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第109話 好機逸すべからず

どうも、ヌマサンです!

今回はローランが討たれた後の動きから始まります。

ここからの戦局がどうなるのか、注目していてもらえればと思います!

それでは、第109話「好機逸すべからず」をお楽しみください!

 ローランを討ち取り、北の備えを抜いたミルカとジュリアの両名は、その後カルロッタとも合流し、乱戦の中を駆け抜けていく。


「カルロッタ様、あの先がガレス様の部隊です!」


「ええ、私にもガレス様の旗も見えたわ。ここを突破して、ガレス様を救出するよ!」


 名将カルロッタの指揮の下、将兵一丸となってガレスに猛攻を仕掛けるマルグリット隊へと襲いかかる。


「マルグリット様、カルロッタの旗がこちらに近づいて参ります!」


「挟まれるのはマズい。リカルドにも伝えな、一度包囲を解くってね」


「承知仕りました!」


 迅速に指示を出すマルグリットはあえて、包囲を解き、カルロッタ隊をガレス隊と合流させた。伝令を受けたリカルドも、挟まれるよりは良いと判断。同じく、道を開け、そのことをナターシャのいる本営へと使いを出した。


「そう、ガレス隊の包囲を……」


「ハッ、挟撃を受けるよりは良いと判断なされたようです」


「英断だね。それに、これ以上の攻防は無意味。ナターシャ様が本営に戻り次第――」


 レティシアの言葉を遮るように、馬の嘶きが本営まで達する。


「ナターシャ様、着陣なされました!」


「分かったわ。すぐにここに来てもらうように伝えてくれる?」


「ハッ!」


 レティシアからの伝言を聞き、総大将ナターシャがレティシアの前に姿を現した。そのまま、今後の打ち合わせを始めるのだった。


「レティシア、ローラン将軍が討たれ、指揮が乱れていますが……」


「うん。それはさっき聞いたよ。それに、マルグリットからガレス隊の包囲を解いて、カルロッタ隊と合流させたことも報せが入ったよ」


「包囲を……解いた?」


 ナターシャはどういうことか、すぐには理解できないでいたが、レティシアから聞き、状況も把握できたことで合点がいった様子であった。


「……これ以上、猛獣を追い詰めるのは危険そうですね。第二第三のローラン将軍のような犠牲が出てはマズいですから」


「そうだね。ここは一度、退いた方がいいかも」


 刹那、ナターシャの裁断でロベルティ王国軍は東へと後退。西へ逃げていく帝国軍への追い討ちも行なうことはなかった。


 カルロッタはロベルティ王国軍が攻撃をやめ、退いたことに戸惑いを覚えつつも、この隙に西へと逃れることを優先した。


 結果、ダルトワ領西部の中枢を成す都市、トリテルテアまで退却することに成功。ガレスは7千の兵を率いて、そのまま帝都までひき退かせることを決定し、カルロッタ麾下の精鋭のみ留まることとなった。


 かくしてトリテルテアに陣を構えたカルロッタ。ロベルティ王国軍と戦って生き残った兵は3万5千のうち、2万6千。9千もの数が減っているが、すべてが討ち取られたわけではない。


 負傷して戦場に置いてけぼりとなったものも数に含まれているのである。ガレス隊の死傷者と併せれば、1万2千という前代未聞の数となる。


 対するロベルティ王国軍はローラン隊を中心に8千という数が死傷。それに加えて、ローランを失ったことも、軍政に大きな穴を開けていた。


「そうか、ローランは逝ったか……」


「トラヴィス将軍、私の不手際でローラン将軍を失ったことは申し訳ありません」


「いや、ナターシャ殿。ローランの死は惜しいが、誰かに責任があるわけではない。そう謝らんでくれ」


 戦死したローランの兄、トラヴィスから謝罪は不要と言われても、ナターシャの罪悪感が晴れることはなかった。レティシアもトラヴィスに謝罪を述べるも、ナターシャと同様の言葉をかけられるのみ。


「ノーマン殿も、此度の訃報については」


「あいや、気になさらんでくだされ。拙者とて武人の端くれ。武人として、父上も戦場で死ぬるは本望と心得る」


 トラヴィスに続いて、ノーマンにもローラン戦死についての謝罪がなされたものの、ノーマンも武人として父も誇りに思うだろうと答えるのみで、それ以上のことは何も言わなかった。


「ナターシャ殿、今回の遠征はここで切りあげるのかい?」


「そうですね、ここは全軍引き揚げるとしましょう。将兵にも疲労の色が見えますし、これ以上戦を長引かせるわけにもいきませんから」


 マルグリットの質問へのナターシャからの答えは明確なものであった。しかし、将兵が長期戦によって疲労困憊であるのも事実。さらには、こうまで補給路が長くなってしまっては、物資の供給にも支障をきたす恐れがあるのだ。


 引き揚げると決めてからのロベルティ王国軍の動きは実に迅速であった。すなわち、ダルトワ領の西部の平定は一時取りやめとし、ヌティス城まで撤退。


 カルロッタはといえば、街道各所に要塞を築かせ、守りを固める動きに出た。それだけでなく、ダルトワ領各地から帝国や領主カルロッタへ恩義を感じている者どもが参集しつつあった。


「カルロッタ姉さま。ダルトワ領から続々と兵が参集し、その数およそ1万1千」


「ヌティス城からここまで付き従ってくれている2万6千と併せれば、3万7千ですか」


「これだけの数があれば、もう一合戦……!」


 妹であり、腹心の部下でもあるミルカからの進言に、カルロッタは静かに頷くのみ。今一度決戦を挑むことを明言するような事はしなかった。


 未だに5万を超えるナターシャたちロベルティ王国軍と戦うとは、兵力差を考えれば断言しづらいものもあった。


 ミルカとジュリアの2人を始め、決戦の機運は高まる一方であった。とはいえ、周りが血気にはやっている時ほど大将は冷静さを欠いてはならない。そう、カルロッタは自身に言い聞かせていた。


 こうしてカルロッタが守りを固めていることや、ダルトワ領の各地から続々とカルロッタを慕って兵士らが乗り込んでいるのは、ほどなくしてヌティス城に駐屯しているナターシャとレティシアの耳にも入った。


「レティシア、カルロッタの下に1万近い兵が増えたというのは見過ごせそうにないわね……」


「1万近い数が集まったというのは厄介極まりないけど、不穏分子を十把一絡げに葬れると思えば、もっと集めさせた方がいいのかもしれないね」


 複雑な心境のナターシャに対して、レティシアは明確な答えを示した。さすがのナターシャも驚いたという反応を示すも、不穏分子が各地で蜂起するよりはマシではないかとの結論に至った。


「ここは時間をおいて、手負いの虎が傷を癒やして巣穴から出てくるのを待つ……というのはどうかな?」


「そうね、こちらも態勢を整える必要もあります。一度、王都コーテソミルのマリアナ様にも、戦果のほどと当面の方針について、ご報告するとしましょう」


「それなら、ナターシャ自身で行ったらどうかな?アタシも戻ってやりたいこともあるしね」


「ここを……ダルトワ領を離れるということですか?それはいささか危ういのではありませんか?」


 不安そうなナターシャからの問いかけに対し、レティシアはニヤリと笑みをこぼした。


「何がおかしいのですか?」


「いやいや、悪意はないよ。あくまで虎を誘い出す好餌を用意しようと思っただけ」


 好餌。レティシアの言う好餌とは『ダルトワ領から総大将であるナターシャと参謀レティシアが離れる』ということ。


「レティシアの言うことはもっともです。いつまでも巣穴の外に猛獣が舌なめずりしていては、出られる巣穴も出られませんから」


「はい、ここは離こそ肝要。となれば、誰を残すか……」


「それなら、適任の者が1人います」


 そう言って、ナターシャが推薦したのは他でもないトラヴィス・ハワードであった。彼の愛甥ノーマン、新参者のハロルド・マクミランとエルマーの両名を添え、奪取したダルトワ領の統治を任せることとした。

第109話「好機逸すべからず」はいかがでしたでしょうか?

今回は一度、戦いは決着。

ロベルティ王国軍も帝国軍も痛手を受ける結果となるのか。

ここからの両国の戦いの行方を見守っていてもらえればと思います……!

――次回「捲土重来」

更新は3日後、06/12(月)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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