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第107話 虎口を逃れて竜穴に入る

どうも、ヌマサンです!

今回はカルロッタが全軍で出撃。

大軍同士での激突を制するのはどちらか……!

それでは、第107話「虎口を逃れて竜穴に入る」をお楽しみください!

「ジュリア、ミルカ。ただちに全軍で出陣します!」


「分かりました。すぐに支度をします!」


「か、カルロッタ姉さま、敵が誘っているのは明らかです!なのにどうして……!」


 カルロッタからの言葉に、すぐさま準備に取り掛かるジュリア。対するミルカは自らの考えるところを述べた。可愛い妹からの意見に、姉は悲壮な覚悟をにじませた表情を向けた。


「ミルカ、これは敵の陽動であることは間違いないわ。でも、私たちが手をこまねいてみているだけでは、ガレス様が討たれてしまう」


「それはそうなのですが……!」


「それにね、ミルカ。このまま何もしなければヌティス城は敵中に孤立するだけ。ならば、ここは一度ヌティス城を放棄して、全軍で打って出るべきよ」


 カルロッタも敵の策に自らが乗せられていることは百も承知。そのうえで、出撃することを決断したのだ。それを聞き、ミルカは姉の苦渋の決断を尊重することに決める。それしか、できなかった。


「……分かりました。このミルカ、最後までお供します」


「ありがとうね、ミルカ。最後まで苦労をかけるけど、よろしく頼むわね」


 カルロッタ、ミルカの姉妹は涙を拭い、悲壮な覚悟をもって、城門へと出た。そこで全軍に打って出て、敵の背後から猛襲するという策を伝えた。そして、ここで敗北すれば終わりなのだということも、併せて兵士たちへと語りかけた。


「今なら逃げ出しても誰も咎めないわ。その選択を尊重する」


 逃げ出しても構わない。そうカルロッタに言われて、逃げ出す者はいなかった。今ここに集結している者たちは大なり小なりカルロッタの統治に感謝している者たち。ならば、今こそ良き統治者に対して奉仕する時ではないのか。


 むしろ、兵士たちは奮い立った。何より、故郷を蹂躙した奴らに目にもの見せてやる。奮い立ったのは、そういった怒りの感情も作用していた。


 ともあれ、カルロッタは帝国軍3万5千を率い、その日の夜のうちにヌティス城を発った。全軍で打って出ることも誰一人予想できていなかったことだが、それ以上にカルロッタに率いられた軍は迅速であった。


 元より、帝国三将の1人とまで謳われる名将カルロッタ。不退転の覚悟を持って突き進む彼女の双眸には、街道付近で目下交戦中の敵の背が映っていた。


「カルロッタ様、見えました!」


「よし、敵の血で剣も鎧も紅く染め上げるつもりでいきなさい!総がかりです!」


 カルロッタは馬上で手にした長槍を前へと突き出す。それを皮切りに3万5千の死兵は文字通り血路を開くべく、決死の突撃を開始。


「レティシア、どうやら敵は全軍で来たようですよ」


「う~ん、さすがに全軍で来るとは思わなかったなぁ……。でも、十把ひとからげに葬るには良い機会だよね」


 ナターシャたちロベルティ王国軍は4万8千。そして、正面にガレス率いる1万、背後からはカルロッタに率いられた3万5千。腹背に敵を受けている状況だが、ナターシャもレティシアも動じる気配はなかった。


「今、ガレス隊と戦っているのはマルグリット隊1万2千とリカルド隊4千。他に動かせる軍は……」


「トラヴィス隊9千2百、ローラン隊7千2百。それでもって本隊1万6千。あわせれば、3万2千ってところだね」


「なら、トラヴィス将軍とローラン将軍を左右の備えとして、予定通り迎え撃つということですか」


「うん、今はそれしかないね」


 2人は示し合わせ、背後からの敵を迎え撃つ構えをとった。さらに、レティシアは狼煙を挙げると同時に、エルマーにヴェルナーへの使いを頼んだ。


 エルマーとしても命令とあっては断ることもできないため、これを受けた。そして、向かってくるカルロッタ率いる大軍勢を北から迂回。馬を飛ばして、ヴェルナーの元へと駆けていった。


 一方、迎え撃つ姿勢をとった敵が自分たちと同数だと知った帝国兵たちは勢いづく。これなら勝てる、そんな希望すら見出していた。


 帝国兵たちを真っ先に迎撃したのは、トラヴィスの部隊でも、ローランの部隊でもなかった。カルロッタはおろか、ミルカもジュリアも予想していなかった、ナターシャ本隊だったのだ。


「カルロッタお姉さま、これは……!」


「正面のガレス様を討つための布陣だとすれば、本隊が最後尾にいるのはうなずける。でも、私たちを誘い出したのだとすれば、ずさんすぎるわ」


「はい、それは私も未熟ながら感じ取りました。いくらなんでも、隙だらけではありませんか?」


「それに、本隊が攻撃を受けているのに、他の部隊が慌てて防ぎに来る様子もない。これが一番不自然な点かな?」


 そう。本隊が攻められているとなれば、他の部隊も大慌てで本隊を守るべく集まってくるはずなのだ。なのに、ロベルティ王国軍に動きはない。本隊だけなら、今のカルロッタたちの半数にも満たない以上、壊滅するのも時間の問題。


 それでも助けに来ないとは一体どういうことなのか。カルロッタも頭を悩ませるが、敵の狙いは見えてこなかった。


 戦況は圧倒的に帝国軍の有利。挟み込んでいる時点で、ロベルティ王国軍は圧倒的に不利なのだ。戦況もナターシャ本隊の第一陣は苦も無く突破することができた。


 ――もうすぐで第二陣も崩せる。そんな折であった。戦況に動きが現れたのは。


「申し上げます!敵本隊の左右より新手が!」


「ようやく動きましたか……!それで、敵はどのような動きを?」


「そ、それが、我らの側面へと回り込み、遮二無二突っ込んできた後、背を向けて逃げていったのです……!」


 伝令兵からの報告を受け、カルロッタは馬上から改めて戦場を俯瞰してみる。すると、敵の側面攻撃を受けて、陣形が横へ横へと広がっていた。西へ攻めていっているのであるから、この場合の左右は南北ということになる。


 前置きはさておき、逃げる敵兵を追って、陣形が伸びていっている。それも現在進行形で。帝国兵が追うのを辞めると、ロベルティ王国軍は攻め返してくる。そうしてしばらく白兵戦を繰り広げると、再び逃げ出すのだ。


 この一連の動きが繰り返されることで、陣形は南北に伸び、開戦時よりも東西に薄くなっていた。


「カルロッタお姉さま、こちらの第一陣が壊滅!ジュリアも負傷して後退しているみたいです!」


「じゅ、ジュリアが負傷!?」


 先鋒を務める彼女が負傷したとなれば、帝国兵の心が乱れる。心が乱れれば統率が乱れる。統率が乱れれば戦は負ける。これが勝敗の常。


「カルロッタ様!背後からも敵が!」


 次の報告には背後から敵が来たとのこと。振り返ってみれば、1万近い敵がもの凄い勢いで突進してくる。それは出撃をかねてより希望していたアルベルトとルービンの両隊であった。


 カルロッタは撤退はできないと判断。それからはミルカとともに前線へと手勢を率いて出陣、向かってくるナターシャ本隊と激しい合戦を繰り広げる。


「カルロッタ様、あの黒い馬に跨る女騎士こそ乱賊の首魁!ナターシャ・ランドレスです!」


「あれがナターシャ・ランドレス……!」


 全身の軍装を黒一色で統一した彼女の姿は、まさしく『漆黒の戦姫』その人だった。そんな彼女こそ、幾度も帝国に苦渋を飲ませてきた名将であった。


「ミルカ。ここは敵中突破して、ガレス様と合流するわ。ジュリアを助けて、一緒に敵中を駆け抜けて来てくれる?」


「……正直、難しいかもしれません。でも、できる限りのことはしてみます!」


「頼みましたよ、ミルカ。目下の障害である『漆黒の戦姫』は私が抑え込んでおくから、その間に」


 元より不退転の覚悟でもって今回の戦に臨んでいるカルロッタ。彼女は全軍に生きたい者は前に進み、敵中突破するように号令するのであった。

第107話「虎口を逃れて竜穴に入る」はいかがでしたでしょうか?

今回はナターシャたちロベルティ王国軍が帝国軍の陣形を引き延ばす戦いを展開。

とはいえ、追い詰められた帝国軍の方にも更なる動きが。

一体、どのような戦いの流れとなるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!

――次回「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

更新は3日後、6/6(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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