第112話 恋に上下の隔てなし
どうも、ヌマサンです!
今回は恋に関することで一波乱あります!
一体、どんなことが起こるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第112話「恋に上下の隔てなし」をお楽しみください!
「それじゃあ、私は帰る」
「ええ、アメリア殿も道中お気をつけて」
ナターシャの武勇伝をクレアが語った夜も明け、アメリアは一度レミアムへと帰ることとなった。
レミアムは、かつてフォーセット王国の王都であった都市。今はフォーセット領の中心都市となっており、クリスティーヌもレミアムにて政務を行なっている。
昨晩遅くから降り始めた雨は朝になっても止まず、その日は帰るのを取りやめてはどうかとナターシャが提案するも、アメリアは受けなかった。どうしても戻ってやらねばならない仕事があると言ってきかないのだ。
そんなわけで、雨の中帰路についたアメリアを見送るべく、ナターシャとレティシア、クレアの3名はアメリアの宿舎を訪れたのであった。
「雨も降ってるし、見送りはここまでで」
さすがに雨の中、ナターシャたち王国の重臣に見送ってもらうのは気が引けたのだろう。だから、アメリアは「見送りは軒先まででいい」と身振り手振りも交えていったのだ。
さすがに見送られる側のアメリアに言われたとあっては、ナターシャたちも受け入れざるを得ず、軒先で別れるにとどめた。
3人に一礼してから馬車に乗ったアメリア。彼女を乗せ、ぬかるんだ道を進んで行く馬車を見送った後、3人は自分たちの宿舎へと戻ることに。
だが、そこには意外な来客があった。
「おお、3人とも外にいたのか!」
「リカルド?どうしてここに……」
「ここに来たのは用事があるからなんだが、仕事じゃねぇ」
「仕事ではないけど、用事はある……ですか」
要するに、私用である。
それはともかく、雨に濡れたリカルドをそのままにしておくわけにはいかないと、宿舎で着替えてもらい、それから話を聞くこととした。
「お、3人とも待たせたな」
半裸で現れたリカルドは、ナターシャたちに文句を言わせる暇も与えず、どかっと椅子に腰かける。
こうなっては、今さら上に何か羽織って来いとも言いづらく、やむなくリカルドの話とやらを聞くことになってしまった。
「それで、話というのは?」
「ああ、話があるのはクレアに、だ。ナターシャとレティシアには見届け人になってほしいんだよ」
見届け人がいるような、大事な話。それは一体何なのか。
ナターシャもレティシアも思考を巡らせるが、まったく答えが浮かんでこない。
そうしてナターシャとレティシアの両名が考え込んでいる間に、リカルドは立ち上がり、クレアに息がかかりそうな距離にまで近づいた。
「クレア、オレと結婚してくれ」
「……へっ?」
唐突な結婚の申し入れに、クレアだけでなく、その場にいたナターシャとレティシアも体の動きだけでなく、思考までも停止してしまう。
……が、あくまでも一瞬だけ。すぐにリカルドの本心を探り始めた。
「リカルド、クレアに対して今なんて言ったのかしら?」
「ん?結婚してくれと言っただけだが」
「やはり聞き間違いではありませんでしたか……」
先ほどのリカルドの発言が聞き間違いではないと再確認したナターシャ。次は、どうしてクレアに結婚を申し入れたか、その真意を問いただし始める。
「そもそも、どうしてクレアなのです?私は一番そこが気になるのですが……」
「クレアが手際よく仕事をこなす姿を見て美しいと思ったからだ」
「確かにクレアは仕事も早いうえに丁寧ですし、あなたのような野蛮人が思わずプロポーズしてしまうほど容姿も整っているので、分からなくもありませんが……」
ナターシャもクレアの仕事ぶりには感心しているが、それが美しいからとプロポーズすることにどうつながるのか、理解することができずにいた。
何より、サラッとリカルドをディスっていく辛辣さに、レティシアはナターシャの心情を垣間見たような気分であった。
「サラッと野蛮人とか言われたような気もするが、今はどうでもいい。オレが聞きたいのはクレアの返事だけだからな」
「それで、クレア?返事はどうするつもりですか?」
詰め寄るリカルドとナターシャ。詰め寄られるクレアはといえば、居たたまれないといった表情を浮かべていた。
そのクレアの表情を見たレティシアから、ここで助け船が出される。
「まあまあ、リカルドもナターシャも落ち着きなよ。クレアが困ってる」
「だが、オレはどうしても返事が早く聞きたいんだ」
「そんなに返事を急くようじゃ、フラれるよ」
最後のレティシアの言葉は、リカルドの心を大いに動かした。レティシアが発した『フラれる』という言葉が耳に飛び込んだ次の瞬間、リカルドは何事もなかったようにソファに腰掛けていたのだ。
「よし。返事はまた機会にしよう。レティシアが言うには、返事を急くとフラれるらしいからな」
そう言い残し、リカルドは部屋を去っていった。不意に現れたかと思えば、すぐに居なくなる。それがリカルドという男。
「クレア、返事はゆっくり考えなさい」
「そ、そうするわ。今は思考がまとまらないの」
「でしょうね。いきなり結婚を申し込まれたとあっては、誰だってそうなるわ」
クレアは迷っていた。リカルドからの結婚の申し入れ。真っ先に来たのは驚きの感情だった。
その日は解散という形になり、クレアは部屋に戻る。普段はポニーテールにして束ねている髪をほどき、ベッドへ後ろ向きにダイブした。
「まさかアタシが結婚してくれ……なんて言われる日が来るなんて」
カスタルドの家は代々ランドレス家の家臣。それがナターシャの推薦で、自分は商務大臣、養父・モレーノは近衛兵長という立場に出世した。
「ましてやアタシは……」
カスタルドの人間ですらない。そんな言葉が続けて溢れてくる。元はと言えば、クレア自身、戦争孤児にすぎなかった。
父を戦争で失い、母も女手一人で自分を育てようと働き過ぎて体を壊してしまった。両親ともに墓の下の骨と化し、孤児院へ引き取られることになった。
――こんな人生に何の意味があるの?お父さん、お母さんに会いたいよ。
自分だけが残され、生きる気力を失ったクレアは孤児院では一人、寂しそうに隅っこにうずくまっているだけ。
「嬢ちゃん。悲しそうな顔をしているが、どうかしたのかい」
そこで出会ったのが、モレーノだった。片目で怖そうなおじさんだが、大丈夫な気がする。
そう思い、クレアは心中を吐露した。
「院長、この子を私の家に引き取りたい」
「よ、よろしいので?」
「ああ。何かこの子は幸福を運んできてくれそうな気がする」
その日からクレアはカスタルド家の娘となった。モレーノの家には赤ん坊が一人いた。それがダレンだった。
ダレンの母は出産の際に出血が止まらず、それがもとで病気になってしまい、亡くなってしまっていた。
そのことを子どもながらに理解したクレアは、姉としてダレンに接し、カスタルドの娘としてここまでやって来た。
「もともとアタシは孤児で、ただの平民。なのに――」
『手際よく仕事をこなす姿を見て美しいと思ったからだ』
自身の出生を振り返れば、マリアナの母方の従兄にあたるリカルドとは不釣り合い。そう思えてならなかった。
「断ろう。自分ではあの人とは釣り合わない。第一、美しいと言っても、アタシが元は孤児だと知れば諦める」
クレアは決断した。己の仕事ぶりを美しいと評した、リカルドからの結婚の申し入れを。
王族に列なる高潔な身分の者と平民出身の自分では不釣り合いだ、リカルドが惚れたのは商務大臣として職務をこなしているアタシだから、と言い訳をついて。
第112話「恋に上下の隔てなし」はいかがでしたでしょうか?
今回はまさかのリカルドからクレアへの求婚が……!
そして、クレアの過去も明らかになったわけですが、いかがでしたか?
身分違いであることを理由に断ろうとするクレア。
クレアの返事を聞いて、リカルドが何を思うのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
更新は3日後、7/24(月)の9時になりますので、お楽しみに!