。驚きのあまり伝えるのが遅れましたが」


 やっとの思いで紡いだ言葉が「おめでとう」であった。ナターシャが現実を受け入れるのに、時間がかかる。


 ……と、思いきや、数日で落ち着きを取り戻すことができたのであった。

第113話「堅白同異の弁」はいかがでしたでしょうか?

今回はクレアとリカルドの婚姻が成立。

クレアの負の感情も区切りがついたわけですが、その時のリカルドの対応や言葉が印象に残った方も多いかもしれないですね。

ともあれ、今後も2人を見守っていてもらえると嬉しいです!

次回の更新は3日後、7/27(木)の9時になりますので、お楽しみに!

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