第108話 虎穴に入らずんば虎子を得ず
どうも、ヌマサンです!
今回もナターシャ率いるロベルティ王国軍とカルロッタ率いる帝国軍の激闘が続きます!
どのような戦いとなるのか、見守っていてもらえればと思います……!
それでは、第108話「虎穴に入らずんば虎子を得ず」をお楽しみください!
「あなたが『漆黒の戦姫』、ナターシャ・ランドレスね」
「そうですが……あなたは?」
「私はダルトワ領主、カルロッタ・ダルトワよ。あなたに手合わせを申し込もうと思って来たのだけど」
周囲で激しい斬り合いが繰り広げられている中、両軍の総大将は巡り合う。カルロッタからの申し出に、ナターシャも武人としてこれを受けた。
初手から全力で挑むカルロッタ。迎え撃つナターシャはカルロッタからの突きを剣で往なし、防御に徹する。ナターシャが実力を見定めているうちにケリをつけたいカルロッタからは、目にも止まらぬ速さで槍技を繰り出す。
そうした槍と剣が幾度もぶつかり合う中で、カルロッタの愛槍である魔槍アヴェルスはナターシャの右頬を掠めることに成功。対して、ナターシャの方も負けじと一太刀酬いる。
お返しとばかりに放たれた一閃は、カルロッタの右の頬に一筋の傷を刻んだ。受けた傷と同じ箇所に切り返すという挑発的な技に、カルロッタはより激しい突きの嵐を見舞う。
こうして互いに類いまれな武勇を誇る両雄がぶつかる中、戦況はさらなる進展を迎えていた。
まず、カルロッタと別れたミルカは重囲の中から味方であるジュリアを救出。カルロッタからの命令を伝えながらジュリアの応急処置を済ませると、共に取って返し、ロベルティ王国軍へ猛然と反撃に出たのである。
「ミルカ!ここはなりふり構わず、全力で行こう!」
「ええ、言われるまでもありません!」
ミルカの槍に纏われる焔。隣のジュリアの大剣に纏われたのは冷気。炎と冷気、相反する属性の紋章使いは、配下の兵たちを鼓舞しながらロベルティ王国軍の陣構えを切り崩していく。
「ローラン様、敵が一直線に我が方へ迫って来ております!」
「おう、まずは慌てずに崩れた陣形を立て直すんだ!でなけりゃ、良いカモにされるだけだからな!」
ポニーテール状に束ねた緑色の髪を揺らしながら、心揺れる兵士たちを叱咤するのはローラン・ハワード。ナターシャ率いる本隊の北側に布陣した彼の前に、異常事態が起こっていた。
それこそミルカとジュリアである。紋章使い2人が力を合わせて強行突破を図っている状況。全軍が目の前の戦に必死である以上、援軍は見込めない。
つまり、紋章使い2人の相手を最悪の場合は自分1人でしなければならない。ここを突破されては元も子もない。それを頭では理解しているが、歴戦の猛者であるローランであっても、足がすくむような思いであった。
「申し上げます!お味方の第二陣、破られました!まもなくここにも敵が殺到します!ローラン様、ここは撤退を……!」
「断る。ここで逃げ帰ったとあっては、武門の名折れ。紋章使いとしての意地もある。断じて、退くわけにはいかんのだ……!」
ローランは長年ともに戦場を駆け抜けてきた愛馬を手繰り寄せ、騎乗。部下たちの制止を振り切って、ミルカとジュリアの両名相手に決死の突撃を敢行した。
「そこにいるのはミルカ・オルトラーニ殿、ジュリア・リーシェ殿とお見受け致した。我こそはローラン・ハワード、この首とって手柄とするがいいぞ!」
突如、目の前に姿を現したローランに戸惑うミルカ、ジュリアの両名。しかし、悠長なことを言っている時間はない。そこで、2人は卑怯とは分かっていながらも、ローランを討ち取るべく斬りかかった。
ジュリアも名の知れた勇将であるが、ミルカはかつてトラヴィスも手を焼いた万夫不当の強者。そんな2人が同時にかかってくるとなれば、さしものローランでも防げるはずもなかった。
しかし、ローランも風魔紋の力を惜しみなく使い、獅子奮迅。しばらくミルカとジュリアの両名を相手に、得物が砕ける寸前まで戦い続けることができていた。
死を覚悟したローランは手ごわかった。ミルカとジュリア、それぞれ80合ずつ獲物同士で火花を散らしてなお、決着はつかなかったのだから。
だが、それも永遠には続かない。
「ハァッ!」
「うぐっ……!」
ミルカ渾身の突きがローランの腹部を貫通。炎を纏った槍を受け、傷口までも焼き切られる。今までに感じたことのない激痛であったが、ローランは絶えてみせた。
「お返し……だっ!」
自らに突き立つ燃え盛る槍を素手で掴んだうえで、ローランは大剣を横へと一薙ぎ。ミルカの鎧の胸元に一文字の傷をつけてみせた。しかし、直後には背後からジュリアの冷気を纏った大剣で斬られたことで、落馬。
落馬する頃にはローランの大剣に纏われていた翡翠色の風は消えていた。命の灯火と共に。
「ミルカ、大丈夫?」
「ええ、このくらいの傷、大したことはありません。少し、驚きはしましたが……」
「自分の体に刺さった槍を片手で握りしめて、もう片方で斬りつけるなんて、私にはできる気がしません……」
「最初から私たち相手に死ぬつもりだったのでしょう。逃げずに向かってきた事は敵ながら見事という他ありません。彼には申し訳ありませんが、このままの勢いで押し切らせてもらいましょう」
ミルカとジュリアの両名は、ローランに一礼。そのままヒラリと駒に跨り、敵中突破を再開。この時には、大将ローランの戦死の報を受けて、ローラン隊は総崩れ。突破するのにさほどの時はかからなかった。
ミルカとジュリアが北側から敵を突破したことをカルロッタにも知らせるべく、一発の狼煙を挙げて、進撃を続ける。
「……2人とも、やったのね」
「戦闘中によそ見ですかっ!」
よそ見をしていたカルロッタ。彼女の首筋目がけて正確無比な斬撃が迫りくる。しかし、これを前腕で真正面から受け止め、弾き返した。
「……今のが鋼魔紋ですか」
「ええ、そんなところよ。今日のところは失礼するわ。このまま続けても、私が死ぬだけだもの」
北部から上がった狼煙を機に、カルロッタとナターシャの一騎打ちは終わった。一応引き分けという形になるであろうが、終始優勢に一騎打ちを進めていたナターシャにとっては苦い結果となった。
「なっ、ナターシャ様、大変です!」
「何事ですか!?」
カルロッタを取り逃がしてからも目の前の敵に剣を振るい続けるナターシャの元に伝令兵が駆け寄って来た。
「先刻、北部より帝国軍へ猛攻を仕掛けておられたローラン将軍が……お討ち死になされました。ローラン将軍の隊は総崩れ、帝国軍に突破を許してしまう結果と相成りました……!」
衝撃的な報告に、ナターシャは頭が真っ白になる感覚を覚えた。だが、戦場の騒々しさがすぐに彼女の思考を今へと呼び戻す。
「なるほど、あの狼煙とカルロッタが北へと逃げ去ったのは、そういうことでしたか。すべて納得がいきました。それで、ローラン将軍を討ったのは何者ですか?」
「目撃した兵士によれば、間違いなくミルカ・オルトラーニ、ジュリア・リーシェの両名であったと」
ナターシャはミルカとジュリアの名を聞き、ローランの不運を呪った。ローランも猛将として名高いが、今回は何分にも相手が悪すぎたのだ。とはいえ、今さらローランの死を呪ったところで戦況が好転するわけではない。
「まずは、態勢を立て直すことの方が優先です。あなたは西の本陣にいるレティシアに敵がローラン将軍を討ち取り、北側を抜いていったことを伝えてもらえますか?」
「はっ、ただちに向かいます!」
ナターシャは参謀であるレティシアに意見を求めると同時に、まずは目の前の帝国兵をどうにかすることを考え始めていた。
第108話「虎穴に入らずんば虎子を得ず」はいかがでしたでしょうか?
今回はローランが戦死する事態に発展。
ロベルティ王国軍の一角が崩れる結果になりましたが、ここからロベルティ王国軍を立て直すことができるのか。
次回のナターシャたちの動きに期待していてもらえればと思います……!
――次回「好機逸すべからず」
更新は3日後、6/9(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!