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第110話 捲土重来

どうも、ヌマサンです!

今回はナターシャとレティシアが撤退した後の、ダルトワ領の話。

一体、帝国とロベルティ王国の双方でどのような動きがみられるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第110話「捲土重来」をお楽しみください!

「それは本当なの?ナターシャとレティシアが王都コーテソミルへ戻ったというのは」


「はい、斥候の調べによれば……ですが」


 両者痛み分けとなった戦い。その直後に総帥であるナターシャと参謀のレティシアが北へ帰っていった。


 この好機を逃さずヌティス城へと東進、奪還すべきなのではないか。もしかすると、敵の罠なのではないか。


 カルロッタの脳内では、好機だという捉え方と敵の策略という可能性の双方が争う状況に陥っていた。ミルカはあくまでも慎重論で、今は動かず力を蓄えるべきだと主張。一方のジュリアはすぐにでも攻め返し、ヌティス城を奪還すべきだという。


「ここはミルカの言う通り、力を蓄えるべき時。それに、ジュリアも負傷した傷が癒えていないし、ここまでの激戦で兵士たちも疲れている。ここは精気を養うべきだわ」


「私自身の負傷を言われると返す言葉もないですね……。分かりました、ここは傷を癒やし、後日再戦ということで」


「決まりね」


 上層部の会議の末、カルロッタたちは今いるトリテルテアを中心に、英気を養うこととした。


 一方、ナターシャとレティシアを始め、ダルトワ領東部から撤退した兵数は相当な数であった。


「叔父上、残った兵数は……」


「1万9千といったところだ。対して、カルロッタ率いる帝国軍は2万6千。敵は俺たちの1.3倍だ。野戦で勝つのは難しいだろうな」


「であれば、ナターシャ殿たちの撤退をお許しになったのはどういうわけでござるか……!」


「まぁ、落ち着け。ノーマン」


 焦りから感情的になるノーマンをなだめるトラヴィス。ノーマンは父を先の戦いで失ったばかり。だからこそ、帝国軍を放置しておくことが恐ろしく思えてくるのだろう。


 トラヴィスもそれは分かっていたが、今は東部の足場固めこそ肝要。そのことをノーマンに何度も語った。


 なにせ、足場が脆いと戦どころではないのだから。そのことをノーマンも受け入れ、ハロルドとエルマーの両名もまじえて、今後の方策を語り合う。


「ハロルド、エルマー。ダルトワ領の不穏分子をどう片付けるか……」


「恐れながら、トラヴィス将軍。不穏分子そのものは問題ではありません」


「そのものは問題ではない?それはどういうことだ」


「不穏分子はレティシア殿が去り際に始末していかれたぞ。なんでも、今後のために親睦を深めたいとかなんとかで呼び集めて」


「まさか、宴会の場で……」


 トラヴィスの言う、そのまさかであった。レティシアはダルトワ領の北部から東部にかけての領主たちに『敵意ないことを示したければ、宴会の場に参集されたし』と事前に書状を送っていた。


「そこに手練れを突入させて討ち取ったということだな」


「いいや、それは違う。ロベルティ王国の者は一切手出ししていない」


「手出しして……いない?」


 トラヴィスがハロルドから詳しく聞いてみれば、想像していた以上に恐ろしいことが行なわれていた。


 集めた者はみな、帝国の領主である。だが、一枚岩ではなかった。昔から領地の境界線をめぐって争っている者、家督相続でどちらも当主だと言い張り出席した兄弟、かつて鉱山の所有をめぐって他の領主に父を殺された子。


 そうした帝国の領主たちが抱える恨みつらみ、現在も発生している所領をめぐっての争いをレティシアは調べ上げた。


 そのうえで、仲の悪い者どうしの席を隣り合わせる。父母の仇を望む若き領主と、その領主の父母を殺した領主が、相続でいがみ合う兄弟が、領地の境界をめぐって争う領主同士が隣りの席にいる宴会。


 レティシアは言った、親睦を深める宴会なのだと。だから、仲の悪い者たちを隣り合わせ、話がしやすいようにしたのだ、と。


 ――待っていたのは地獄だった。レティシアにより利用された人間のどす黒い闇。


 レティシアが宴会の10日以上前から流した噂。誰が誰を宴会の場で殺そうとしているなど、そういった内容であった。


 結果、すべてが疑わしく思えてくる疑心暗鬼に陥った領主たちにより、惨劇が行なわれたというわけだった。


「レティシア殿も恐ろしいことをする。領主同士潰し合わせた……というわけか」


「その通りです。ましてや、レティシア殿は自分が主催した宴会を台無しされたと被害者ぶっているのですから、あの人は恐ろしい」


「ふっ、それは恐ろしい。誰の目から見ても……な」


 歴戦の猛者であり、幾たびも死線をくぐり抜けてきたトラヴィスであったが、今回のレティシアの行なった惨劇には身の毛もよだつ思いがした。


「……ハロルド殿、その宴会とやらの結果、領主たちはどうなったのでござるか?」


「俺……私の聞く限りでは――」


 ハロルド・マクミランが語るには。領地の境界線をめぐる争いは双方の領主が宴会の場で死亡。息子たちの代になった今は境界線をめぐって戦争の真っ最中。


 相続でいがみ合う兄弟は兄が弟を討ったことで、兄が正式に当主となった。しかし、領地に戻るなり、弟を支持していた一派の襲撃に遭い、死去。兄弟が揃って亡くなった今も、領内では家臣同士の争いが続いている。


 父母を殺され敵討ちを狙う若き領主は仇討ちを成し遂げ、仇の領主の所領を奪取すべく侵攻の最中。


「なんというか、不穏分子を始末したことで、あちこちで紛争が勃発しているわけでござるな」


「だから、後始末だけお願いしたい。それをトラヴィス将軍に伝えてほしいと言伝を預かっています」


「レティシア殿の伝言、しかと承った。だが、どうして俺に直接伝えなかったんだ?」


「それは、レティシア殿が出発の折、トラヴィス将軍がお腹を下して便所に籠城なさっていたからですよ」


「むうっ、そうだった……!あの時に言われていたのか、数日後に宴会を開いて領主を同士討ちにするというのは」


 腹を下していた時のことを思い出したのか、再び腹部から苦しそうな音を発するトラヴィス。そんなトラヴィスも数秒後には、再び便所に立て籠もってしまうことになる。


「それにしても、面倒だよなぁ。各地の領主の争いごとに首を突っ込まないといけないなんて」


「それもそうだ。だが、エルマー。すでにレティシア殿から次の策は預かっている」


「おお!それは助かるな!」


 レティシアがこうなることを予見して残した次の策は。


「まず、ロベルティ王国の名のもと、これ以上の私闘は禁じるという旨の書状を発し領主に届ける。次に、それに従わない領主を順に始末する。従わなければ、ロベルティ王国の敵として討伐するってだけの話だな」


「口で言うのは容易いでござるが、これまた骨の折れそうなことでござるよ……」


 面倒ごとを見事に押しつけられてしまった。それを嘆く3人であったが、3人が嘆いている頃には、レティシアとナターシャはヘキラトゥス山地を越え、タンデル領まで戻ってきていた。


「レティシア、本当にトラヴィス殿たちだけで後始末が可能なのでしょうか?」


「大丈夫なはずだよ。カルロッタの方も失地奪還に向けて動く力はないだろうから。今のところは、ね」


「だとすると、次に私たちがすべきことは……」


「南が落ち着いている間に、北のことを片付ける。その一択だよ」


 北にはヴォードクラヌ王国を滅ぼしたジェロームとシリルの両名が駐屯している。アマリアとユリアはそれとにらみ合う形で、膠着状態。


 南のカルロッタが静かな今のうちに、北の脅威の方を片付けてしまおうと動き始める、ナターシャとレティシアなのであった。

第110話「捲土重来」はいかがでしたでしょうか?

今回はカルロッタは態勢を立て直す動きに出ていました。

そして、ダルトワ領の守備を任されたトラヴィスはレティシアの血の宴の後始末を押し付けられることに。

はたして、レティシアの思惑通り、南が落ち着いているうちに北を片付けられるのか。

――次回「健全なる精神は健全なる身体に宿る」

更新は3日後、6/15(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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